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7話:【剣姫】

 ガルートの鍛冶屋を出たゼノンは空を見上げた。

 陽はまだ天高く昇っていた。

 ゼノンの左手は自然と、腰に付いている剣の柄に触れていた。


「まだ時間はありそうだな。試し斬りも含めて少し外に行くか」


 塔に入るにしても、先ずは剣の調子を確かめたいゼノンは、ゴブリンの討伐をすることにした。

 ギルドに行くといつものようにゼノンを罵る声が聞こえてくるが、無視して受付に向かう。

 受付にはカトラがおり、ゼノンが見えると手を振って出迎えてくれた。


「ゼノンさん、受け取ってきましたか?」

「ああ。軽いし扱いやすそうだ。これから少し試し斬りでもしようか思って」

「そうでしたか。ではゴブリンの討伐依頼を?」

「今日はそうするつもりだ。明日から【原初の塔】に挑むつもりだ」

「分かりました。では手続きを進めますね」


 カトラはそう言って手続きを済ませる。

 ドッグタグを受け取ったゼノンは王都近郊の、いつもの場所へと向かった。

 森に着いて少し、ゼノンは魔物を探す。

 少し歩くと、ゴブリンの足跡が見つかった。


「まだ新しいな。近くにいるのかもしれない」


 足跡を追っていきながら、慎重に周囲を見渡す。

 少ししてゴブリンの姿が見えた。


「数は6か。問題ないが、慎重にいこう」


 数分後、ゼノンの足元の地面にはゴブリンの死体が六つ出来上がっていた。

 そして手に持つ剣を見つめる。


「想像以上の斬れ味だな」


 刃こぼれもないことに満足そうに頷く。

 長年使ってきたかのように手に馴染む剣。


「これなら攻略も進みそうだ」


 それから何回かゴブリンとの戦闘を重ね、気付けば陽が傾いていた。

 時間がいい感じということもあり、ゼノンは宿に帰ることにした。

 宿に戻ったゼノンは今後の予定を立てるがほとんど決まっており、ゼノンは早々に眠りにつくのだった。

 翌朝、起床したゼノンは宿を出て、【原初の塔】に挑むための必需品の購入に向かった。


「食料は後回しにして、先ずは回復薬とかの消耗品だな」


 大通りを歩き、良さそうな店を探す。

 十分ほど歩くと、回復薬などが売っている店を見つけたので入って見た。

 店内は少し狭いが、他の店よりも多少安く売られている。

 じっくりと店内を見渡していると声がかけられた。


「あの、何かお探しですか?」


 ゼノンが振り返ると、活発系の女の子が一人立っていた。


「回復薬とかの薬関係を買いに来たんだが……」

「どうかされましたか?」

「他の店と比べると値段が安いと思って」


 ゼノンの言葉に彼女は手を叩いて笑顔で答えた。


「それでしたら知り合いの挑戦者(チャレンジャー)が主に薬草採取を行っていますので、それで安く仕入れています。他にも伝手を使って諸々安く仕入れているんです」

「なるほど。通りで安いわけだ。他の利用者もいるんじゃないのか?」

「いますよ。とはいっても店が小さいので買っていく人のほとんどが常連ばかりです」


 そう言って彼女は苦笑いを浮かべた。


「なら俺も常連客の仲間入りか」


 ゼノンの言葉に呆けた表情をするが、次の瞬間には満面の笑みを作った。


「ありがとうございます! 私はマリーっていいます」

「俺はゼノン。まだまだ底辺の挑戦者(チャレンジャー)をしている」


 ゼノンとマリーは互いに握手を交わす。


「それじゃあ、将来の常連さんには沢山買ってもらわないとですね!」

「ハハッ、お手柔らかにな」


 それからマリーの説明を聞きながら、必要な道具を揃えていく。


「あとこれもあった方が便利ですよ」

「待ってくれ。これ以上持って行けないって!」

「あっ……普通はマジックバック持ってないですもんね……」


 マジックバックとは、小さな袋に大容量の荷物が入る高価な魔道具(マジックアイテム)である。

 マリーの常連客の正体が気になるゼノンは、訪ねてみた。


「もしかして常連客の中に持っている人が?」

「はい。この【原初の塔】に挑み始めてからずっと、私の店を利用しています」

「へぇ~……」

「名前は――あっ! 丁度いらしたみたいですよ!」

「マリー」

「いらっしゃいませ、アイリス様!」

「……様?」


 ゼノンはゆっくりと振り返った。

 すると、そこに立っていたのは茶色のフードマントに身を包んだ人物であった。

 ゼノンはこの人物が体格から女性だと判断した。

 彼女がゼノンを一瞬見るも、すぐに視線を戻す。


「マリー、前に頼んでいた物は用意できてる?」

「回復薬のセットですよね? それでしたら出来てますよ」

「助かるわ。それと新しい常連が出来たようね」

「【原初の塔】に挑戦しているみたいですよ。これは踏破者の一人として何か助言してあげたらどうですか?」

「マリー、この人が【原初の塔】の踏破者だって?」


 ゼノンの言葉に彼女が振り向いた。


「自己紹介がまだだったわ。私はアイリス。アイリス・ティファ・グラシア」

「アイリス・ティファ・グラシア……ん? グラシアって……えぇぇぇ!?」


 フードを取ると、艶やかな銀髪を靡かせ、深紅の瞳がゼノンを捉えた。

 ゼノンはこの人がグラシア王国の王族であり、第二王女だと言うことを理解した。

 そしてこのアイリス・ティファ・グラシアこそ、【原初の塔】【賢者の塔】を踏破した人物であり、またの名を――【剣姫】。


「こちらが名乗ったのだから名乗るのが礼儀では?」

「失礼しました。俺はゼノンといいます。まさかあの【剣姫】と謡われるアイリス様だったとは……」

「敬語も様も不要よ。君もここの常連になるのならアイリスでいいわ」


 ここで何も言わない方がいいと判断したゼノン。


「分かったよアイリス。俺のこともゼノンいい。にしても、まさかアイリスがここの常連だったとは驚いた」

「私が挑戦者(チャレンジャー)になったときから利用している。君――って、いや同じ年みたいだな。ゼノンもいずれは大物になるような気がする」

「いやいや、俺なんてまだ10階層をようやく突破したところだ」


 ゼノンの顔に影が落ちる。

 その理由を瞬時に察したアイリスは、あえてそこには触れずに会話を続ける。


「塔に挑むこと自体危険だ。ゼノンは【原初の塔】の残された文についてどう考えている?」


 アイリスの言う残された言葉とは。

 ――【原初の塔】挑みし者よ、学ぶがよい

 ゼノンは真剣な顔で、自分が導き出した答えを告げた。


「死や戦いとは何か、その全てを学ぶことができる。それが【原初の塔】の役割だと、そう解釈した」


 数分、静寂となり二人の視線が交わう。

 ほどなくしてアイリスがふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「そうか。その答えが出せたなら大丈夫だろう。きっと強くなる」

「どうしてそう言える?」

「目を見れば、その奥に潜む覚悟が分かる。他にもどのような経験をしてきたのかも、な」

「……そうか。流石としか言いようがないな」

「その意思が折れない限り大丈夫だろう。ゼノンが高みへと来るのを待っているわ」

「待っていてくれ。アイリスのいる高みへと昇り、先へ、さらに先へ、そして俺は全ての【試練】を制覇してみせる」

「へぇ、誰も成し遂げたことのない偉業を?」

「それが俺の夢だ」

「……そうか。では追い抜かされぬよう、私はさらに先へと進むとしよう」


 ゼノンとアイリスは固い握手を交わした。

 アイリスはマリーから頼んでいたのを受け取り、帰ろうとする。


「アイリス様、待ってください」

「マリー?」

「次は【勇者の塔】に?」

「……【勇者の塔】を踏破すれば、私はみんなに認められるの」


 アイリスの顔に影が落ちるが、それも一瞬だった。

ゼノンはその一瞬を見過ごさなかったが、聞こうとはしなかった。

 人は誰しも聞かれたくないことの一つや二つあるからだ。


「え、えーと、アイリス様。【勇者の塔】の踏破者はかつての英雄と勇者の二人しかいません。くれぐれもお気を付けて」

「ありがとう。それとゼノン、先で待っているわ」

「ああ、きっと追いついて見せる」

「頼もしい言葉ね。ではまたどこかで」


 アイリスはそう言って店を去っていった。

 ゼノンもマリーの店で買い物を済ませ、食糧なども買い揃え、早々に宿へと戻るのだった。





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