発生源
勇者ルヴェルの方針によって、ユーク達は改めて動き出した。その指示については、
「とりあえず漆黒の魔物を警戒しつつ、勇者ユークは同業者の様子を観察してくれ。怪しい動きをしている人間がいたら、報告を」
「俺が?」
「君は人の動きなどをすぐ察することができるみたいだからな」
というわけでユークは一度後方へ。その道中で勇者が戦う姿を確認するが、怪しい動きをしているような人物は見受けられない。
「ユーク様」
そしてアンジェが周囲に人がいないことを確認し問い掛ける。
「勇者ルヴェルは何かするつもりのようですが……」
「動きを変えて魔物に指示を出している人間をあぶり出そうとしているみたいだけど、そのやり方までは聞いていないしお手並み拝見かな」
「犯人については……」
「もし独自に発見できたら泳がせてもいいかなと最初考えたけど、勇者ルヴェルの様子だと捕まえる気みたいだし、たぶんそういう方向性になるかな」
「ユーク様は捕まえることができると思いますか?」
「そこは勇者ルヴェル次第だな」
そうしたユークのコメントに対し、アンジェは首を傾げた。
「勇者ルヴェル次第……ですか?」
「実を言うと、漆黒の魔物が気配を発した直後に人型の魔物へ魔力が流れるのを俺は捉えた。どうやらそれは他の誰も気付かないレベルみたいだけど……」
「次に魔物を指示した場合、把握できる可能性がある、と」
「ああ。たださすがに俺もどこから命令を発しているのかわからない……戦場からそう遠くないことは間違いなさそうだけど、勇者ルヴェルや仲間がそれに気づけるかどうか」
そこまで言うとユークは少し声のトーンを落とす。
「先ほどの会話で組織に関しまだ壊滅していないのでは、という見解を述べようかとも思ったけど、今回はそれを避けた」
「お二方が組織の構成員である可能性がゼロではないため、ですか」
「ああ。まあ勇者ルヴェルの方は大暴れするつもりみたいだし、可能性は限りなく低いように思えるけど」
「賢明な判断だと思います……正直、誰が敵なのかわからない状態なので」
アンジェの声はずいぶんと重い。それに対しユークは、
「そこまで深刻にならなくていいさ……とにかく、俺達だけが組織が壊滅していないという情報を持っている……この事実は絶対に知られてはならない」
「世間的に、疑っている人はいないということですよね」
「さすがにディリウス王国、ログエン王国と二つの国が公表した以上、明確に否定できる材料がない限りはいないだろうな。仮に疑っている人がいるにしても、たぶん考えすぎだと指摘されるレベルだ」
「私達としては好都合ですけど……」
「俺達の行動が怪しまれなければ問題はなさそうだ……勇者ルヴェルを始め今回の騒動は組織の元構成員という結論に至っているわけだし」
話をする間にユークは周囲の勇者達を観察する。今のところ怪しい動きをしている人物はいない。
「……魔法で魔物を命令しているにしても、道具を利用してとかだとさすがにわからないな」
「魔力の発生源などが特定できればいいのですが……」
「それにしたって一瞬というレベルであれば、さすがに決定的な証拠にはならないな」
「……ユーク様、主犯者を捕まえられる確率はどの程度だと思いますか?」
「うーん……組織側が今回の魔物を利用した行動……組織においてどんな人物が主導しているかによるな」
「傀儡であればむしろあっさり主犯者が見つかって終わりでしょうか」
「たぶんそうだな……勇者ルヴェルや勇者ジストに目を付けられている以上、誰かを犠牲にして事件の幕引きを図る、というのは無難な落とし所だ」
その時だった。勇者ルヴェル――森の奥で何やら魔力を発しているのがわかった。
「動き出したみたいだな」
直後、ルヴェルの魔力が高まる。それを感じ取った時、ユークは彼がどういう行動をするのかおおよそ理解する。
「暴れ回る気か」
「森の中を、ですか?」
「彼はどうやら複数の仲間を率いている……さらに言えば勇者ジストや勇者ロランと連携をとっている。彼らで攻勢に出て、魔物を一気に減らし始めた」
「リスクのある勝負ですが……」
「とはいえ漆黒の魔物を彼らは倒していることから、もし現れてもいけると考えたんだろう……で、敵としては予想外の行動のはずだ」
「迫る魔物を倒すのではなく、あえて突撃していますからね……」
「たぶん敵としては、断続的に魔物を侵攻させて、主導権を握る形をとろうとしていたはずだ。これまではそれが機能していたし、勇者達もさすがに森の奥へ向かおうとはしなかった……けれど、勇者ルヴェルが動き出した。もしかすると、これは思った以上に効果が期待できるかもしれない――」




