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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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今がその時

 やがて、勇者ルヴェル達が騒動の首謀者――魔物を使役していた犯人である勇者を捕らえることに成功した。その人物は組織の構成員だったらしく、組織としてはこの人物を生け贄として捧げて幕引きを図るということらしかった。

 目的としては他の組織への売り込みとのことで、最終的に森にいた魔物達は討滅されてしまった結果、彼としても売り込み自体が失敗という形となり、なおかつ捕まってしまうというマヌケな結末――のように見えた。


 犯人が捕まったことによって勇者シャンナも事件そのものは解決、ということで事後処理の後に町を離れた。結果、勇者ルヴェルを始め他の勇者達も町を離れる算段となり、ユーク達としては残る時間が少ない状態となった。


「ユーク様、どうでしょうか?」


 調査についてある程度区切りがついた段階でアンジェが問い掛ける。


「明瞭な証拠と呼べるものはありませんが……」

「そうだな……ただ、俺達が呼び掛ければ素直に応じるとは思うし、もう時間もない以上はやるしかなさそうだ」

「……ユーク様、実際にことを起こしてどうなりますか?」

「まず、この一時で組織が存続している、という結論にはならない。俺達がやっていたのはあくまで真犯人探し……事件に違和感を覚えて独自に調べた結果ということになるだろうから、俺達の行動によって組織のことを調べている、なんて推測はされないと思う」

「当該の人物にその辺りを質問されても真犯人探し、で返答するわけですか」

「そうだな」


 肩をすくめながらユークは応じる。


「問題は、当該の人物と戦闘になった場合だ」

「勝てるかどうかもわかりませんよね」


 ――魔物討伐において当該の人物の技量なども確認はしている。けれどそれが全力だという根拠はなく、ユーク達が戦えば手痛い反撃を食らう可能性は十分ある。


「戦闘にならない、という可能性はありますか?」

「うーん、さすがに難しいかな……まあ明確な証拠があるわけじゃないし、どうなんだと詰問してもはぐらかされるだけで終わってしまう、という可能性も一応ある」

「その場合、私達の評価は下がりそうですね」


 ――仮に、当該の勇者がユーク達に疑われたと吹聴されれば、発言力は向こうの方が高いためユーク達の立場が微妙なものになる。

 今回の騒動でそれなりに勇者と交流をしたため、良くない噂が流れればユーク達としても不利益が生じる――のだが、


「たぶん言わないと思うよ」

「それは、何故ですか?」

「根拠は二つ。一つは俺達はシャンナさんと交流している……先の魔物討伐でも俺達とシャンナさんが話し合っている姿は結構な勇者が見ていたはずだ」

「あの方と繋がりがある……ということで、一定の信用を得られていると」

「なおかつ、国と繋がりがある……それを踏まえると、俺達に対しネガティブな噂を流しても自分が負けるかもしれない……なんて可能性を考えて二の足を踏むと思う」

「なるほど……もう一つは?」

「この話題、深掘りされると組織が存続しているかもしれないと考える人が出てくるかもしれない」

「そこは触れられたくないでしょうし、確かに言わない可能性が高そうですね」

「俺達が動いているという事実から組織側に存続を疑われているのでは、と怪しむ危険性はある……でも、組織に近づくためには多少なりともリスクをとらないと」

「今がその時、ですか」

「当該の人物は間違いなく組織の中枢に関わっている人物だろうし、大きな手がかりであることは間違いないからね」


 そこまで言った時、アンジェは一つ問い掛ける。


「戦闘に入り勝利した場合、身柄は国へ引き渡しますよね?」

「ああ」

「私達はあくまで騒動の真犯人を探した結果という形で当該の人物と話をするわけですが……その中でどういうやり方で組織に近づこうと?」

「魔力を採取する」


 即答した俺に対しアンジェは眉をひそめ、


「魔力、ですか?」

「ああ。ログエン王国の騒動で情報を得たわけだが、もう少し情報が欲しい……幹部クラスだとすれば、当該の人物は敵の本拠にその魔力を残している可能性が高い」

「なるほど、そこから……直接尋問するといったことができないのはもどかしいですが」

「現段階で直接的な動きをするのはまずいだろうから、今回はこれで……それに、だ。いずれ国にも協力を要請することになる。ここで当該の人物を捕まえておけば、その段になって改めて聞き取りをするなんてやり方もできる」

「問題は、逃亡の懸念ですが……」

「そこは国に頑張ってもらうしかないな」


 ユークは肩をすくめつつ言及した後、


「それじゃあ、作戦を実行に移そう。件の人物とは一応交流もあるから、話し掛けるのは問題ないけど……誘いを断られたら、改めてどうするかは考えよう――」


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