足場固め
「最後の重要な質問を一つ」
そして勇者ルヴェルはシャンナへ向け告げる。
「組織の長がシャンナの姉……もし捕まえたらどうする?」
「逃がそうなどと考えているわけではありませんから心配いりませんよ」
と、シャンナは即答する。質問が来ることは予期していた様子。
「そこについては国が正式に判断することでしょう……ただ、この事実については秘密にお願いします」
「ああ、わかった……無論、俺達の情報も秘密で頼む」
「ええ、わかっています」
――ユーク達はそれで話し合いを終えて、ひとまず解散となった。シャンナは「何かあれば連絡します」と告げ、ルヴェルとユークは屋敷を出た。
「さてユーク、これからどうする?」
「……とりあえず、俺は他に怪しい人物がいないかを探すよ。王様が後ろ盾になってくれているから、色々な場所に赴けると思うし」
「なるほど……俺の方は仲間や同業者について怪しい人間がいないか調べるか」
「無茶はしないでよ?」
「そこはわかっているさ。バレたら終わりだからな」
笑いながらルヴェルは応じつつ、
「ま、シャンナの調査も時間が掛かるだろうから、ゆっくりやるでいいだろ。組織だってすぐに動くというわけではないだろ?」
「うん、そこは間違いないと思う」
「なら、俺と君は足場固めだな……俺は仲間について。君の方は従者のこととかを片付けた方がいい」
「うん」
「確認なんだが、彼女にも声は掛けるんだろ?」
ユークは問いに対し頷いた――のだが、
「なんだか迷いがあるようだな」
ルヴェルの指摘にユークは再度頷いた。
「なんというか……話がトントン拍子に進んでいるからなんだけど……」
「元々頼れる人が彼女しかいなかったわけだし、手を借りるという選択しかなかった。けれど俺やシャンナの助力があれば……ということか」
「アンジェに尋ねればついていくと迷わず答えると思う……けど、彼女の立場は俺なんかよりもよっぽど複雑だ」
「貴族の家系、か。しがらみというものがあるわけで、そこに首を突っ込むとロクなことにならないのは事実だな」
ユークの懸念をルヴェルは即座に理解する。
「正直、彼女が成した功績を踏まえると従者をやる前の境遇がどんなものであるにしろ、悪いようにはなっていないと思うぞ」
(……そういえば、シャンナさんも何かしらフォローを入れるみたいな言葉を残していたな)
ユークは思考する――とはいえ、アンジェに黙って王都を出ることは、さすがに彼女としても納得はいかないだろう。
(どういう結論になっても、一度話をするべきか)
「ひとまず、話はしてみようと思う」
「ああ、それがいい……と、ユーク。それをやるのは明日以降だろう? 今日、ちょっとばかり付き合って欲しいんだが」
「どうしたの?」
問い返すとルヴェルは笑みを浮かべる――好戦的な笑みだ。
「ユークの方も俺の仲間とは一度顔を合わせた方がいいだろ?」
「まあ、ね。魔力を探って組織の人間がいないのか確認できるし」
「それと共に、ちょっとやりたいことがあるんだが」
ユークは嫌な予感がした、というより表情からして可能性は一つしかない。
「……確認だけど」
「ああ」
「それをする理由は?」
「あー、そうだな。交流を深めた、ということで俺の仲間とも馴染みやすくなる、かな」
「……決闘で?」
結論を述べるとルヴェルは「ああ」と軽く返事をする。
「君の実力を疑っている人間もいる。勇者ロランを捕まえた、という実績はあるが、直接君の剣さばきを見ないと信じられない、という風に考えている人もいるわけだ」
「それはまあ、理解できる……シャンナさんの協力もあったし、上手いこと作戦を立てて捕まえた、みたいな解釈をしていると」
「その通り……もちろん、森での戦いを目撃している人はそんなこともないわけだが、あれだって君の戦いぶりを観戦している人は少なかったからな。この辺りで、ちゃんと同業者に実力を示しておくのも悪くないと思う」
「……確認だけど、どういう理屈をつける? 突然俺とルヴェルさんが決闘なんてやりだしたら、何が起こったと怪しまれない?」
「俺と君が顔をつきあわせて話をしたのは先日酒場で目撃している人は多い。なら、俺の頼みで決闘をしたいということにすればいい」
「それで怪しまれない? 別にルヴェルさんは好戦的ではなさそうだけど――」
そこまで言ったところで、ユークは彼の眼差しがずいぶんと野性味溢れるものだと気付く。
「……前言撤回。そういうこともやっているみたいだね」
「誰彼構わずではないけど、な。ま、君のことを評価して戦ってみたいと思ったのは事実だ」
完全に趣味の領域では――と思ったのだが、彼の提案により同業者と話をしやすくなるだろう、というのは紛うことなき事実ではある。
よってユークは、
「……仮にそちらが望む結果とは違っても、恨みっこなしだよ」
「ああ」
ルヴェルは満面の笑みで応じた。




