くそみそ汁
『異世界陰キャ』に出て来る、フンコロガシが主人公の物語です。
楽しんで頂けたら、幸いです。
トロピカルな風が吹き抜ける此処は、『ナンバショット王国』。
自然遺産が多い事で知られており、多種多様な固有種が生息している。
そんな王国のとある森の中に、そいつはいた!!
フンコロガシッ!!
またの名を『スカラベ』ッ!!
(因みに個体名は、フン太。)
「う~ん・・・」
近くの木に止まった鳥の鳴き声を聞き、只今起床ッ!!
午前八時・・・ッ!!
「おっ?」
同時に、お腹がぐぅと鳴る。
それは言わずもがな、体が飯を欲しているサイン!!
しかも、いつもより音が大きい。
これは、ガッツリ食べないと治まらなさそうだ。
だが、こういう時に限って、食べ物のストックは無し。
フンコロガシは、すぐに立ち上がって、食材を求めてその辺を散策し始めた。
「朝出しうんこ、落ちてないかな・・・」
そんな中、彼の視界に森の中で自生している『キイチゴ』が飛び込んで来た。
「キイチゴだ!!デザートに採っておこう。」
発見するや否や駆け寄り、熟した実をもぎ採る。
彼は、うんこだけでなく、果物も食べるのだ。
ついでに言うと、お菓子も食べる。
何個かキイチゴを収穫すると、彼は周囲を見渡し、
「さてと、うんこ探し再開だ。」
と、うんこが落ちてそうな場所に向かって、どんどん進んでいった。
それから、数分後・・・
「あっ!!・・・あった!!」
木の根元に落ちてある、辛子明太子みたいな形のうんこを見つけた。
柔らかそうな見た目・・・きっと、出されて間もないヤツだ。
彼は、早速それを拾い上げ、形を崩さない程度に軽く握った。
そして、瞬間に確信する・・・!!
これが、今朝出されたばかりの『新鮮なうんこ』だという事に・・・!!
「まだ温かいし、柔らかい・・・・・・間違いない!!これは、『朝出しうんこ』!!」
お目当ての物を発見し、彼のテンションが目に見えてぐーんと上がる。
この調子で二個三個と拾っていこう・・・と、思ったのも束の間、お腹の音が再び鳴った。
しかも、さっきよりも大きい・・・!!
お腹に中々食べ物が入って来ないので、『早く寄越せ』と音を鳴らして催促しているのだ。
という訳で彼は、これ以上の散策は止めて、自分の根城に帰る事にした。
さて、食材を確保し、帰宅してすぐにやる事と言ったら、勿論クッキング!!
小さい片手鍋とおたま、その他食器類を作業台の上に用意して始まる・・・・・・フンコロガシの芸術的汚料理タイム!!
「さてと・・・」
彼が最初に掴んだのは、片手鍋。
それで近くにある綺麗な川の水を汲み、あらかじめ点けておいた焚火の上に乗せる。
その際、彼は緑色の細かく刻んだ何かを入れた。
ヨモギである。
実は帰り道に見つけ、『何かの足しになるだろう』と採っていたのだ。
これで後は、蓋をして沸くのを待つだけ。
その間に彼は、おたまの上に取って来たうんこの半分を乗せて、スタンバイ。
川の水がグツグツと沸騰したら、スタンバってるそれを浸け、スプーンでかき回して素早く溶かす。
後は、おたまで鍋全体をかき混ぜれば・・・・・・
「よし!!」
完成・・・ッ!!『くそみそ汁』・・・ッ!!
「残り半分は、そのまま皿に移して・・・生で!!」
二品目も完成!!
そして・・・
「最後にこっちの小鉢に、川の水で洗った朝摘みキイチゴを入れれば・・・・・・完成ッ!!本日の朝食!!」
デザートも完成し、形成される・・・・・・『朝飯の大三角形』ッ!!
午前中・・・いや、今日一日彼を支える、『エネルギーのトライアングル』ッ!!
『くそみそ汁』がアルタイルなら、『生うんこ』はデネブ、『キイチゴ』はベガといったところか。
それではいざ・・・実食タイム!!
テーブルとかが無いので、そのまま作業台の上で彼は頂く。
「まずは、『くそみそ汁』から・・・」
お椀を持ち、ずずっと啜る。
そして、ゴクリと飲み込み、ホッと一息吐いて感想を述べた。
「濃くもなく、薄くもなく・・・そして、味噌に劣らぬまろやかさが出てて、ザ・シット(最高)!!森にネギは生えていないから、代わりにヨモギをぶち込んだけど、程良い苦味が良いアクセントをかましていて、これはこれでグッド!!・・・・・・でも・・・」
コトンと、お椀を置き、腕を組む。
どうやら、不満な点があるらしい。
「やはり、豆腐あっての『くそみそ汁』・・・・・・いくら味がザ・シット(最高)でも、どこか物足りなさを感じてしまう。今度は、豆腐がある時にやろう。」
そう言うと、今度は『生うんこ』の皿を手に取る。
「お次は、『朝出しうんこ』・・・」
箸で少量を摘まみ、口に運ぶ。
「んん!!」
瞬間、口の中に広がる爽やかな風味に、目をパチクリさせた。
「(湯で溶かした『くそみそ汁』が丁度良い味だったから、うんこ自体の味はこってりとした濃いものなんだろうなと思ってたけど・・・・・・意外や意外、思ってたよりも濃くはないし、あっさりしている!!口の中に味がしつこく残らない!!飲み込むと同時に、味がすぅーっと食道の方に引いていく感じだ。これなら、口直しに水を飲む必要は無い!!)」
そう思いながら、続けて生うんこを箸で摘まみ、口へ運ぶ。
「あむっ、あむっ・・・・・・んん~、ザ・シット(最高)!!炊きたてのホカホカ白飯があれば、更にグッド!!」
だが、ここにそんな物は無い。
こうして生うんことくそみそ汁を交互に堪能したフンコロガシは、最後にキイチゴが入った小鉢を手に取った。
「最後は、キイチゴ・・・・・・本当なら、ヨーグルトかとろ~りとしたビチグソに混ぜて、一緒に食べたかったけど・・・・・・生憎そんな物は無いし、見つからなかったから、そのまま食べる!!」
ヒョイッと口の中に入れ、素材そのものの味と食感を堪能。
甘味と酸味が丁度良く混ざり合った味は、無意識の内に彼に一連の動きを繰り返させた。
俗に言う、『やめられない止められない』というヤツである。
これにより、いつの間にか小鉢は空に。
フンコロガシ、『朝飯の大三角形』を全て制覇・・・・・・完食!!
「ふう、食べた食べた・・・」
ポンポンと、満足そうにお腹を軽く叩く。
それから彼は、ぼんやりとこれからの予定を考え始めた。
「さて、これから何しようかな・・・・・・とりあえず森の中を散策して、昼と夜・・・出来れば明日の分のうんこを確保して・・・それから、それから・・・」
だが、すぐに突きつけられる・・・!!
「あ・・・」
『使った物の洗浄と後片付けをしなければならない』という現実を・・・ッ!!
料理を作り、食べた以上は避けられぬ運命!!
『家に帰るまでが遠足』のように、『食器等を洗って片付けるまでが料理であり食事』なのだ。
それは人間に限った話ではない。
虫にも言える事である。
「はぁ~・・・」
至福の気分が一転、急に重力が強くなったかのように体がだるくなるフンコロガシ。
とりあえず使用した食器と道具を纏め、近くの川に持っていった。