メダカの虎太郎
ちょと手をのばしてごらん
友だちがいなくても平気だよ。
ほら、元気なメダカがおよいでいる。
ところでみんな
みんな魚は好きかい
めだかは好きかい
今日はめだかのお話だよ。
めだか
メダカ
めだかって、どうして「めだか」なのか知ってるかい。
知っている友達もいるかも知れない。
漢字で書くと
めだかは「目高」と書く。
漢字で書くと、何となくヒントがあって
分かってくるだろう。
目が高い、目の付く位置が高いんだよ。
めだかが泳ぐ水面をよく見てごらん。
不思議な顔をしているよ。
目玉が二つ
空をんでいるよ。
そうオデコに目玉が二つついている。
おもしろい楽しそうな顔だよ
めだかの虎太郎
めだかの虎太朗が生まれた時に、お父さんは名前を考えました。
男の子だし、太郎はしっかりとしていい名前だ。
でも何かたりないなと思いました。
みんなにか好かれるようにコタロウはどうか?と考えました。
漢字で表すには、小太郎と書きました。
でも小太郎では平凡過ぎないか、と迷いました。
お父さんには友達の小次郎が早死にをしたことが気になりました。
そこで虎太郎という字を当てました。
お父さんはたいへん満足しました。
この字ならトラという字で強よそうだ。
お父さんはタイガーズファンだったんです。
さて虎太郎はなかなかわんぱくだった。
虎太郎が生まれたのは、の小学校のビオトープでした。
虎太郎の住むビオトープに春が近づきました。
水面の氷にへばりついていた枯れ葉も、ゆっくりと水に解け出した。
冬の間は水底の石の陰にじっと動かずにいた。
虎太郎は不思議に思った。
春の陽ざしが日に日に暖かくなってくると、
虎太郎の体はひとりでに泳ぎたくなるのでした。
長く延びる川となった流れを下りました。
虎太郎は初めて、自分が育った池を眺めまわすのでした。
虎太郎には 九匹の兄弟がいました。
お父さんはその中で一番元気な子を、リーダーとして名前をつけたのでした。
虎太郎はいつも兄弟たちを引き連れて先頭に泳ぎ出すのでした。
枯れ葉が一枚、めだかの一行の前に落ちてきました。
虎太郎は流れの途中でみんなを止めて、枯れ葉が流れ行くのを確かめました。
しばらく岸に沿った通り道を進むと、赤い大きな金魚が二・三匹ゆらゆら泳いでいました。
金魚はめだかから見れば大きなイルカかアザラシのようでした。
大きな腹とひらひらと広がる尻尾のしなやかさに感心していました。
虎太郎は、金魚は体が大きいけれど、僕らの仲間で敵ではないと思いました。
めだかの一行は体列を整え、金魚をかわして通り抜けて泳いで行きました。
しばらく進むと今度はビオトープの岸からいい香りがってきました。
いたずらな虎太郎でしたが、この優しい香りにはうっとりとするのでした。
その香りは雪の後に、白く咲き誇る水仙の花からでした。
何とも言えない、とってもいい香りがするのです。
虎太郎たちは春の何日かの、暖かい陽ざしの日にはみんなで列をなして泳ぎ回りました。
ある晴れた日でした。
あたりの空がなんだかぽかぽかと明るい桃色の空に染められて行くのでした。
そうさくらが咲き始め、やがて満開になって来たのでした。
虎太郎はオデコにある目玉で変わりゆく季節を水の中から感じていたのでした。
虎太郎は自分たちの住む世界が水ばかりでなく、さくらが咲く青空があることを知りました。
その時でした。空に風が吹き過ぎました。
そしてまた一吹きと風が通り過ました。
空からはピンク色の花びらが一枚、2枚と次々にビオトープへ舞い落ちました。
びっくりしたのは虎太郎たちでした。
急に空が曇りだし、強い風が吹き荒れました。
さくらの花びらがどんどんと飛び散りました。
たちまち流れはさくらの花びらで敷き詰められました。
水面には、一枚の桃色の帯が広がったようでした。
虎太郎の目の前には、ピンク色の波が風にゆられて押し寄せてきます。
さくらの花びらは、めだかたちの体に吸いつくようでした。
水の中はピンク色とさくらの香りに、包まれてしまいました。
虎太郎はさくらの花びらをオデコに受けながら泳いでいました
虎太郎達は毎日春を楽しんでいる間に、岸辺には緑の草が一面に広がりました。
丘にはタンポポや白爪草があふれ、
やがて水辺には小高い夏草のがしっかりと根を付け始めました。
ビオトープの上空ではトンボが飛び交い、縄張り争いをしているようです。
トンボのヤゴは大食漢ですが、水面の近くにいるめだかを餌としてえることはできませんでした。
ところが虎太郎が不思議なことに、水面の上に生き物がいることに気が付きました。
見上げる虎太郎の頭の上をスイスイと音もたてずにかすめて行きました。
長い脚が有り、細くて針金のように「く」の字に折れ曲がっています。
よく見ると水面から浮いて、4本の長い脚でボートのような体を水面から支えているではありませんか。
何と水面には毛の生えた足の裏に小さな水玉をいくつか付けている。
敵ではなかったけれど、《なんだこいつ》と思った瞬間、なんと飛び去ってしまった!
あいつはアメンボって言うんだって
虎太郎はいだことはないけれど、「」の匂いがするらしい、不敵なやつだった
さて、初夏の頃だ。
ビオトトープに二匹のお客がよく来るようになった。
一方は大柄の三毛猫で十二キロも有るらしい。年齢は八・九歳というところか?
この猫は、生まれも育ちも根っからの野良猫で、
礼儀知らずの不届きものでいつもとなるものなら何んでもかんでも盗んで立ち去るのでした。
この茶色く太った三毛猫は人と出会っても、
恐れるどころか我が道をゆずることなく、ゆうゆうと立ち去るのでした。
この間も一年生が睨みつけても、睨み返しながらふてぶてしく横切って行った。
もう一匹の黒猫の方は、元は飼い猫でしたが家出をして野良猫の仲間となりました。
年は二・三歳というところか、まだ仔猫で好奇心ののような猫だった。
何を見てもキョロキョロとはしゃぐようで、
いつもれていて毎日が楽しいことだらけのように見えた。
これらの猫が、これまで平和な暮らしを続けていた虎太郎たちの生活に変化をもたらせたのだ
このころ虎太郎と言えば、リーダーとしての大きな悩みがあった。
それは、めだかの成長が著しい夏の時期に、重要な餌の確保だった。
水底には砂や土が積り、その上に花や葉と、枯れ草などのちたものがした。
それをにミジンコやユスリカなどの美味しい餌が育った。
でもそこは、厳しい水中の戦いがあった。
な動きができないめだかには、命を襲われる恐ろしいヤゴを始めとして、小エビ・オタマジャクシなどに餌を奪われて、
自然と餌場を水面に変えて行った。
ある時、虎太郎が水面を泳いでいた。
黒いヒモのようにクネクネと細い体をらしながら、懸命に水底から水面に浮かんでは沈む生き物を見た。
それを規則的に何度も繰り返している様子を見たのだ。
よし、あの動きならなら捕まえやすい。しかもよく見ればあちこちで、同じような動きがいっぱい見られるのだ。
この生き物は蚊の幼虫でボウフラといい、池の中ではどこにでもいる。
しかもボウフラは、呼吸のために空気を吸いに、水面まで昇らねばならない。
それを、水面で捕まえればいい。よし夏の間は、この生き物を餌にしよう。
これなら池中にいっぱいるぞ、心配はない。
虎太郎はボウフラが、良い餌であることをみんなに知らせました。
お陰で、虎太郎の仲間たちはこの夏まるまると育つことができたのでした。
さて、その事件というのは水の中で起こりました。
そうやっぱり、あのふてぶてしい態度の三毛の野良猫だ。
三毛猫は重たそうな体でビオトープの周りの草に腹を引きずるようにして、
先ほどから動かずにじっと水中をき込んでいた。
水底にいる赤い金魚が目当てのようだった。
この金魚も夏の盛りを越えて、栄養が十分にのっていた。
三毛猫は浅瀬に近づく金魚を見計らって、太い腕で水面を思いきりたたいた。
金魚は運悪く岸辺で泳いでいた。
すかさず腕を伸ばした三毛猫は、水を岸側に引き付けるよう激しくたたいたのだ。
すると赤い金魚の体は見事に浮き上がり、陸の草原に飛び乗った。
しめしめと三毛猫はそれを口にくわえ、うまそうに飲み込んでしまった。
その一部始終を虎太郎たちは水影から、震えながら見てしまった。
そんなことがあってから、
金魚の味が忘れられなくなった三毛猫はなんどもビオトープに近付いた。
水を覗き込んでは腕を伸ばして水面を軽くたたくかっこうをしていた。
驚いたことには黒猫までが、まねをして同じような仕草をするようになった。
でも、黒猫は水をたたくというより、水をっているようなかっこうになった。
ある時、三毛猫は金魚の代わりにめだかの虎太郎たち一行にいをつけたのだ。
流れが狭くなる浅瀬で、三毛猫は虎太郎たちが通り過ぎて来るのをめがけて一撃した。
ところが、金魚に比べて小さなめだかは、猫の腕をかすめるばかりだった。
別の日には、
今度は黒猫が攻撃してきたのだが、めだかにまで腕は届かなかった。
やがて季節は秋も深くなった。
ビオトープの底には、枯れ葉がたっぷり積り、ゆっくりと朽ちていきました。
両側の岸には、すっかり夏草も枯れ果てました。
虎太郎も来年は、一歳となる。
めだかたちには、いつも一緒に泳いでいた見事な体列も消え、一匹一匹としての行動が増えた。
虎太郎たちの独り立ちの季節が近づいて来たのだ。
めだかの群れは離れ離れとなり、自分たちの巣床で、自分たちの家族を作る準備が始まった。
虎太郎もやがてはお父さんとなり、家族を守っていかなければならないのだ。
そして冬がやってきました。
ビオトープの流れも止まったように、静かに流れていました。
めだかたちはどこに消えたのでしょうか?
虎太郎も石陰にじっと眠ったように過していたのでした。
翌年の春でした。
ひときわ大きなオデコのめだかが、十数匹のめだかの先頭を堂々と泳いでいました。
それが、虎太郎でした。自分の子どもたちに指導の真っ最中でした。
誰をリーダーとして育てるか、テストをしていました。
なんだか今年のビオトープはやかでした。
それもそのはず、ビオトープの中は・・・
お父さんグループの家族と虎太郎グループの家族とで、大きなめだかの群れが形成されたのです。
暖かいビオトープの中であちら、こちらでめだかの大集団が見られるのでした。
みんな人間と同じ
一生懸命に、前を向いて
生き抜く以外にないんだよ