汚寿司と汚水もの
お寿司ッ!!
それは、小さく握られた酢飯の上に、魚の切り身を一切れ乗っけた、シンプルな料理且つ日本の伝統料理!!
口の中に入れた瞬間に奏でられる『酢飯×切り身の抱き合うようなハーモニー』は、老若男女問わず多くの人を魅了し、虜にする!!
よっぽどの酢飯嫌いや魚嫌いでない限り、これを『嫌いな食べ物』に挙げる人間はまずいないだろう。
それは、異世界でも同じ事。
ここは、ナンバショット王国の街にある回転寿司屋・『オーシャンショック』!!
チェーン店であり、他の王国にも何店舗か展開されている人気店だ。
鮪やサーモンといった定番のネタは勿論、ハンバーグやエビフライのような一昔前は『邪道』とされて来たネタ、麺類やステーキ類といったものまで、幅広く提供している。
そんな多くのメニューの中で一番の人気を誇っているのは、何と言っても定番のサーモンにマヨネーズをかけてバーナーで炙った、『炙りサーモン』!!
『寿司は生の切り身』という常識を覆した、最初のネタだ。
これがきっかけで、ハンバーグやカルビといった多くの『邪道ネタ』が次々と提供されるようになった・・・とも言われている。(現実世界のヤツは知らん。)
話がちと逸れたが、そんな寿司屋の裏に今、フンコロガシとその友人であるゴキブリは来ていた。
時刻は、午前10時50分。
あと10分で、寿司屋が開店する。
で、何で彼等がこんな所にいるのかというと、今日は寿司が食べたい気分だったからだ。
どうやら、『寿司』ってヤツは虫の胃袋も虜にしてしまうらしい。
全く困った料理だ。
とはいえ、ただ単に寿司を食べに来た訳ではないらしい。
「よし、そろそろ時間だ。入るよゴッキー。」
フンコロガシの言葉に、ゴキブリが黙って頷く。
すると彼等は、裏口のほんのちょっとした隙間から店内に侵入した。
裏口からという事もあり、中に入ると魚臭い厨房の光景が広がっていた。
どの人間も寿司を作るので精一杯らしく、二匹が侵入した事にこれっぽっちも気が付いていない様子。
これはチャンスだ。
二匹は、厨房の物陰から物陰へと慎重且つスピーディに移動し続け、客が寿司を食べるフロアまで移動した。
レーンは既に稼働しており、定番のネタのみではあるが、ウィンウィンと回りながらスタンバっていた。
「思った通り・・・もう寿司が回っている。」
ニヤリと笑うフンコロガシ。
「ゴキブリ、早くビントロが食べたいぜぇ~。」
お腹を鳴らしながら、ゴキブリもそう呟く。
どうやらこいつ等、寿司を盗む気らしい。
開店前を狙ったのは、客に見つかって大騒ぎになるのを避ける為か。
そして、10分前に侵入したのは、あまり早過ぎると寿司がレーンの上に用意されていないからだろう。
厨房で盗むのもアリだが、それだと見つかるリスクが高くなってしまう。
彼等にとって、現在遂行中の作戦が一番安全なのだ。
そうこうしている間に、二匹はテーブルの上まで移動し、レーンに近付いていた。
「え~っと、ビントロ、ビントロ・・・・・・・・・あっ!!あれだな・・・」
向こう側から流れて来る寿司の中に、ビントロを発見!!
見た目からして、口の中に入れたらすぐにとろけそうだ。
フンコロガシは、両前脚を伸ばし、皿ごとそれを回収した。
「よし、ビントロゲット!!」
するとここで、ゴキブリが彼に追加注文する。
「ゴキブリ、サーモンとカレイのエンガワも食べたいぜぇ~。」
「分かった。」
そう言うと、再び流れて来る方向を向くフンコロガシ。
タイミング良く、サーモンとエンガワが流れて来た。
「サーモンと・・・・・・エンガワね。」
一皿ずつ回収。
寿司はビントロの皿に移し、レーンへ戻す。
それが終わると、今度は自分の分を取り始めた。
「僕はシャリが欲しいだけだから・・・適当に・・・」
目の前を通過していくイカ、エビ、はまちを一皿ずつ回収し、テーブルの上へ。
イカの皿に先程と同じように他の寿司を移し、二皿をレーンに流す。
すると今度は、素手でシャリの上のネタを取り始めた。
「(僕のネタは全てゴッキーのビントロの皿に乗せて・・・・・・と。)よし、今日はこれぐらいで引き上げよう。店員に見つかったら、大変だ。」
「ゴキブリもそう思うぜぇ~。」
本当はまだまだ欲しい気持ちでいっぱいだったが、あまり欲張ると店員に見つかってしまい、大変な事になってしまう。
こうして二匹は、寿司屋から撤退し、森の中に帰っていった。
無事に寿司屋から帰還した二匹は、早速昼食・・・ではなく、クッキングタイムに入っていた。
「それじゃあ、寿司のお供に『お吸い物』を作ろう。ゴッキーいる?」
「ゴキブリ、遠慮しとくぜぇ~。」
右前脚を振り、『いらない』と全力でアピールするゴキブリ。
どことなく嫌な予感がしたのだろう。
フンコロガシはそれを聞くと、
「分かった。じゃあ、僕の分だけ作るね。」
と、言って、料理を始めた。
●今回用意した材料
・かまぼこ 一本
・鰹節 小袋になってるヤツを一袋
・醤油 一瓶
・塩 一瓶
・土筆 既に茹でてあるヤツ五本
・ヨモギ 一枚
最後に、片手鍋をゆっくりと作業台の上に乗せる。
その中に入っているのは、便槽からすくい上げた水・・・『汚水』ッ!!
『今日の昼はお寿司』と、前々から決めていたので、予め近くの公園の便槽から取って来ていたのだ。
ちゃっかり『だし用昆布』も浸けて、下準備は万全だ。
抜け目の無い奴である。
それはさておき、嫌な予感・・・的中ッ!!
ゴキブリ、『断っといて良かったぜぇ~』という顔をして、数歩後ろへ下がる。
ついでに、何かの間違いで寿司に汚水が掛かったらいけないので、皿ごと背中に乗せて避難させている。
賢明な判断だ。
一方フンコロガシは、汚水が入った片手鍋をガスコンロで沸かし始めた。
因みに中火。
「これで良し・・・と。この間に、かまぼことヨモギを切ろう。」
そう言って、まな板の上にかまぼこを置く。
外側がピンクで、中が白のヤツだ。
それを薄く切っていく。
勿論、一人分なので全部は切らない。
三枚だけ。
次に洗ったヨモギを置き、細かく刻んでいく。
それが終わると、お椀を取り出し、そこに今切ったかまぼこと予め茹でておいた土筆をぶち込む。
するとここで、汚水からポツポツと泡が出始めた。
もう少しで沸騰するのだろう。
フンコロガシは、汚水から昆布を取り出し、入れ替えるように鰹節とヨモギを投下した。
やがて汚水が沸騰し始めると、火力を弱くし、スプーンですくって味見・・・!!
『良い感じにだしが取れている』と感じると、小さいざるで鰹節をすくって回収した。
小さい鰹節のカスが回収し切れていないが、自分が飲むものなので、彼はそこまで気にしない。
後はこれにスプーン一杯の醤油、塩少々で味付けし、お椀に移せば・・・・・・
完成・・・ッ!!汚水もの・・・・・・ッ!!
更に・・・!!
「おっと、忘れるところだった・・・・・・今朝取って来たうんこを六つに切って・・・と。」
ラップにくるんでおいたうんこを斜めにスライス。
それをシャリの上に一枚ずつ乗っけて・・・・・・
完成・・・ッ!!汚寿司・・・ッ!!
そして、ここでもう一工夫・・・!!
六貫の内の二貫にマヨネーズをかけ、バーナーで炙って、『炙り寿司』にしたッ!!
「んん~、美味しそう。」
そう思っているのは、お前だけである。
「それでは、いただきまーす!!」
「ゴキブリもいただくぜぇ~。」
そう言って、向かい合って昼食を食べる二匹。
テーブルは無いので、地べたで頂く。
『マナーがなってない』と、言ってはいけない。
彼等は、虫なのだから。
ここで、汚寿司を一貫口にしたフンコロガシが唸る。
「ん~っ!!やはり、あそこのチェーン店のシャリは良い!!うんこと喧嘩する事なく、かといってべったりする事のない、絶妙なバランスで自然に溶けあっていく・・・!!ザ・シット(最高)!!」
次に彼は、お椀を手に取り、『汚水もの』を啜った。
その瞬間、彼の目が美味さでカッと見開く。
「(こっ・・・これはッ!!ただ単に、口の中に残っているシャリとネタの味を胃に流すのではなく、味を引き立ててから流していっている・・・!!今まで色々な汁物とセットにして来たけど、これが現時点で一番マッチする!!)」
ディスカバリー・・・ッ!!
思いがけない『料理と料理の相乗効果』・・・つまり、バフッ!!
汚寿司と汚水ものによる、見事なまでのゴールデンコンビプレーが今ッ!!フンコロガシの体内に轟き、刻まれたッ!!
「ふう・・・それじゃあ、今度はこいつを・・・」
次に彼が手に取ったのは、炙り汚寿司。
勿論これも・・・
「んん~、生とはまた違った風味があって、これまたザ・シット(最高)!!マヨネーズが良い仕事してる。」
・・・美味しかったようだ。
そんな感じで彼が騒がしく寿司を食べている一方で、相方のゴキブリはというと・・・・・・
「・・・・・・」
黙々と、普通の寿司をもぐもぐしていた。
「(ゴキブリ、わさびとガリを取って来るの忘れてたぜぇ~。)」
とか、思いながら。
因みに、フンコロガシに強制的に譲渡されたネタたち(イカ、エビ、はまち)は、刺身として美味しく頂いたようだ。
完食後、お腹を膨らせたフンコロガシは、こんな事を言い始めた。
「こんなに美味しい物・・・人間達にも食べさせてあげたいなあ・・・・・・そうだ!!今度この寿司屋のお偉いさんに会いに行って、実際に販売してもらえないかお願いしてみよう!!」
ならばこちらは、全力で阻止するまでだ。
『フンコロガシのごちそう』・・・・・・次回は未定ッ!!