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甲斐の虎


―――


 甲斐、武田邸



「父上、また遊んでいたんですか?」

「勝頼か。いやなに、暇潰しさ。それより越後は最近どうだ?」

「えぇ、目立った動きはないですがあの謙信殿の事です。水面下で何かを企んでいるのではないかと。」

「そうだな。先日桶狭間で織田信長が今川を破ったという番狂わせがあったから、これに乗じて何かをしでかすだろう。長年の好敵手に今更あっさりやられるのも癪だから、十分用心しておけ。」

「はい。ところで父上。こんなに頻繁に力を使って大丈夫なのですか?体調は。」

「あぁ、大丈夫さ。逆に使わんと鈍ってしまって敵わん。」

 そう吐き捨てると、信玄は手に持っていた茶碗を盆の上に置いた。



 信玄は甲斐武田家の当主で甲斐国の守護大名である。

 実の父親を国外へ追放して家督を無理矢理奪い取ったという豪快な人物で、その政策も独自の考えを押し通すといったやり方で甲斐国だけではなく、信濃国のほとんどの城を攻め落とした。


 そんな無双状態の理由は先程勝頼が口にしたが、信玄の持つ特別な力のお陰である。

 信玄には『念力』という超能力があり、物を触らずに動かす事が出来る。そしてそれだけではなく、人の心をも動かす事が出来るという何とも不思議な能力であった。


 その力を使って信玄は、駿河の今川義元と相模の北条氏康を懐柔して三国同盟を実現させた。武力で勝利した戦もあったが、半分程はこの『念力』の力を使ってものにしたという恐ろしい人物だ。



「織田信長……か。いずれ対戦する事になるだろうが、今は武田の領域を広げる事が優先事項だ。さて、謙信公はどう動くかな。」


 信玄は面白そうにそう言うと勝頼が来る前にやっていた、『念力』を使って茶碗を転がす遊びを再開した。



―――


 尾張、清洲城



 桶狭間から戻ってきた蘭と信長は、数日後大広間にて対面した。


「なるほど。越後の龍・上杉謙信と甲斐の虎・武田信玄ですか。確かにテキストにもそう書かれていました。本当にそう呼ばれていたんですね。」

「感心している場合ではないぞ、蘭丸。義元の次はこの二人。あるいは相模の北条氏康を潰さんといかん。今後どういう風に展開していくのだ?この戦乱の世は。」

「それは……」

 そこで蘭丸は言葉に詰まった。それは言えないという事ではなく、そんなに詳しく知らないからという事だった。


「何だ、知らんのか?」

「す、すみません!まだ大まかにしか勉強してなくて……でもこれはわかります。川中島という所で上杉と武田は五回も戦を繰り返すんですが、中々決着がつかないんですよ。結局二人は病死という事になって、どちらが本当に強いのかわからずじまいなんです。」

「ほぉ……病死とな。」

「あ!」

「まぁでもこの世界には能力者が何人もいる。謙信や信玄に何かしらの力がもしあるのなら、油断は出来ぬぞ。」

 信長に睨まれて蘭はしゅんと小さくなった。



 蘭の活躍(?)で無事に桶狭間で今川義元を破る事が出来た信長は、すぐさま徳川家康と同盟を結んだ。尾張と家康の三河から狙われた駿河は、義元の死によってガラガラと崩れて滅亡するのも時間の問題であった。


 しかしこれで満足している信長ではなく、次はどこを狙うのかを未来を知っている蘭に聞いているという状況だった。


「まぁ、焦る必要はないか。俺が義元を討ったことは嫌でも知れ渡る。こっちから行かずとも敵の方から勝手にやってくるだろうし、それを迎え撃つという選択肢だってあるんだからな。」

「はぁ……」

「それはそうと蘭丸。お前まだゆっくり休んでいないだろう。」

「え、えぇ。何だかんだ忙しくて。え!?休んでいいんですか?」

 蘭が飛び上がって言うと、信長はそっぽを向きながらこれ見よがしにため息を吐いた。


「帰蝶が煩くてな。お前を返してくれないと夜中に忍び込んで寝首をかいてやる、などと抜かしてこの俺を毎日脅しに来る。これではおちおち眠れんからな。早く顔を見せに行ってやれ。」

「あ、ありがとうございます!でもあいつ……信長様にそんな事を?すみません!俺が代わりにお詫びします!」

 ガバッと音が出そうなくらいの勢いで蘭が頭を下げると、信長は帯から出した扇子をヒラヒラさせた。


「早く行け。俺の気が変わらん内にな。」

「はい!何かあったらすぐに駆けつけますんで!失礼します!!」

 また音が鳴りそうな程大袈裟にお辞儀をすると、蘭は大広間から出ていった。


「まったく……何故この俺が蘭丸なんぞに気を遣わんといかんのだ……」


 今度は盛大に息を吐いた信長であった……



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