組織の主
「組織のことを話す上で、シャンナが動揺するだけの人物」
ルヴェルはシャンナと視線を重ねる。ユークはその様子を淡々と見据える。
「王族でもなければ、勇者でもない……動揺するとなったら、これはもう親族以外に考えられないな」
「……まったく、会話の中で探りを入れるとは、あなた達も人が悪いですね」
シャンナは諦めたように応じる――顔つきから、ルヴェルの言葉を肯定しているのは間違いなかった。
「はい、包み隠さず話しましょう……組織の長は、私の姉である可能性が極めて高い」
「これが露見したらシャンナの立場が危うくなるな」
「だからこそ、どうすべきか対応に苦慮していた」
「ちなみに、なぜ姉だとわかったんだ?」
「配下に付与していた魔力ですね」
(なるほど、俺が感じていた魔力はシャンナさんの姉が持つもの……)
ユークは小さく頷きつつ、会話に口を挟む。
「シャンナさんはなぜわかったんだ? 組織は相当用心深い……わかるような痕跡を残すとは思えないけど」
「姉は自分の魔力を解析されていることは把握していないでしょう……当然です。私が独自に調べているのですから」
「つまり、シャンナさんが単独でお姉さんのことを探していた?」
「はい……元々、十年ほど前に忽然と姿を消してしまった。両親は死んだものとして考えろと告げ、その一方で私は諦めきれなかった……探しているのがバレれば両親から反発を受けるでしょうし、だからこそ密かに探し続けていた……まさか、こんな形で役立つとは思ってもみませんでしたが」
皮肉を込めるような笑みを、シャンナは見せる。
「組織の長が姉だったというのは、私も予想できず困惑しましたし、どうすべきか考えているところですが……とはいえ、組織そのものは壊滅し身動きが取れなくなっているでしょう。それを踏まえると――」
ここでルヴェルとユークはアイコンタクトを交わした。シャンナはそれにすぐ気づき、
「……お二方、どうしました?」
「確認だがユーク、どうだ?」
「……態度からすれば、いいと思うよ」
ここに至りユークも認める。それでシャンナは眉をひそめ、
「何を、ですか?」
「彼が俺に教えてくれたよ。明確な証拠はないが、組織そのものは存続し、間違いなくあんたの姉はまだどこかにいて活動している」
――シャンナはルヴェルの発言を受けて目を見開いた。
「それは、本当ですか?」
「ああ、勇者ロランの行動は活動縮小に際し邪魔な魔物を始末するため、という名目だろうという推測をしている……で、城の中にどうやら組織の手の者がまだ存在している」
さらなる言葉にシャンナの顔に緊張が走る。
「ここに来たのは、手を組まないかという話をしに来たんだ」
「……なるほど、誰が味方で敵かわからない以上、確実に組織の人間ではない存在と手を組み、組織捜索と決戦準備を行うと」
「これだけの説明でそこまで理解するとは、シャンナも十分化け物だな」
肩をすくめるルヴェルに対し、シャンナは微笑を浮かべた。
「なるほど、事情は理解しました……とはいえ、私の方は表立って動くことは難しいでしょう」
「そこは理解している……が、組織の場所を知ることができたなら、何かしら手はあるだろう?」
「……私の姉に関わる話ですし、協力できるのであればしたいですが……と、その前に一つ。勇者ユーク、城内に組織の人間がいるのは確定ですか?」
「謁見した時に確認したよ」
「重臣ですか……とはいえ、名前までは知らないでしょう。容姿などを教えてもらえれば――」
「絵とか描けるけど」
「……絵?」
「うん、似顔絵」
その言葉を受けシャンナは眉をひそめたが、
「……それでは、参考まで描いてもらえませんか」
「わかった。それじゃあ紙と筆を貸して――」
――十五分ほどしてできあがった絵は、恐ろしく写実的でシャンナとルヴェルは驚嘆しじっと絵を眺めるほどだった。
「おいおい、芸術方面も完璧かよ……俺なんて絵心まったくないし棒人間くらいしか描けないぞ」
「私も似たようなものです……」
(なんだか、勇者としての実力を評価された時よりも驚かれている……)
二人の反応にユークの方も戸惑いつつ、話を進めるべく口を開く。
「えっと、シャンナさんは見覚えある?」
「もちろんです……名前を語った場合、調べようとしますか?」
「うーん、微妙かな……俺のことはたぶんマークしているだろうし」
「賢明ですね」
シャンナはユークの言葉に同意した。
「似顔絵が精巧であるため、私にはこの人が誰なのか明瞭に分かりますが、非常に用心深い方であり、なおかつ普段勇者と関わりのある人物でもないため、あなたが探りを入れれば警戒されてしまうでしょう」
「俺が接触を図ろうとするだけで、何事かと思われるってことか」
「そうです。戦士院と接点が少ないため調べるのは難しいですが……密かに、できることを進めていきます」
シャンナの言葉にユークは頷く――ひとまず、今後の方針は決まったようだった。




