魔物討伐完了
ユーク達が後方で勇者の動向を観察する間に、魔物との戦いについて大勢は決まった。最前線で戦う勇者ルヴェルと勇者ジスト、そして勇者ロラン――文字通り現役勇者における最強格の面々によって、魔物達は駆逐されていった。
また漆黒の魔物と純白の魔物が今回出現したが、それを倒して以降は紅と青という二種しか現れておらず、勇者達は難なく倒すことができた。
結果として魔物の数はさらに減っていき――その間にユーク達は怪しい動きをしている勇者がいないかを確認すしたのだが、
「あからさまに、という人物はいませんね」
アンジェはそう感想を述べる。ユークもそれに同意し、
「戦闘中だから魔法を使う、ということで魔力を発していても見分けがつかない……魔物達に指示を飛ばす魔力の流れがつかめればと思ったけど、それも判断が難しそうだ」
「探すのは難しそうですね」
「ああ……シャンナさんの観察が上手くいくことを願うしかないな」
「……ユーク様、組織はまだ崩壊しているわけではありませんよね」
ふいに、アンジェが問い掛ける。
「ここで騒動の首謀者を捕まえても、捕まえなくとも……組織的には同じですよね?」
「そうだな。傀儡となる人間を捨てたことを踏まえると、今回の人間……その立場はどんなものか一考の余地はあるけど、まあ組織のことだから捕まっても問題は無い、というくらいのものだとは思う」
そこまで語るとユークは声のトーンを落とす。
「というより、これだけ勇者がいる以上は犯人は捕まるという前提で動いていると考えるべきか」
「なるほど……」
「それに、組織が崩壊したのに魔物を残したままだとさすがに色々と怪しまれる……だからここはあえて勇者達に処理させておく、なんて見方もできるな」
「そうであれば私達は敵の手のひらの上、ということになってしまいますが……」
「けれどまあ、魔物は殲滅して組織の戦力は減らしたんだ。悪いことばかりじゃないさ」
ユークが楽観的に語る間にいよいよ戦いは最終局面を迎える。魔物の数が激減し、さらに漆黒の魔物が現れることもなく――けれど同時に誰が指示を送っているのか、という点についても不明のまま、観測できた魔物全てを討伐することに成功した。
勇者達が息をついている中、ユークは前線で戦っていた勇者ルヴェル達と合流。
「どうだった?」
「誰が指示を送っていたのか、とかはわからなかったよ」
「そうか。逐一命令を出しているのかは不明なままだが、勇者達の中にそういう人間はいなかったのかもしれないな」
ルヴェルはそう結論を出しつつ、
「ま、そういう人間がいるのか調査を含め、その辺りはゆっくりと考えるさ……とりあえず、これで終わりでいいよな?」
「それで問題ないな」
ルヴェルの発言に対し勇者ジストが応じる。
「シャンナから通達が来て、仕事は終わりになる」
「厄介な魔物はいたが、犠牲者はゼロだったし最善の結果だっただろう」
「気持ちの良い終わり方ではないが、後は国の仕事か」
「場合によっては俺も手を貸す気でいるが、ジストはどうだ?」
「……別に付き合ってもいいが、やれることは高が知れているぞ」
肩をすくめながら話をするルヴェル達。一方で会話に口を挟まないまま勇者ロランはこの場を後にする。
ユークは声を掛けようか一瞬迷ったが、躊躇している間に彼はスタスタと歩き去ってしまった。
「……相変わらずだな、アイツは」
と、勇者ルヴェルはロランの後ろ姿を見ながら呟く。
「勇者ユーク、ロランのことは気にしなくていいぜ。アイツはどんな戦いでも基本、態度は変わらないからな」
「……ずっと、同じテンションだと」
「その通りだ。怒り心頭という姿を見たこともないし、かといって笑っている姿もほぼ見ない……とはいえ仕事はきっちりこなす。そういう意味では信用できる人間なわけだが」
と、そこまで語ると彼はため息を漏らす。
「愛想良く接することはできないかと尋ねたこともあるが、残念ながらできそうにない」
「……そう」
「ま、もう一度言うけど気にしなくていいぜ。勇者の中にも色々なタイプの人間がいる、というだけの話だからな」
そう言った後、勇者ルヴェルは仲間と共に歩き出す。勇者ジストもまた同様であり、その後少し間を置いてユーク達も歩き出す。
「……ユーク様」
その中で、アンジェが一つ言及する。
「組織……今回の事件に関する首謀者が最強格の勇者であるというケースが最悪の想定でしたが、それはどうでしょうか?」
「少なくとも怪しいものは何もない。とはいえ、相手が最強格の勇者である以上、仮に嘘をつかれていても俺の能力でも看破は無理だろう。ただ」
「ただ?」
問い返したアンジェにユークは一つ告げる。
「……ログエン王国の騒動で得た魔力の情報。それに酷似している人物は、いた」
「それは……つまり……」
「けれど確定じゃない。多少なりとも調べる必要があるだろうな――」




