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3話:夢と仲間のため

【原初の塔】を出たゼノンは、ギルドへと向かった。

 ギルドは多くの人で賑わっていたが、一人、ボロボロの人物がいた。

 ゼノンである。

 そんなゼノンの恰好に疑問を抱く者はいない。それは、この場所がギルドで挑戦者(チャレンジャー)が多く存在するからだ。

 そして辞めていくほとんどが、仲間を失ったことで退いていく。

 だが、仲間が全滅したにもかかわらず、ゼノンの深紅の瞳からはその意思が全く感じられなかった。

 順番が回ってくる。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「【原初の塔】10階層で仲間が死んだ」

「それはお気の毒でした」


 受付嬢はゼノンの最初の言葉で、この人も辞めていくのかと、そう思っていた。

 ドンッと出されたミノタウロスの魔石と、数枚の挑戦者(チャレンジャー)カード。


「回収した遺品の預かりと、魔石の買い取りをお願いしたい」


 受付嬢はゼノンを見ると、強い意志を感じ、理解した。

 この人は辞める意思がないと。仲間を失ってなお、挑み続けるのかと。

 今までに見たことのないゼノンという人物に、彼女はつい訪ねてしまった。聞きたかったのだ。


「あの、どうして挑戦者(チャレンジャー)を辞めにならないのですか?」

「どうして、か……正直、仲間が死んだのは悲しいよ。でも、それで辞められるほど、俺の夢は小さくない。死んでいった仲間の想いも背負ってでも、俺は高みを目指したい。それが死んでいった仲間への恩返しでもある」


 ゼノンの覚悟は受付嬢のみならず、聞いていた他の面々も思わず「ほぅ……」と感嘆の声を漏らしていた。


「つかぬ事を聞きました。あなたのような人が先へと行くのでしょう。それでは魔石を買い取らせていただきます。挑戦者(チャレンジャー)カードに関しても、こちらで預からせていただきます」


 数分待つと、受付嬢が戻ってきた。


「ミノタウロスの魔石の買い取りですが、金貨三枚となりますがよろしいですか?」


 頷くゼノンは受け取り、ギルドを後にする。

 取っていた宿に戻ってきたゼノンは今後の方針を決めるため、ベッドに腰を下ろして深く瞑目した。

 そして今は一人でやっていくことを決めた。

 理由は、また仲間を失う怖さからだった。

 下の階に降りたゼノンは夕食を食べ始める。

 そこでゼノンの耳にある会話が聞こえてきた。

 自分の悪口を言われていると思ったが違うようだった。


「ここ、グラシア王国の王都にある【原初の塔】のこと知っているか?」

「知っているって何のことだ?」

「石碑だよ。書いてるだろ? 『【原初の塔】挑戦者よ、学ぶがよい』って」

「それがどうした? 最初の塔だから弱いってことだろう?」

「まあ、そうだよな。でも実際、ボスクラスは強いじゃないか」

「話を聞くとみんなそう言っているよな。俺達はまだ最下層で十分さ」


 そんな会話がゼノンの耳に入ってきた。

 ゼノンは改めて考えることになる。


 ――【原初の塔】挑戦者よ、学ぶがよい。


 これはどういった意味が込められているのだろうか?

 先駆者達はこのことに関して何も明言していない。

 知らない可能性もあるだろう。

だが、とゼノンは思う。


(恐らく、いや――何か意図があるはずだ)


 夕食を早々に食べ終えたゼノンは、自室に戻り考え更けることになる。

 10階層までは何を学んだのかと。

 気付けば夜が明けており、朝陽が部屋の窓から差し込んでいた。

 そして一晩考えたゼノンが出した答えとは……


「この【原初の塔】、全100階層は、〝戦闘に関するあらゆる基礎〟としか考えられない。つまりはこの塔で戦いとは何なのかを学び、成長しろと言うこと」


 そしてこの学びを活かし、成長した挑戦者(チャレンジャー)は次なる塔、【賢者の塔】へ挑むべし。

【原初の塔】とは、言い換えれば【成長の塔】とも呼べる。

 ゼノンはそう答えを導きだした。


「今俺に出来ることは少ないが、まずは安定した戦いと、敵の動きを予測することか」


 ゼノンは一度仮眠を取るのだった。

 起きたゼノンがまず向かうことにした場所は鍛冶屋であった。

 理由は使い慣れた剣が折れてしまったからだ。

 ゼノンの使用していた剣は量産されていた物であり、特注であるオーダーメイドと比べると性能、強度の全てが劣る。

 なので、今回のミノタウロスを倒したことで得た資金を使い作ることに決めた。

 ゼノンが王都に来て二年。

 現在18歳のゼノンではあるが、王都の鍛冶屋に関しては詳しくはない。

 なのでギルドに出向き、オススメの鍛冶屋を聞くことにした。

 ギルドに到着したゼノンは受付へと向かう。


「次の方――って、あなたは先日お仲間を亡くされた……」

「ゼノンだ」

「私は当ギルドの受付嬢をさせていただいております、カトラと申します。それでゼノンさん、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 カトラと名乗った彼女は、要件を聞いてくる。


「剣が折れたので、新しく作ろうかと思って。今回は量産されている剣じゃなく、オーダーメイドで作ろうと思うんだ」

「オーダーメイドということは、職人である鍛冶師を探していると?」


 カトラの言葉にゼノンは頷いた。


「今までの剣では耐久力がなく、斬れ味もすぐに悪くなる。前回ミノタウロスと戦った時のことを考えて、今必要なのは優れた剣じゃないかと考えたわけだ。魔石を換金したことで資金にも多少なりと余裕ができたことだし」


 カトラは「なるほど」と頷き、数秒の瞑目をした。

 ミノタウロスの魔石は金貨三枚。ならばそれなりの剣を作れるだろうと。

そして目を開いてゼノンを見た。


「では私が知っている鍛冶屋でオススメの場所が一つあります」

「教えてくれるか?」

「はい。受付嬢ですから」


 普段、人に鍛冶屋を紹介することなどないカトラであったが、あの時見せたゼノンの強い意志が宿った目が頭から離れなかったのだ。

 この人ならきっと、誰も成し遂げられなかった《神の試練》を全て制覇すると。

 少しでも力になりたいと。

 そんな想いでカトラはゼノンに鍛冶屋を紹介したのだった。



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