騒動解決の礼
そして――ユークは王都へ向かう途中で迎えが来るかもしれないと考えていたわけだが、それが見事的中する結果となる。
「気配がするなあ」
次の宿場町へ辿り着くより先に、ユークは一つ呟いた。
王都まであと数日といったくらいの場所で、どうやら迎えが来たらしい。
「ただ想定よりも遅かったかな」
「もっと早く迎えが来ると?」
「報告書が届いた時点で動き出してもおかしくなかったからなあ……ま、迎え入れる準備をしていたとかそういう可能性もあるけど」
ユークは呟きつつ町のある方向へ目をやる。
「アンジェ、答えは出した?」
「すみません、まだ……」
「ま、いいさ。ひとまず連絡手段の確保を優先かな。アンジェ、誰が敵か味方かわからない以上、組織のことは絶対に喋らないように。組織のことを聞かれても、終わった話として応じること」
「わかりました……が、連絡手段については――」
「家に戻ったらどうなるかわからないか」
神妙な顔つきで頷くアンジェ。ここは仕方がないか、とユークは思いつつ、
「わかった、まあなんとかして顔を合わせる機会を作るよ」
「はい……」
そうしてユーク達は町を訪れる。そこにいたのは、
「……予想以上の歓待ですね」
そうアンジェは言った――ユーク達を待っていたのは多数の騎士。そして戦士院の長であるシャンナだった。
「俺達の方が先に町を出たけど……先回りされたか」
「お二方の旅はゆっくりでしたからね」
「出迎えってことで、いいのかな?」
「ええ、私がご案内します」
騎士を伴い勇者シャンナはユークへ語る。
「ですが、その前に一つ……勇者ユークと勇者アンジェの二人、騒動の解決に導いた立役者として、国としても大変感謝しています」
「それは良かった……けど、他にも国を脅かす敵はいる」
「魔物など、ですね……とはいえ、まずは騒動を未然に防げたことを喜びましょう。王都でどうか、ゆっくりと休息を」
「ちなみに、俺達がどういう扱いになるとか聞いてる?」
ユークの問い掛けにシャンナは笑みを浮かべる。
「多少は。しかし心配はいりませんよ……詳細は後々語るとして、まずは王都へ向かいましょう」
ユークは頷き、アンジェと共に歩き出す。騎士を伴いながらの移動であるため、なんだなんだと町の人々が注目する。
「勇者ユークとしては、今後どうしたいのかという展望はありますか?」
ふいにシャンナが問い掛ける。声音からして雑談しようくらいの雰囲気であった。
「うーん、特にないけど……俺としてはまだまだ動き回りたいかな」
「率先して前線へ向かうと」
「そんなところ……ただまあ、さすがに単独で動くなんてのは無理か」
「今回の一件、国側の人間を完全に信用しきれない、と考えた上での行動だったと思います」
――実際はただの家出なのだが、ユークは話を合わせた方がいいとして頷く。
「組織が壊滅した以上、そういった懸念は取り除かれたと考えていいでしょうし、もっと頼っても良いかと思いますが」
「うん、そうだな」
相づちをしつつ、ユークはここで別のことを口にする。
「アンジェについては……今回、なし崩し的に従者となってもらったわけだけど」
「勇者アンジェについては、おそらく当主が今後どうするか方針を決めることになるかと思います」
(まあそれは当然か)
今回の騒動で助力した一人とするなら、今後も勇者ユークの従者として活躍させる、という判断をする可能性がゼロではないが――
(どうしようか……例えば、王都にいる間に手を貸してくれたお礼に挨拶へ行って彼女と顔を合わせる……そうしたやり方は思いついたけど……例えば従者として今後も手を貸して欲しい、と主張して受け入れるのだろうか?)
ユークは内心分の悪い賭けではないことを認識しつつも、ただ単純にそれを要求しても認めてはくれないかもしれない、と考える。
(例えば、アンジェが従者でなければいけない……という風な雰囲気を見せれば認めてくれるかもしれない。ただその場合、当主が俺とアンジェを組ませることで政治的にメリットがある、という状況に持っていかないと辛いかもしれない)
仮に、アンジェの父親が大変優しい性格で、ユークの要求をあっさり認めてくれる可能性はある。一方で、権力を手に入れることに固執しているようなら、利があると示さなければ靡かないかもしれない。
(色々と想定して考えておくか……)
「彼女のことが気になりますか?」
シャンナが疑問を呈す。そこでユークは、
「悪いようにはならないだろうけど、協力してくれたわけだし、俺としても気を揉むのは当然だと思わない?」
「なるほど……家のことはさすがに介入できませんが、彼女の望むような形で活動することができれば家の評価も上がる、という風に仕向ければ問題はなさそうですね」
――その言葉でユークは多少ながら驚いた。ユークの言動によってシャンナは何かしら動いてくれるようだ。
それはきっと、騒動解決のお礼という意味もあるのだろう――そう考えつつ、ユークはシャンナと共に王都へ歩み続けたのだった。




