次なる策
勇者ルヴェル達が魔物へ突撃を開始して、多少なりとも時間が経過した時、ユークはアンジェと友に勇者シャンナの下へ戻り報告を行う。
「なるほど、敵のあぶり出しですか」
そして彼女はルヴェル達の戦い方について納得した様子だった。
「ならば騎士達も協力を……勇者ユーク、現在までに怪しい動きをしている人は見つけましたか?」
問い掛けにユークは首を左右に振る。
「残念ながら何も」
「さすがにそう簡単に見つけることはできない……というより、勇者ルヴェルの動きが変わったことで向こうも気付いたのかもしれません」
と、シャンナは何事か察して頷いた。
「ではこちらは勇者ルヴェル達の行動を補完する形で動きましょう」
「補完?」
「勇者ルヴェルは魔物を使役する存在の動きを捉えるため……つまり、魔物に命令を与えている手法が魔法か何かだと判断するためにリスクのある動き方をした。それ自体は有効だと思いますが、魔物の動きなどを考慮するとそれだけで尻尾を出すとは思えない」
「それは……敵が思慮深いということ?」
ユークが質問するとシャンナは「まさしく」と応じる。
「その通りです。なぜ勇者ルヴェルが動きを変えたか……その狙いが魔物を使役する自分自身であるとわかれば、一転魔物に指示を出さなくなるでしょう」
「けれどその場合は当然、戦いには勝てない……」
「ええ。ただ、今回国が動員した勇者の面子を考えれば、勝利することはほぼ無理だった……それを踏まえれば、魔物を犠牲にしても自分は生き残るために動く、という判断をしてもおかしくはありません」
「……敵の目的は何だと思う?」
「私は次の計略に対する仕込みだと考えています」
と、勇者シャンナは明瞭に答える。
「敵はおそらく人型の魔物を生み出した組織の残党です。そしておそらく、何かしら研究施設などを組織から引き継ぎ、壊滅後も研究を進めている……今回の騒動は魔物の能力が勇者達にどこまで通用するのか、というテストの意味合いであれば、魔物を犠牲にするのは当然の話でしょう」
「つまり、魔物の能力を確認し、もっと大きな作戦の準備をする」
「はい。特に漆黒の魔物……その能力を確認しておきたかったのかもしれません」
――組織は壊滅していないが、この騒動の目的は勇者シャンナが語った通りだろうと予想はできる。
「もっとも、検証をしてその後に何をするのかまではわかりませんが」
「……やっぱり組織壊滅に対する報復とか?」
「正直、そこについては懐疑的です。むしろ今回データを取得し、別の裏組織に魔物を売り込む、とかの方がよほど現実的かと思います」
ここは勇者ルヴェルなどと見解は同じか、とユークは思う。
「原因については推測しかできませんから、このあたりにしておきましょう……とにかく魔物はまず間違いなく誰かに使役されている。それは壊滅した組織の構成員……この二つは確実でしょうから、当該の人物を捕まえるべく動きましょう」
「何か案が? さっき、勇者ルヴェルの動きを補完すると言っていたけど」
「はい、この戦いの最中に相手がボロを出す可能性は低い……ですが勇者ルヴェルが動いたことで多少なりとも動揺を誘ったことでしょう。間違いなく誰かが魔物を使役していると勘づかれた……と、相手は察していてもおかしくはない。ならば動きに変化が出る可能性は十分ある」
「……もしかして、勇者達を監視する?」
その問い掛けにシャンナは笑みを浮かべ、
「あくまで動向を調べるだけです。四六時中、動きを監視するわけではありませんよ」
「つまり、作戦後密かに森とかに赴く勇者がいたら明らかに怪しいと」
「はい、そういう人物がいないかを確認しましょう……とはいえ、町に戻ってからやるのでは遅い。今から作業を開始しましょう」
そう述べるとシャンナは突如魔力を高めた。次いで魔法を発動させ、生じたのは――大量の鳥。
それらは当然ながら全て使い魔――つまり、これらを用いて勇者達の同行を観察する。
「上空へ飛ばして勇者達の動きを捉えます……何か怪しい動きをしていたら勇者ユーク、連絡を」
「わかった」
承諾し、ユーク達は動き出す。使い魔による観察――とはいえ、上空だけでは気付かないこともあるだろう。
「俺達は地上で勇者の観察を」
「はい、お願いします」
シャンナは告げながら作業を進める。その様子を見ながらユークはアンジェと共に前線へ向かう。
「勇者ルヴェル達の援護に向かいますか?」
「いや、漆黒の魔物を倒しきるだけの力があるわけだし、俺達の出番はないと思う」
ユークはアンジェに答えつつ、
「とにかく勇者の観察をしよう……もし漆黒の魔物が大量に出てきたら、前線に向かうということで」
「銀の魔物については?」
「戦闘能力はなさそうだし、漆黒さえ倒しきればおそらく影響はそこまでないと思う。ここは敵の動向を含め、臨機応変に動くとしよう――」




