決断の時
勇者ロランが捕まったという話は瞬く間に伝わり、勇者オルトが組織に加担していたという事実よりも遙かに大きい衝撃が勇者達にもたらされた。
一方でユークとアンジェは勇者ルヴェルあたりから詰問されるのも面倒だ、ということで処理はシャンナに任せ町を出ることにしたのだが――
「衝撃的な結末でしたが」
と、町を出る際にユークは一度シャンナと会話をした。
「とはいえ、事件そのものはこれで完全に収束するでしょう……この結果に納得がいかない者、信じられない者、様々出るとは思いますが」
「そこはまあ、俺達でどうにかできるわけでもないから」
「そうですね……事態解決に協力して頂きありがとうございます……ただ、勇者ユーク、一つ質問をしても?」
「どうぞ」
なんとなく問い掛けられる内容を推測しつつユークは応じる。
「……二つの国にまたがって騒動を引き起こした組織。それがまだ存続していると思いますか?」
「さすがに大量の人が捕まったわけだし、組織そのものは潰えていると考えてもいいと思うよ」
そうユークは返答する。
「もちろん、幹部クラスの人間全てを捕まえられたかについては疑問だけど、その辺りは国がじっくりと調べるしかないよね」
「そうですね……今回の騒動、かなり根深い話のようですし、間違いなく国も大々的な調査を継続するでしょう」
そう語るとシャンナはユークへ向け一礼した。
「私もしばらくは組織関連の仕事に従事することになるでしょう。もし再び顔を合わせるようなことがあれば、是非ご協力を」
「そういうことがないことを願いたいけどね」
――そんな会話をこなし、ユークはアンジェと共に町を出た。
「勇者ロランは捕まえられましたが」
街道を進み少し経過した時、アンジェが口を開く。
「組織に繋がる情報については……まだまだ足らないですね」
「そうだな。ただ、勇者ロランと戦った際に魔力関連の情報を色々と手に入れた。それをとっかかりにして調べていこう」
「わかりました。とはいえ、何か有力な手がかりがあるのですか?」
「組織は傀儡の大半を手放して潜伏している。けれど、完全に情報網をシャットアウトしたわけじゃないだろう。勇者ロランだって組織幹部と通じていただろうし、現在も組織とやりとりしている人間はどこかにいるはずだ」
「そういう人物を密かに見つけ、泳がせて拠点を暴くと」
「そういう方針になるかな……勇者ロランから得られた魔力から、組織に関連する人物を見つけることはさらに容易になった。相手が戦闘能力などを持たない人物であるなら、動向を観察して場合によっては敵拠点を突き止められるかもしれない」
「わかりました……が、ここで一つ問題がありますね」
と、アンジェはユークに対し語り出す。
「組織が残した情報源……組織内で重要な人物というのは、地位の高い人間である可能性が高い」
「そうだな。貴族でも上位に位置する人とか……だからまあ、積極的にそういう人を調べていくのなら、今の動きを変えないといけない」
ユーク達は現在旅をしている。組織が残した情報源――それが政治中枢に携わっている者であったなら、旅をしていてはいつまで経っても辿り着くことはないだろう。
「決断すべきタイミングだな」
「決断……旅を続けるか否か、ですか」
「ああ、一度シアラの所へ戻るという選択もあるけど……」
「組織は勇者アルトや勇者ロランといった人物を引き入れている……お二方はディリウス王国出身かつ、この国を中心に活動していました。ならば、情報源についてはディリウス王国が保有している可能性が高いでしょう」
アンジェの指摘にユークは頷く――つまりログエン王国で調べるよりも、ディリウス王国内で調べる方が事件解決に繋がる可能性が高い。
そしてユークとアンジェは、調べられる――組織を壊滅させた事実に加え、組織に加担していた勇者を成敗。その二つの功績があれば、ユーク達は国の中枢にいる人間と顔を合わせることは可能ではないか。
ただしそれは、王都へ向かうことを意味している。調べ終えたら旅を再開すればいいわけだが――
「……なあアンジェ」
「なんでしょうか」
「仮に情報を集めに王都へ向かうとしよう」
「はい」
「その後、別所に赴く必要が出た……というケースになった場合、王都から出られると思うか?」
問い掛けにアンジェは難しい顔をする。
「どう、でしょうね……そもそも私達は王都へ来るようやんわりとですが手紙で書かれているわけですし、また王都から出られたら面倒だ、と考え警戒される可能性はありますね」
「あるいは組織と手を組んでいる貴族が俺達を王都に留まらせるよう工作する可能性もありそうだな」
「私達は政治的に無力ですし、そういう手段で仕掛けられたら対処のしようがないですよね」
ユークとアンジェは歩を進めながら悩み続ける――そうしてこの日は夕刻に宿場町へ辿り着き、休むことにしたのだった。




