従者と試練
「というわけでまず、宿へ戻ろう」
闇夜の平原でパーティーが結成された直後、ユークは従者となったアンジェへそう発言した。
「確認だけど、派遣されたのは君だけだな?」
「はい、ユーク様が警戒するだろうと判断し……」
「俺の従者になること、それ以外に何か指示は?」
「状況を報告をしてほしいと」
(さすがに報告もなしに派遣はしないか)
ユークは心の中で呟きつつ、
「わかった……が、報告書については検分させてもらいたいんだけど」
「検分、ですか?」
「君はたぶん、俺と旅をする出来事を記録していくだろうけど、俺としては流して欲しくない情報があるかもしれないし」
アンジェの表情が強ばる。それと共にどういうことなのか、という疑問に満ちた表情。よってユークは、
「魔の気配……それについてなんだが、このディリウス王国内に存在しているのは観測した。でも現在は、それを捉えられていない」
「それは、潜伏している?」
「あるいは、国外に出たか……どちらにせよ、きちんと調べないといけない。もちろん、俺なりに色々な可能性を考えているわけだけど……だからこそ、この情報は伝えるとまずいかもしれない、と思うパターンが出てくると思う」
「なるほど」
アンジェはあっさりと納得する。すごく真面目で、ユークのことを信頼しきっている様子だ。
(どういう説明を受けてここに来たのだろう……)
その辺りも確認しなければならないか、と思いつつユークは彼女へさらに語る。
「納得はしてくれたみたいだから、話を進めよう。現在俺は戦士ギルドに所属する旅人という立ち位置だ。君は俺についてくる従者という立場でいいか?」
「はい、問題ありません」
「なんと呼べばいい?」
「私は従者ですので、何なりと。あ、ただエインディットの名を告げるのは好ましくないですね」
「何でご令嬢がここにいるのか、という話になるからな……名前で呼ばせてもらうけど」
「はい」
どこか嬉しそうなアンジェ。ユークは一度頭をかきつつ、
「あとは、そうだな……明日仕事を引き受けようかと思うけど、一度君の実力を確認させてもらいたい」
その要求についてはどうやら予想していたらしく――アンジェはすんなり頷いた。
「どのような試練でも構いません」
「試練って……まあいいや、町へ戻り今日は休む。行動は明日からだ」
首肯するアンジェ。そしてユーク達は、ゆっくりとした足取りで町へ戻ることとなった。
ユークは宿泊していたのとは別の宿に入り、そこで一泊。翌日、支度を済ませた後宿を出て、ギルドへと向かう。
「そういえば」
道中、アンジェはユークへと話し掛けた。
「戦士ギルドで登録はされているんですね……その情報があれば足取りを追うこともできたと」
「登録者名は偽名だぞ」
「偽名ですか?」
「ああ、ついでに言うと旅を始める前に登録していた」
アンジェは淡々とユークの言葉を聞く――これがどういう意味を持つのか、理解していない様子。
「そこについては色々考えあってのことだから、報告書には記載しないように頼むよ。ま、いずれ是正するつもりだ。場合によって……国やギルドに頼っても問題ないと判断したら、対応を変えるよ」
「わかりました」
あっさりとアンジェは了承。ユークは全面的に信用されているなあと思っているとギルドに到着。建物の中に入り仕事を探す。
といっても、今回は少し趣が違う――室内には多くの人がいた。先日魔物の討伐があったので、仕事がないかと探しに来ているのだろう。
ユークは依頼内容が貼り出された掲示板へ目を移す。そこには以前と比べずいぶんと多くの仕事がある――内容は主に魔物に関する調査。つまり、以前発生した魔物の出所がどこなのか、あるいは他に魔物がいないか確認をする、といった仕事である。
いつもであればそうした依頼の内、一つを手に取って請け負うのだが今回は違っていた。ユークが目指したのは仕事がある掲示板の横。そこには、
「……それは、賞金首ですか?」
「ああ」
いくつか手に取る――賞金首、とは端的に言えば国や戦士ギルドが脅威と認めた存在のこと。指名手配犯であったり、あるいは凶悪な魔物であったり――それを倒せば一定の報酬が得られる、というわけだ。
ユークはいくつか紙を確認した後、一枚手に取った。触れた瞬間、淡い魔力が漏れる。紙自体に魔力が注がれており、この魔力を用いて魔物や指名手配犯を探してくれ、というわけだ。
そして報酬の支払いは――ユークはギルド証を取り出す。手のひらに乗る程度の大きさを持つカードであり、賞金首の詳細が書かれた紙に触れると、その魔力がカードに移動した。
「それじゃあ、行くか」
「……魔物を発見し討伐したら、カードをかざして魔力を照合すれば依頼達成と認められる、でしたっけ?」
「戦士ギルドに関する情報もバッチリみたいだな……行きがけに今回の相手を説明しよう」
「魔物みたいですが、それを討伐することが試練?」
「道すがらそこについても話すよ」
ユークは紙を戻し、アンジェと共に外へ出た。