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 片耳のイヤリング 

作者: 麗菜


 春風に、片耳だけのイヤリングが

 優しく揺られる。

 

 繊細で美しい、ガラス細工のイヤリング。

 ー これは、私の大切な宝物。


 私は、この耳元で揺れるものと同じ、

 片耳ー 右耳だけのイヤリングをいくつか

 持っている。



 片耳だけ …… 。

 その理由は。 

 もう片方を、私の大切な人が持っていたから。


 私の持っている片耳だけのイヤリングは、

 すべて。その大切な人からの贈り物だった。


 ふたりで、ひとつ。

 彼女と私のものが揃って、ひとつ。


 ふたりの想い出がひとつ、増える度に。

 大切がひとつ、できる度に。

 ひとつずつ、増える。

 

 そんな私たち ー

 ふたりだけの、特別なイヤリングだった。


 


 でも、もう二度と。

 

 このイヤリングがひとつに揃うことは、ない。

 もう片方ー 左耳の持ち主。 彼女 、は。


  …… すでに、 この世にいないから。




 左耳、の彼女は。

 数ヶ月前に、病気で亡くなった。  


 白雪の舞う、ある寒い冬の日のことだった。

 16歳、という若さで。

 彼女はその命を散らした。 

 

 

 どこまでも優しい桜のような人、だった。

 私のたったひとりの「特別」で。

 誰よりも大切な人だった。


 私の姿を映す、その瞳は真っ直ぐで。

 宝石のように、美しく煌めいていて。

 何よりも綺麗だった。


 彼女の腕の中は、暖かくて。

 いつも、その優しいぬくもりに

 安心させられていた。


 優しい笑顔。 綺麗な声。 凛とした姿。

 どこか儚げな雰囲気。 

 私の前限定の、あざと可愛い姿。

 

 「 ティア 」 、と。 

 私の名を呼ぶときの

 砂糖菓子のように、甘い響き。

 それは、私だけのもの。

 

 

 声も、顔も。ちょっとした、仕草や癖も。

 ぜんぶ、ぜんぶ。 大好きだった。

 

弱さも、強さも。 

嘘も、本当も。 


 彼女のすべてを愛してた。

 

 彼女だけが、

 何があっても信じられる人で。

 唯一、「本当の私」を知る人で。

 

 どうしようもなく 特別、だった。

 




 彼女はもう、いない。

 

 私を誰よりも大切にしてくれた  彼女は、

 心に優しい「光」を灯してくれた 彼女は、

 愛してる、と。

 甘く優しいキスをくれた  彼女は、 ……… 。


 もう、いない。

 

 

 彼女には、朝がこなくて。 でも。 

 私には、朝がきて。  毎日、毎日 ー 。

 

 彼女のいない、この世界を。

 私は、今日も。

 生きていかなくては、いけなくて。


 辛くて、悲しくて、苦しくて。

 ー  寂しくて。


 彼女を亡くした私は、絶望の淵にいた。


 彼女と過ごした、優しい時間で

 愛される幸せを知ってしまったから……

 

 


 彼女が亡くなってから、数ヶ月 ー 。


 

 私は、一通の手紙を見つけた。


 それは、彼女がお気に入りだった本に

 挟み込まれていた。

 

 久しぶりに見る、彼女の綺麗な字。


 彼女から私へ 。

 最期の手紙だった。



 

  ティア へ


 出会ってくれて、ありがとう。

 側にいてくれて、ありがとう。

 私はティアに出会えて、幸せでした。

 

 ティア、自分の信じた道に誇りを持って。

 泣きたいときは、泣いて。

 笑いたいときは、笑って。

 ティアらしく、前だけを向いて。

 自分の道を歩いていって下さい。

 その隣に、私はいることができません。

 でも、大丈夫。

 世界は、ティアが思っているよりも、

 優しくて綺麗な場所です。

 だから、信じて。素直になって、ティア。





 ティア、愛してる。

 誰よりも、愛してる。

 

 ふわふわとした、天使のような

 笑顔が大好き。

 砂糖菓子のような、可愛い声が好き。

 きらきらとした、綺麗な瞳が好き。

 優しいところが好き。

 真っ直ぐなところが好き。

 純真無垢な私の天使。

 

 ティアが大好き。

 

 ティアの幸せが、私の幸せ。

 だからね。

 幸せになって、私の可愛いお姫様。 


 愛してる、ティア。

 来世で会えたら。

 もう一度、私の大切な人になって下さい。

 

 

 

    ルナ より



 封筒には手紙と一緒に、片耳だけのイヤリングが

 入れられていた。

 

 ガーベラの花をモチーフにした、

 繊細で美しいイヤリング。


 三本のガーベラ。

 花言葉は、「 愛してる 」。


 気づいたら、

 知らないうちに閉じこめていた

 たくさんの想いが胸から、

 溢れて。零れ落ちて。

 

 涙がひとすじ、頬をつたっていた。

 彼女の言葉、ひとつひとつが心に響いて。

 切なくて、悲しくて。…… 愛しくて。

 

「   愛してる、ルナ ルナ ルナっ ……  」


 彼女の名を。

 何度も何度も、呼んで。

 大切な、その名を。

 何度も何度も、口にして。

 

 その日、私は気がすむまで泣いた。



 

 


 図書館の、枝垂れ桜の木の下にきていた。

 彼女と私の想い出の場所。

 私たちが出会い、過ごした 大切な …… 

 この場所に。

 

 柔らかな陽の光が、辺りに降りそそぐ。

 どこまでも優しい、春の日差し。

 

 私は、澄み渡る青空へ向けて、話し出した。

 手紙の返事と私の覚悟を。

 大切な彼女へ。

 

 「 ルナ、ティアです。 手紙、ありがとう。

  私もルナのことが大好きです。

 

  出会ってくれてありがとう。

  心に優しい光を灯してくれて、ありがとう。

  側にいてくれて、ありがとう。

  かけがえのない幸せを、ありがとう。


  ルナに誇れる自分になれるように

  私、頑張るね。 ルナとの『約束』も、必ず守る。

  自分らしく、強く強く歩いていくよ。

  

  頑張るから……

  だからね、今度会ったときには

  いっぱい褒めて、優しく抱きしめてね。


  ルナ、愛してる。

  来世でも、その先でも。

  私は、必ずルナを見つけ出して、ルナに恋するから。

  だから、ずっとずっと、よろしくね 」


 話し終えた瞬間、風が吹いた。

 桜の花びらが、ふわりと美しく舞った。

 

 私の右耳では、彼女から贈られた

 片耳だけのイヤリングが、優しく揺られていた。


 

                       end.

  

  

    

 

 


 


 

 

 

 

 





 

 

 




 

 



 

 

 




「片耳のイヤリング」読んでくださり、

ありがとうございました。

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