誰が敵か
その後、ユークは勇者シャンナと会話を幾度か交わした後、宿へ戻った。そしてベッドに入ろうとした時、
「アンジェに今日のことは言うか? いや、内緒にしてくれと言われていたし……ひとまず、胸の内に留めておくか」
結論を出して眠ることにする。シャンナが指揮を執る、ということでどういった影響が出てくるのか。
「戦士院の長、という肩書きから反発する人間とかもいるんだろうか?」
推測しつつユークは眠りにつく――そうして、慌ただしい一日は終わりを告げた。
翌朝、アンジェと共にユーク達は宿を出て戦士ギルドへと向かう。目的はこの町へ来たということを報告だ。
大規模な仕事であるし、何より勇者と顔を合わせることになるというわけで、今回ユークは使っていた偽名ではなく本名で仕事を請け負っていた。到着した旨を戦士ギルドへ報告した後、ユーク達は改めて相談を始める。
「さて、どうするか……あ、そういえば昨日の夜にシャンナさんと顔を合わせた」
「え、本当ですか?」
「作戦の指揮を執るらしい……詳しい話は聞けなかったけど」
まあこのくらいはいいだろうと思いつつ言及。すると、
「……ユーク様、シャンナ様が組織の構成員である可能性はあるのでしょうか?」
「んー……正直わからないな。話をしていて特段俺のことを警戒している様子はなかったけど」
そこでユークはアンジェへ目を向け、
「というか、アンジェが懸念しているのはキイラが語った勇者――言わば現役で最強と噂される面々の誰かが組織に加担している、ところか」
「はい……影響力という観点から言うと、非常に危険かと」
「シャンナさんがもしそうだとしたら、正直どうしようもないかな……ただ、もしあの人が組織の人員であったとしたら、組織の傀儡を減らしてまで作戦を組むとは思えないんだよな」
「どういうことですか?」
「戦士院には勇者に関する情報が集まる。それを踏まえればログエン王国の騒動だってもっとスマートに組織は動いていたはずだ。なおかつ、俺達やシアラの対策だってやるはず」
「私達は実際にシャンナ様に出会っていますし、ね」
アンジェの言及にユークは「そうだ」と応じ、
「正直、あの人が裏切り者であると仮定すると組織の動きはどこかぬるい……そういう理由から、シロである可能性は高いと思う」
「だとすれば、他の勇者はどうでしょうか?」
「可能性が低いだろうと考えるのは勇者ルヴェルだ。正義感の強い御仁とのことだし、魔物を生成して国を脅かす、なんて活動をする組織の味方になるとは思えない」
「なるほど。となれば勇者ロランと勇者ジストの二人になりますが……」
「これは実際に顔を合わせてみないとどうとも言えないな……まあ組織がやる作戦規模の広さなんかを考えると、勇者の中でもとりわけ強い存在が加わっていてもおかしくはない……が、俺自身確率は低いんじゃないかと思ってる」
ユークの言動に対し、アンジェは一時沈黙。なぜか、という理由を考えている様子。
けれどどうやら明瞭な答えは出ないようなので、ユークは再び話し出す。
「単純な話だよ。最強クラスの勇者となったら、目立つし名も売れているため下手な行動をとることができない、というわけだ」
「なるほど……悪事を働こうとしても色々な人の目があるため、難しいと」
「組織としても勇者として実力がある以上は味方に引き入れたいと考えるかもしれないけど、名が相当広まっているレベルとなったら、何か活動することで怪しまれるなんて危険性もある……扱いにくいだろう」
そこまで語るとユークは「とはいえ」と言葉を添える。
「可能性がゼロというわけじゃない。魔物に関する実験に加担していなくとも、情報収集という形で動いているかもしれない」
「単純に勇者達の情勢を調べるくらいなら、怪しまれることはないですからね」
「そういうこと……ただアンジェ、探りを入れるにしても相手は間違いなく歴戦の勇者だ。態度から警戒されていることを瞬時にわかるはずだ」
「……ということは、無茶はできないですね」
「ああ、慎重に動く必要がある。最悪距離を置いて観察するとかも視野に入るかなあ」
――そう語った時だった。ユークは町中に他の勇者とは明らかに違う気配を漂わせる人物を発見する。
「……ユーク様」
アンジェが名を呼ぶ。どうやら彼女も気付いた様子。
「隠そうという気がないようですね」
「というより隠す必要がないって思っているのかもしれない……見た目的にもおそらく勇者ジストだな」
「どうしますか?」
「話し掛けてもいいんだけど……周囲には勇者ルヴェルと同様に取り巻きもいるし、あまり強引なやり方はとれないな」
やがて勇者一行が雑踏に消えていく。それを見たユークは、
「続々と勇者達が集まっている……ひとまず町を見て回り、勇者達の様子を見てから行動に移ることにしようか――」
 




