支援役
先手は勇者ロラン。凄まじい速度で一閃し、ユークはそれを真正面から受けた。
森の中にそぐわない金属音が周囲に響いた直後、ユークとロランは鍔迫り合いとなる。その間にアンジェは一歩後方に引き下がり、両腕に魔力を集め始めた。
「なるほど、従者は支援役か」
ロランはすぐにアンジェの動きについて意図を察し声を上げる。
「強化魔法か、俺を足止めするのか……どちらにせよ、放置して良いものではなさそうだ」
「なら彼女を狙うか?」
ユークの問い掛けに対しロランは一度剣を弾き距離を置く。
それに対しユークは足を前へ。剣を放つがロランは冷静にそれを弾く。
「ふむ……」
声を上げながらロランはどう動くか考え始めた。それと共にユークは一つ思い出す。それはロランとの交戦前、アンジェと作戦を打ち合わせた時のことだった――
「今回アンジェには支援役をお願いしたい」
彼女自身、勇者ロランと戦うのは厳しい、と判断したためユークはそう提案した。
調査中の出来事であり、夕食をとっている最中に改めて話し合いを行う。
「具体的には拘束魔法とか、あるいは俺に対する強化魔法とか」
「ユーク様に対し強化魔法はわかります。しかし、拘束などが成功するかどうかわかりません」
「そう気負わなくてもいいさ。足止めできて決着がつけばいいけど、相手が相手である以上はさすがに厳しいと思うから」
ユークの言葉にアンジェは頷く――勇者ロランの実力は魔物との戦いだけで判断することはできない。勇者に関することを調べる間に彼の実力について同業者から情報を収集したが、全貌を把握することは当然ながらできない。
「わからないならわからないなりに戦う……ただ当然戦略は必要だ」
ユークはそう述べると、
「最初に打ち合った時に、俺はある程度力量を把握できるように頑張る。その段階でどういう戦法をとるのかについて、魔力を発する度合いでアンジェに知らせる」
「度合い……ですか」
「あくまで魔力量とか剣を打ち合った時に感じる力量とかで、援護の仕方を変えて欲しい」
「わかりました……ただ、最強格の勇者ということで、気配を隠す……力量を悟られないようにするという可能性もありますが」
「うん、そういう場合も予め伝えておく。その場合の援護は――」
ユークはアンジェに内容を語っていく。アンジェはそれに頷きつつ、
「わかりました、戦略についてはここまで明示されたのであれば私としても動けますし、問題は出ないと思います……残る懸念は魔物ですか」
「そこは索敵を入念にやっておくしか方法はないかな……ある程度町から離れ、周囲に魔物がいないタイミングで仕掛けることにするよ」
「そうですか……ユーク様、勝てるでしょうか?」
「そこについてはわからない」
ユークは肩をすくめながら応じる。
「勇者ロランがどれほどの実力か……確実なことは言えない。ただ、ここで負ければ」
「負ければ?」
「組織側は警戒し、尻尾を捕まえることはできなくなるだろう……つまり、組織が本当に倒すことができるかは、俺達の戦いに委ねられた」
その言葉にアンジェの表情が引き締まる。
「最善は尽くす……が、相手は最強格の勇者。どうなるかはわからないが、俺達は死に物狂いで勝たなければならない」
「正念場ですね」
「ああ、アンジェも覚悟はしてくれ」
「……もし負けた場合、私達は殺されるのでしょうか?」
「その場で斬り捨てられ、国側は犯人探しを開始する……勇者ロランとしては微妙だな。ただ、口封じのためにということであればそうあってもおかしくはない。まあそう町から離れていないし、逃げることは可能だろうけど」
「私達が危害を加えようとした、ということで噂が立ってしまう可能性もありますね」
「そうだな……ま、おそらくその場で俺達を処理しようとする可能性の方が高いし、ここまで考える必要性はないかもしれないな」
「……負ければ、組織が全てを壊すでしょう」
「ああ、そこは間違いない……この国も、ログエン王国も全て」
つまりそれだけのことが勇者ロランとの戦いに懸かっている――アンジェは緊張を隠すことが出来ず一度大きく唾を飲み込んだ。
「作戦開始までにやっておくことはありますか?」
「可能な限り情報収集だな。正直、作戦まで日はないから修練をしてもあまり意味はないだろうから」
「勇者ロランに関する情報を得ることが一番というわけですか」
「ああ、ただ孤高の勇者であり、同業者でもわからないことが多いみたいだから、望みは薄いかもしれないけど……でもそれは相手も同じだ」
「私達の能力も、知られていないと」
「そうだ。互いに情報がない状態……これがどちらの有利に働くかはわからない。俺達としては二対一という数に優位を見いだしつつ、戦うほかないけど……相手だって警戒はするはずだ。戦いになったら序盤は探り合い、能力を見極め次第――という展開になるかもしれない――」
 




