12話 光
「アイちゃん、もっともっと飲めるでしょ!」
「あ、ぐ……も、無理……」
「まぁったくだらしないわね!その無駄にでかい胸は何のためについてるんだぁ! あぁ?」
「お酒、飲むのに関係な……。うっ……」
ひどい睡魔。
起き上がるのも億劫。
こんなに酔ったのなんていつ以来だろう?
このまま眠ってしまえば凄く楽。
楽なんだけど……アイさんの背中に見えるあれ……多分だけど、私の目が間違ってなければ……翼、だよね?
こんなに酔ったのも、こういった存在を見るのもいつ以来だろ?
確か最後に見たのは小学生の時……影山君と一緒にいて……2人して泣いて逃げて……。
あの日から夢の中で変わった存在が度々出てくるようになって……。
そのせいかしら、案外アイさんが人間じゃなくても驚きはしない。
でも……。
もしこれを影山君が知らないままお付き合いをしているのだとしたら、アイさんが影山君を騙しているのだとしたら、私はそれを許せない。
影山君を私から奪わないで……。奪うな……。
憎い。憎い憎い憎い憎い憎い――
「ただいま」
……。影山君の、声。
どこかに行っていたのかしら?
そういえば姿が見えないって思っていたけど……
それにしても、あの手に持ってるのって――
「!?……。……。課長、大丈夫です。これは夢です。夢ですから……」
「影山、君?」
影山君の大きな手が私の額から顎のラインをゆっくりとなぞる。
そして異様な雰囲気の中、影山君の顔が近づいて……
「あ、れ……。わた、し――」
◇
帰宅直後まず目に入ったのは翼を丸出しにしていたアイ。
そしてそれを叱ろうとするよりも、先に目に入ったのはその身体を有り余る魔力によって神々しく光らせた課長。
前にも1度似たような状態になった所を見かけたことがあったが、そのときに比べてその質、量は桁違い。
経験上こうなった場合、いかなる効果も意味を持たず、敵が襲ってくる。
それで高校の時は丸一日費やして敵を処理したっけな。
あの時を境に敵は《神子》の存在確認とおおよその場所を特定。
俺は忙しい日々を手に入れて急激にレベルアップすることになった。
……だから今回もこれきっかけで敵が一気に襲いかかってくるのは明白。
しかもこの状態を放っておけば課長が《神子》だとばれた挙げ句、様々な種族が課長を求めて争いを始め……おおよそこの世界は破滅する。
確かあの時は嫉妬心が原因で暴走して……
今回は何が原因なのかわからないが同じ様に嫉妬によるものなのだとしたら、それを宥めてやる必要がある。
だから俺はそっと課長の頭や顔撫でて嘘をつく。
酔っているからか、その効果は見え始めるものの、これだけじゃ足りないみたいで……俺は意を決してその身体を抱きしめた。
「顔が近づきすぎて恥ずかしいけど、取り敢えず光は止まった、か……。それに……。はぁ。どうにか夢って思い込んでくれるといいんだけど」
課長は安心感と酔いでなのか、寝息をたて始め――
「ぐがあっ!むにゃむにゃ……」
「こっちは可愛らしく寝てるのに、姉ちゃんは相変わらず豪快。これじゃあ100年の恋も冷めるよな」
いつの間にか元気だった姉ちゃんまで寝てしまったようだ。
「た、たずがった……」
「姉ちゃんの相手をしてくれたのは助かったけど、その翼はしまえ。意図的なものじゃないから今回は仕方ないが……次やったらどうなるか――」
「すげえ魔力を感じたが……。もしかしてこの飲んべえドラゴンか?いいやどう考えても違う……。なら《神子》はお前だな。土竜人の奴らの気配が急にいなくなったと思って地表をうろうろしてたのが幸をそうしたみたいだぜ」
「今度はミミズか……。地底人ってのはどいつもこいつも……ってお前の種族と名前が、見える」
『世界の仕組みに変化発生。一部人間に魔法とスキルが発現。種族名、ランクの視認が自由となりました』
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