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関係性

 町中を歩き、ユーク達が辿り着いたのは一軒の屋敷。大きさはそれなりで、周囲にはもっと豪華絢爛かつ広い庭園を備えた屋敷なんかもあるため、外観からするとこの周辺においては地味に見える。

 場所としては王都の東側。周囲は静かで、貴族などが居を構えている区域のようだ。


「あの」


 と、門の前でアンジェが声を上げる。


「流れでここまでついてきてしまいましたが、私は……」

「アンジェさんについてですが」


 彼女の言葉を遮るように勇者シャンナが口を開く。


「実はここで連れてくるよう、屋敷の主から頼まれているのです」

「私が……?」

「その理由については伺っていませんので、直接聞くしかありません……入りましょう」


 それでアンジェは小さく頷き、揃って歩き出す。案内役の勇者シャンナは玄関まで辿り着くとドアノッカーを叩いた。少しして扉が開き、奥から侍女が現れる。


「陛下の使いの者です」

「どうぞ」


 侍女が中へと促す。ユーク達は彼女に従う形で室内へ。

 内装はシックで調度品の類いもそう多くはない――国王の甥、という話だがその暮らしぶりはどちらかというと地味で質素であるようだ。


(あるいは王族ではあるけど目立たないようにしているとか……?)


 ユークは内心で予想する間に屋敷奥の部屋に辿り着く。中に入ると屋敷の主が待っていた。


「案内役が勇者シャンナとは」


 そう苦笑したのは見た目三十前後の男性。精悍な顔立ちと黒い髪を持つ御仁であり、来ている衣服は礼装のごとくパリッとしている。


「初めまして勇者ユーク、勇者アンジェ。私の名はデュラ=レインペール。陛下の甥――という肩書きを持ってはいるが、基本的に政治との関わりは薄いから、その辺りは注意してくれ」


 柔和な笑みを伴いながらデュラは告げる。


「私のことは名前で呼んでもらって構わない。後で部屋へ案内しよう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「王都での生活で必要な知識は明日にでも教えよう……雰囲気からしてすぐにでも活動し始めたいようだが、まずは足場を固めよう」


 ユークは小さく頷く――組織がすぐに動き出す可能性は低いため、王都へ来てしまった以上はゆっくりやった方がいいというのも同意だった。


「それと、勇者アンジェ」


 ここでデュラは彼女へ話の矛先を向けた。


「君をここへ招いたのは、家に戻って落ち着けば遊びに来てくれてもいいという意思表示だ」

「遊び……ですか?」

「勇者ユークとは主と従者という関係だっただろう。しかし、今日でその関係性は解消される……が、だからといって縁が切れるわけでもない」


 そうデュラは語りながらアンジェへ向け笑みを作る。


「良き友人として、勇者ユークを訪ねるといい。君は勇者ユークと顔を合わせたくない、などと思っているわけではないだろう?」

「はい、そうですね」


 頷くアンジェ――彼女の家のこともあるため断定はできなが、アンジェは多少なりとも動きやすくなっただろうか。


(思わぬ形でアンジェと接触する機会が増えそうな形だけど……いや、まだわからないか)


 少なくともお世話になるデュラから彼女を拒否するという事態にはならないみたいなので、彼女と顔を合わせる手段は構築できそうだ、とユークは算段を立てる。


「さて、話は終わりだが……勇者シャンナ、お茶でも飲んでいくか?」

「いえ、私はここから勇者アンジェをご実家まで送り届けないといけませんので」

「あの、シャンナ様。私は別に……」

「あなたの家に用があるので」

「家に……ですか?」

「具体的な理由は、少々込み入った事柄なので省きます」


 それだけしか語らなかった。ユークにとってどういう意味合いがあるのか疑問ではあったが、アンジェが俺と共に旅をしたことで干渉しようと思った、ということなのだと見当をつける。


(もし彼女の行為によってアンジェが自由に動けるとなったら俺達としては理想的だけれど……)


 ユークが考えている間に勇者シャンナはなおも続ける。


「では、私達はここでお暇しましょう」

「はい……ユーク様、お元気で」

「アンジェも」


 短い会話を行い、ユーク達は別れる。あっけない別れではあったが、


(組織打倒のためにまだまだ戦いは続く。再会はそう遠くないだろうし、あっさりでもいいか)


「では、まずは部屋へと案内しよう」


 内心でユークが考える間にデュラが言う。ユークは「お願いします」と応じ、部屋を出た。


 ――そして、ユークが通された部屋は広めの個室だった。かなり上等な一室で当面ここを間借りするとしても落ち着かない、と思ったりもした。

 その後、デュラは屋敷内を案内していく。その途中で世間話のつもりか彼は王都に関することを喋っていく。ユークはそれに対し適度に相づちを打ちつつ、頭では今後の算段について考え始める。


 玉座の間での光景を思い出す――なぜか。それはあの場に、勇者ロランやログエン王国の騒動首謀者が保有していた魔力を持つ者がいたためであった。


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