国の出方
ユークが町へ戻り、再度ギルドを訪れると報酬が支払われるのは明日以降になると言われた。報酬金額は貢献度に応じて支払われるとのことで、騎士や兵士などの聞き取りによって査定がプラスされるらしい。
傭兵などが活躍した場合、騎士が名を聞いたりしてその情報がギルドに回ってくる、という寸法だろうとユークは推測した。ならば自分の動きはどうだったか。
「やり方が上手くいけば、俺は戦場でそれほど目立たず貢献できた……と思うんだけど」
怪我人の治療についてはどう評価されるのか――いや、名は告げなかったので大丈夫だろうか、と思いつつユークはその日宿へ戻り休むことに。
「調査はどうしようかなあ」
部屋に入った後、ユークは考える。魔物の群れ、その発生原因は何なのか。
本来これは騎士の役目である。今回はそれなりに数も多かったので国が本腰で調査する可能性が高い。つまりユークがやらなくても問題はない、はず。
「むしろ調査をしている魔術師とかと鉢合わせになったら面倒かな……?」
まあここは国に任せた方がいいか、とユークは結論づける。そして、
「俺はどうしようかな。もう少しこの町で仕事をしようかな? 装備を整えて資金もほとんどないし」
当初の予定通り三日くらいひたすら仕事をやるのもいい――などと考えつつ、ユークはその日休むことにした。
翌日、戦士ギルドを訪れると報酬が支払われた。金額は討伐に参加した者が共通して支払われる額と同等。
(よし、目立っていないな)
金額からそう結論づけたユークは。報酬の金額を考慮してもう少しこの町で仕事をしようと決める。
(気になることは、国は今どうしているのか……)
ユークがこの町にいることを把握しているのかどうか――家出をした後、色々と想定はしていた。その中でもし自分の居所がわかる手段があるのなら、そろそろ来てもおかしくはない。
(追跡魔法……俺は山ごもりをしていたわけだけど、魔力を調べ上げていれば、居所を見つける魔法くらい作成は難しくないだろう)
これを回避する手段は、自分の身の内にある魔力を偽装すること。ユークの技術をもってすれば可能ではあったのだが――
「出方は窺った方がいいよな」
国側が家出をしたユークに対しどう動くのか、それを見極めるためまだ偽装はしていない。そもそも追跡魔法があるのか。その確認をする必要もあるとユークは思っていた。
(俺が家出をした、なんて噂は世に出ていない……いや、王都では噂で持ちきりで、まだこの町に伝わっていないとか? どういう理由であれ、国は俺を追い掛けるはず……そのやり方なんかを見て、俺も動き方を変えないといけない)
出方次第で、改めて偽装するかを判断すればいい――ユーク自身は王城へ来るよう説得されるものだと考えているが、実際はどうなのか。
(じいちゃんは怒りで顔を真っ赤にしているだろうなあ……)
ふと、ユークは師であるラギンに怒られたことがないという事実を思い出す。あまりにも何もかもできたせいで、ユークは生まれてこの方怒られたことがない。
例えば子供ならば何が危険かもわからず、馬車の前に走り込むなんてことをする可能性がある。けれどユークはしなかった。環境的にそういう状況に遭遇することがなかっただけではなく、単純に何が危険なのか感覚的に理解してしまっていた。
だから大人でも危ないと判断したことをユークは本能的に避けていた――故に、危なっかしい行動をして叱責されることすらなかった。
けれど家出をして、顔を真っ赤にするラギンの姿をユークは想像する。
「もし追っ手の中にじいちゃんがいたら、今度こそ怒られるだろうなあ」
とはいえ、そのケースはユークの想定としてはかなり対処が楽なケース。最悪なのは――制御ができない勇者だとして、殺意を持って襲い掛かってくること。
(国に関する文献とか書物は読んだけど、実際に政治の世界がどうなっているのかわからない……勇者という立場はどういう存在なんだ? 家出したことで、不要と判断されるような立場なのか?)
ある意味、それを確認するためにユークは魔力を偽装せず待っていた。国がどういう見解なのか――それによって、ユークの今後が決まる。
「来るまでにもう少し余裕はあるだろうから、仕事をこなして稼いでおくか」
国の動き――勇者の扱い。それによって、もしかすると国外に出るなんてケースすらあるかもしれない。
(たださすがに国外となると……もっと準備が必要だし、資金も必要になってくるな)
頭の中でざっと必要な旅費を計算してみる――あらゆる可能性を考慮しつつ、ユークは仕事を探すことにしたのだった。