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6話:新たな剣

 あれから剣が出来るまでの一週間、ゼノンは何回もゴブリンと戦い続け、自身の見合った戦い方を見つけようとしていた。

 そしてゼノンは自分がどのような戦闘が得意なのか、ある程度把握できる様になっていた。


「俺が得意なのは魔法を使いながらの戦闘だな」


 加えて、パーティでは常に周りの状況を把握しながら戦っていたので、自然と周囲を観察することができていた。

 唯一、他の者ができない芸当をゼノンは身に付けている。

 それはマルチタスクならではの、魔法の同時展開であったのだ。

 普通の魔法士では、火魔法を使いながら水魔法の使用はできない。

 だが、ゼノンならそれが可能なのだ。

 その強みを活かしつつゴブリンを倒し続けたゼノンは、自身でも納得のいく戦い方を身に付けたのだった。


 ゼノンが剣を預けてから一週間後。

 ギルドに向かってその扉を開いた。

 ゼノンを見て聞こえてくるのは馬鹿にする声や罵りの声であった。


「今日も森でゴブリン狩りかぁ?」

「これだから底辺は困る。もっと底辺らしく俺達の荷物でも持てばいいのによ」

「まあ荷物持ちに見合った報酬しかやらんけどな」

「本当かぁ?」

「おいおい。流石に無賃労働しろとは言わねぇよ。俺は良い奴だからな」


 そんな声が聞こえてくる。


「バルガ達、本当はこの無能に殺されたんじゃないか?」

「ミノタウロスの報酬を独り占めするためにか。可能性としちゃあゼロじゃない」

「だろう? ゼノンの野郎にミノタウロスを倒す実力があるとは思えないがな」


 どの挑戦者(チャレンジャー)からも聞こえてくるのはその様な会話ばかりであった。

 ゼノンがどのパーティーからも声が掛けられないはその様な会話の理由が半分と、足手纏いを守れるほどの余裕を持っていなかったからだ。

 ゼノンもそれを理解して声を掛けようとはしていない。

 むしろ今は一人の方がいいからだ。

 今度は仲間が死なないために強く、さらに強く。

 そしてここにいる者達を見返すために。

 そんな中、ゼノンの姿を見つけたカトラが声をかけた。


「ゼノンさん、今連絡がありましたよ」


 カトラはそう言って周りに聞こえない様にゼノンに、剣が完成したことを告げる。


「やっと完成したのか」

「はい。早く使って欲しいって言ってましたよ」

「なら早く受け取りにいかないと。俺も楽しみにしていたところだ」


 そしてカトラは少し表情に影を落とした。


「どうした?」

「いえ、その……」


 言うか躊躇うカトラ。だがそれも一瞬で、ゼノンに言う。


「周りの声なんて気にしなくていいですよ。ゼノンさんが誰よりも頑張っているところは私達受付が一番理解していますから。皆、ゼノンさんを応援していますよ」


 カトラの言葉に、ゼノンは受付へと顔を向けた。

 笑顔で会釈する者や、軽く手を振る者もいる。ゼノンはカトラに顔を向け直し、お礼を告げた。


「ありがとう。それだけで頑張れる気がしてきたよ」

「どういたしまして。それは早く受け取りに行ってください」

「ああ」


 ギルドを出たゼノンは、ガルートが営む鍛冶屋に向かった。

 道中、カトラの会話を思い出す。


「応援している、か……」


 そのような言葉を言われたことがなかったゼノンには、新鮮に感じたのと同時、嬉しさとその期待に応えたいと思った。


「もっと強くならないとな」


 ゼノンの表情に久しぶりの笑みが浮かぶ。

 少しして王都の外れにあるガルートの鍛冶屋に到着したゼノンは、古びた扉を叩いてから、何も聞かずに中へと入った。


「ガルート、ゼノンだ。カトラから剣が出来たと聞いて来た」

「ゼノンか! よく来た!」


 そうして奥から一振りの剣を持ったガルートが出てきた。

 ガルートの顔には笑みが浮かんでいるが、それはゼノンも同様だ。


「期待してもいいのか?」

「誰に物を言ってやがる」


 ゼノンの言葉にそう返すガルートは、無造作に置かれている椅子に腰を下ろした。

 ガルートは手に持った剣をゼノンへと手渡す。


「ほれ、抜いてみろ」


 剣を受け取ったゼノンは、鞘から引き抜いた。


「おぉ……!」


 前回使っていた量産型の剣より手にしっくりとくる。

 重さも前回の比ではないくらいに軽く出来ている。

 ガルートから距離を取ったゼノンは剣を構えて振るう。

 何度か振るったあと、剣を鞘に収めてガルートに向き直った。

 ガルートの顔には先ほど以上の笑みが浮かんでいた。


「どうよ?」


 その言葉にゼノンはガルートの目を見て、同様の笑みを浮かべた。


「最高だ。これなら【原初の塔】だって踏破できそうだ」

「当たり前だ」


 そうしてゼノンは前金を払っていたので、残りの半分をガルートに支払った。


「おいおい、少し多くないか?」

「気のせいだろ?」

「……」


 ガルートの視線に耐えられなかったゼノンは答えた。


「仕事以上の働きをしてくれたんだ。感謝の気持ちだよ。受け取ってくれ」

「だがなぁ」

「なら、貸してくれた剣の手の分だと思ってくれて構わない」


 程なくしてガルートはため息を吐いた。


「分かった。確かにお前の気持ちを受け取った」

「それじゃあ」


 出て行こうとするゼノンをガルートは引き止める。


「待て」

「まだ何かあるのか?」

「定期的に剣は俺に見せろ。素人と職人のする手入れには大きな差がある。たまには見せに来い。俺がしっかり手入れをしてやる」


 ガルートの言葉に思わず呆けた表情になるゼノンは、次の瞬間には笑った。


「急に笑ってどうした?」

「いや、ガルートがそう言うとは思わなくて」

「おい、俺を馬鹿にしてるのか?」

「違うさ。ありがとう。定期的に見せに来る」

「別に見せるだけじゃなく、顔くらい見せに来い」

「そうだな。話でもしよう」


 ゼノンはガルートと握手を交わし、店を後にするのであった。



次の更新は19時です。


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