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史上最強勇者、家出する  作者: 陽山純樹
第二章

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103/200

裏表

 大通りを散策すると、装備も見た目も違う様々な勇者を目に映すことができた。そして騎士達はそんな面々をどうにか制御しようと動き回っているのもわかった。

 なおかつどうやら戦士院の長である勇者シャンナのことは知れ渡っているようであり、話し声から彼女の名前がチラホラ聞かれる。


「……シャンナ様についてですが」


 ふいにアンジェが口を開く。


「指揮をする立場というのであれば、勇者の方々の評価はどういうものなのでしょうか」

「勇者として相応の実力があるのは間違いないし、彼女の能力についてはおそらく誰も疑っていない……町中で馬鹿騒ぎしている勇者達も、戦いになったら従うとは思う」


 ユークは返答した時、視線を向けられていることに気付いた。少し視線を変えればどうやら別所からも同様の視線。


(……キイラさんが話したかな?)


 どういう人相なのか、という点について簡単にでも話せばユーク達を見てあれだと推測することは容易いだろう。

 その視線については、どうやら敵意などは含まれていない。ユーク達の姿を目に留めて改めて噂――史上最強である、ということを思い出し議論をしている様子。


(ひとまず、嫌悪はされていないみたいだけど……今後の立ち振る舞いで評価が変わりそうだな)


 さて、どうしたものか――ユークが考え始めた時、一人の女性が近づいてくるのが見えた。

 その目は明らかにユーク達へ向いており、


(あの人は確か……勇者ルヴェルの仲間?)


 昨日ルヴェルのことを見た際に同行していた人物――と、彼女はユーク達の前に立ち、


「勇者ユークと、勇者アンジェの二人で間違いない?」

「……はい」


 ユークは多少警戒しながら応じると、


「私はルヴェルの仲間だけれど……彼があなた達と話がしたいと」

「……どういう経緯でそんな風に?」

「単純に興味じゃないかしら」


 話をしに来た彼女自身は大して興味もなさそうに応じる。


「彼は新しい勇者がいたら、まず話をしたいという考えだから」

「……俺達のことはどうやって?」

「同業者のキイラが口にしていたわ。仲間の一人がそのことを伝えたら、ルヴェルが話をしたいと」


 ユークはここでアンジェへ目を向ける。


「どうする?」

「……またとない機会ではないでしょうか」


 それでユークは決断――そもそも、町中で騒動を起こすなんてこともないだろうと考えつつ、


「わかった。案内をお願い」

「ええ」


 女性が先導する形でユーク達は町中を進む。その道中でもユーク達に視線を向けてくる人間が多数いた。


(……シャンナさんのこともあるし、俺達のことは思った以上に知れ渡っているのかもしれないな)


 これであれば、むしろ待っていた方が話し掛けてくる人間も多いのでは――そんな推測をしていた時、一軒の酒場にユーク達は入った。

 そこで、昨日遠巻きに眺めた勇者ルヴェルがいた。周囲には彼の仲間が多数いて、酒場の中も半ば貸し切り状態。


「――どうも」


 ユークがルヴェルへ向け言葉を投げかける。彼は椅子に座りそれを聞くと、おもむろに立ち上がった。


「初めましてだ、勇者ユーク」


 それと同時に見せたのは笑顔。人の心の内に入り込むかのような、天真爛漫な笑みだった。


「自己紹介は必要か?」

「いえ、大丈夫です」

「改まらなくていい。ああ、俺のことはルヴェルでいいからな。いや、しかしこうして会えて光栄だ」

「――光栄?」


 眉をひそめるユーク。それと共にルヴェルの仲間達の視線が注がれる。


「ああ、史上最強……そう噂されるような人間だ。どれほどのものか一度会ってみたかった」


 ――ユークは彼と視線を交わし、それが本心のものだと半ば察することが出来た。


(裏表がまったくないな……)


 それと同時にユークが感じたのはそれ。例えば誰かを騙そうとか、そういう感情は一切無い。ただただ先ほど言ったように光栄であり、また同時に興味があったからユークと顔を合わせ話をしている。

 そこに邪気などは一切無く――とはいえ周囲の仲間の中には危なっかしいと嘆くような雰囲気を見せる人物もいた。どんな人物であっても彼は一度顔を合わせるのだろう。そして、何かしらトラブルを起こしたことだってあるかもしれない。


「作戦が始まる前に手合わせをしてみたい誘惑もあるが……」


 と、ルヴェルが言う。ユークは眉をひそめる間に彼は、


「とはいえシャンナから止められているからな。残念だが手合わせはまたの機会、だな」

「……勇者シャンナとは知り合い?」

「まあな。アイツはある意味勇者の中で一番の有名人だからな」


 そう告げるとニカッと笑うルヴェル。その顔つきは、例え悪人でも説得すれば必ず改心してくれる、という雰囲気すらある。


(……さすがに、この人が組織と手を組んでいるとは思えないな)


 そんなことを考えつつ、なおも語るルヴェルに対しユークは相づちを打ち、会話を続けるのだった。


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