15話 名無しの誤解【別視点】
『世界の仕組みが大量の魔力によって変化しました。スキル【電気一体】を取得しました。中級までの魔法が習得可能になりました。身体データと合わせ……ランクB判定。ランクアップ条件は常用される身体の能力が一定を越えた場合。ランクの視認が自由に行えるようになりました』
「……マジ、これ?」
公休日。
ソシャゲのイベントを走って終わるだけの1日。
そうなる予定だったのに……。
『【電気一体】の効果により、通常の物理攻撃が効かなくなりました。触れた相手を任意で痺れさせることが出来るようになりました。電気を纏った攻撃を繰り出せるようになりました』
「このスキル、チートじゃん。こんなのもうエ●ルじゃん。……。やめだ。ちまちまちまちまちまちまちま仕事でもプライベートでもこっそりいそいそなんてもうやめだ。俺はこの力で世界を救うラノベ主人公みたいな生活を送ってやる! あれ、でもこれ使う相手が――」
「きゃあぁぁああぁぁああぁぁあ!」
女性の悲鳴に釣られて俺は外を見た。
そこには明らかに人じゃない未知の生き物が2匹。
その姿は化物って言葉がぴったりなくらいグロテスクで、ああして襲われていないにしても悲鳴を上げる人は多いかもしれないほど。
だけど俺は、怖いとかそんな気持ちよりも、完全にこの世界が俺の理想とするものになったという喜びで一杯になってしまった。
そして考えるよりも手が、脚が、勝手に窓を開け飛び出す。
「ランクとモンスター名まで見えるとかもうげーむじゃんこの世界ゲームじゃん! どっちも俺より低いこんなの絶対余裕!」
高い場所から飛び降りたのに痛みがない。
この体、思った通り本物だ。
なら、俺は間違いなく強い!
「――もう安心ですよ! このランクBの私が来ましたからね!」
「……」
これ、完全に惚れたな。
そうそうそうそう、これだよこれ!
俺が求めてた成り上がりのルートは!
最高にかっこつけて、これきっかけで俺の名を轟かせれば……金も地位も全て逆転だぜ!
「『電撃掌』」
俺は直感で掌に電気を集中させ、蚯蚓人だかいうモンスターに一撃を入れた。
呻き声といい、焦りといい……めちゃくちゃ気分いい。
自分のスキルの説明なんて絶対要らないのにおかしいくらい饒舌に喋れるし喋りたい。
だってこの隙に攻撃しようとしてるのは分かってるがそんなものは効かないから!
「つまりは――」
維持でも話し続けたい俺の身体に2匹の拳が当たった。
案の定痛くはない。痛くはないけど……。
なんだよ、この黒いのは?
俺そんな攻撃しようなんてこれっぽっちも思ってないぞ……というかもうこいつら真っ黒なんだけど。
「あの、ありがとうございました――」
感謝されてるけど俺何もしてないよ。
まあもう適当に合わせるけど一体何がなんだか……。
――ズドン゛!!!!!!!!!
……。
「凄い! まさかあれも一瞬で?」
違うんです……。
そんなとんでもない雷俺には使えないんです。
でももう後にも引けない感じなんです!
……。これ、気付いたんだけど俺主人公じゃなくないか?
この魔法を使った奴が主人公で俺は……かませ犬、というよりなんか都合よく扱われる……なんならモブまである。
しかも……。
「この動画、サイトにアップロードしてもいいですよね?」
こういうの何て言うんだっけ?影武者?操り人形?
はぁ。チート無双成り上がり物語が一気に偽英雄譚に変わっちまった。
……もういっそのことこれを利用して汚く儲ける方に舵きっちゃおうかな。