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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第三章

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132/200

謁見

 やがてユーク達は王城に辿り着く――白を基調とした重厚な佇まい。見上げるほどに巨大な城。威圧感は相当なものだが、ユークとアンジェは変わらぬ歩調でシャンナの案内に従い中へ入る。

 廊下には赤い絨毯が敷かれ、魔法の明かりによって室内は煌々と照らされている――そして見えたのは、通路に立ち並ぶ騎士達。


(歓待のつもりか……にしてはずいぶんと圧力があるけど)


 ユークはそう評しつつ、同時に自身がやった成果を踏まえ、相応の歓待をしたいということなのかも、と感じた。

 並ぶ騎士達の間を抜け、玉座の間へと辿り着く。扉を抜けると、敷かれた絨毯の横に居並ぶ大臣や騎士達がいた。通路と比べ年配の男性がほとんどであり、ユーク立ちを見て小さく声を漏らす人間もいた。


 そんな中、ユークは並ぶ大臣達を一瞥する――とりあえず顔については記憶し、なおかつその魔力をおおよそつかむ。それらを一瞬でこなしつつ、王が待つ玉座へと近づいていく。

 ユークは横を歩くアンジェが緊張しているのを認識する。ただこれは無理もないと考えた。


(むしろその方がいいだろう。俺と同じようにこの場にいる人の魔力を探るなんて行為をすれば怪しまれる可能性があるし)


 心の中で呟く間に玉座の前に存在する階段に辿り着いた。幅のある三段ほどの階段を挟み、国王と傍に従者と思しき男性が控えている。

 ちなみに王妃はいない。玉座も一つだけ――祭典などめでたい場所であれば国王と王妃が並ぶのだが、この玉座の間においては王妃が座る場所はない――つまりこの場所は政治の場として存在していると、ユークは以前見た本の記述を思い出した。 


「――お連れしました、陛下」


 シャンナが恭しく一礼をする。そこでユークは跪こうとしたのだが、


「ああ、礼は必要ないぞ、勇者ユーク」


 国王はそう声を発した。


「余は二人のことを理解している。儀礼的な自己紹介も必要ない。しかし、ここへ来て少し戸惑ったか?」

「まさかこのような形で陛下とお会いするとは思ってもみませんでした」


 ユークは偽りのない言葉を告げる――謁見する可能性はあるにはあったが、内心ここまでの歓待は予想外であった。

 すると国王はユーク達へ向け笑う。


「どうすべきか議論した際、国の危機を救った勇者である以上は、相応の礼をしなければならないと考えた」

「……国の危機、ですか」

「勇者オルトと勇者ロラン……さらにログエン王国における騒動。これらが表に出ることなく、時間が経過していたら……どうなっていたかはおぼろげにも予想はつくだろう?」


 国王の言葉にユークは頷く。


「はい、おそらく国家を揺るがす大事件になっていたでしょう」

「うむ、それを大きな被害もなく解決できたのは、間違いなく勇者ユーク……貴殿のおかげだ」


(――こんな勇者のなりたてみたいな少年に、国王は最上級の賛辞で応じている)


 ユークはさらに思考する。単純にユーク自身を評価しているだけではなく、後方に立ち並んでいる臣下達に示している。


「今回の活躍により、国としては何かしら礼をすべきだと考えている」


(礼をしたい、ではなくすべき、か)


 後方にいる重臣達の気配は変わらない。ここまでの話はちゃんと議論した結果、ということらしい。

 ここでユークはどうすべきか一考した後、


「いえ、ただ勇者として活動しただけですから」

「だとしても、正式に国に所属しているわけでもない。言わば冒険者稼業としての活動の範疇だ。故に、相応の報酬はあってしかるべきものだろう」


 なるほどとユークは納得し、さらに思考する。


「……確認ですが」

「うむ」

「その報酬とは、自分とアンジェ二人分ですか? それとも、別々という形ですか?」

「貴殿としてはどちらを望む?」

「可能であれば別々に。アンジェと自分では、報酬として得たいものは違うと思いますから」

「いいだろう」


 国王は承諾する。横でアンジェの気配が変わり、ユークは何やら慌てているのだと理解した。そこで、


「ただ、報酬内容については後日でも構いませんか? 今言ったことは自分自身の一存なので、アンジェはすぐに回答できないでしょうから」

「ああ、いいだろう。勇者アンジェの家へ後に伝えよう」


(これでアンジェの方は問題ないかな)


 ユークが心の中で呟くと、国王が今度は訪ねる。


「では、勇者ユークは今この場で伝えると?」

「はい」


 明瞭な返事に国王はユークを注視する。横にいる勇者シャンナも何を言い出すのかと注目する。

 後方にいる重臣達も似たような視線――この場で言う、ということは間違いなく事前に用意していたということだろうと予測はできるはずで、ならユークが求めるものは何なのかと注目している。


 そうした状況の中で、ユークは国王を見据える――無論、答えは事前に用意していた。ただこうした場で言う予定はなかったが――そう思いつつ、ユークは国王へ向け口を開いた。


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