表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

2話:勝利と犠牲

 中に入ると、背後の扉が勢いよく閉じた。

薄暗い空間の中央に背丈三メートル近くはある、半人半牛の魔物が佇んでおり、片手にはこれほどかと思わせるような、背丈ほどの戦斧を握り締めていた。

 中に入ったゼノン達を認識したミノタウロスが、武器を構え――吠えた。

 ビリビリと肌に伝わり、それだけで逃げたくなる気持ちに駆られる。


「怯むな! 気を引き締めろ!」


 バルガの声にゼノン達は目を覚ます。

 自分達は挑戦者(チャレンジャー)だ。

 挑みに来たのだと。

 各々が武器を構える。

 互いに睨み合い、動こうとはしない。

 緊張の空気の中、先に動いたのはゼノン達であった。

 二人で一気に間合いを詰める、身動きを封じるために接近した。


「これでも喰らえ!」


 一人の男が剣を振るったが、僅かな傷を付けただけで致命傷には程遠い。

 続けてもう一人が攻撃を加えようとしたところで、ミノタウロスが戦斧を振るい、二人を弾き飛ばす。


「がっ!?」

「ふぐっ!?」


 何とか防ぐことは出来たが、それでも衝撃は大きく無様に地面を転がる。


「大丈夫か! ゼノン!」

「分かってる!」


 すぐさま駆け寄ったゼノンは仲間を起き上がらせ、交代させる。

 その間にもミノタウロスは攻撃をしてくる。

 戦斧を振り下ろすと、それだけで床の破片がゼノン達へと襲い掛かる。

 ゼノンの前に駆け付けたバルガが盾で防ぐ。


「ゼノン、今のうちに体制を立て直せ!」

「言われなくてもそのつもりだ!」


 瞬時に体制を立て直し、ゼノン達は再びミノタウロスに攻撃を開始する。

 それから十分ほど経過し、ミノタウロスは体力を消耗したお陰か、攻撃の手が緩くなった。

 ゼノン達は目配せをし、これがチャンスだと悟る。

 だが、ゼノンは少しの違和感を抱いていた。

 どうしてミノタウロスは戦斧を片手で扱っているのかと。

 両手で扱った方が威力は出るはずだと。

 ミノタウロスを囲み、あと少しと言うところだった。

 ミノタウロスが嗤ったように見えたと思った直後、ゼノンの予感が的中した。

 戦斧を両手で持ち直し、構えたのだ。


「みんな、避けろぉぉぉぉお!」


 一瞬だった。

 横に薙ぎ払われた戦斧の一撃は、一切合切を吹き飛ばした。

 ここからが本番だったのだ。


「バルガ!」


 ゼノンはバルガに駆け寄る。

 防具の上から深く斬られており、長くは持たない。

 どんな回復薬や魔法を使ったとしても、治すことは不可能だった。

 他の仲間の即死の者や、バルガ同様に深く傷を負った者がいる。


 ――全滅


 その二文字がゼノンの脳内を過った。

 バルガは支えるゼノンの腕を掴む。


「す、まん。もっと慎重に、立ち回る、べきだった……」

「そんなことはどうでもいいんだよ!」


 バルガはゼノンに微笑み、告げた。


「勝て、ゼノン……」


 そしてバルガの掴んでいた腕が力なく落ちた。

 死んだ。

 他の仲間が言いたいことをバルガが代弁したと言いたげに死んでいった。

 そんな中、ミノタウロスは今起きていることは関係ないとばかりに、戦斧を構え、攻撃態勢に入った。


「……けるな。ふざけるなよ!」


 力強い罵声が空間に響き渡る。

 バルガは凡人のゼノンを認めてくれた人だった。

 バルガ達となら今後もやっていける。そう思っていた矢先のことだった。

 今回が思いの外順調で、楽勝にボス部屋まで辿り着いた。

 ここで一度退き返すべきだったのだ。

 もう一度情報を集め、慎重に行くべきだったのだ。

 後悔の念が押し寄せる。


「――くそがぁぁぁぁぁあ!」


 剣を持ち立ち上がったゼノンは、迫るミノタウロスへと駆け出した。

 風を切るような音を立てる戦斧をギリギリのところで躱し、剣を振るう。

 攻撃を避けては剣を振るう。

 まるで怒りのまま攻撃しているゼノンであったが、思いの外冷静にミノタウロスの動きを見ていた。


「――あがっ!?」


 戦斧の柄がゼノンの腹部に直撃し、勢いよく地面を転がった。

 そこに詰めてきたミノタウロスが、上段から戦斧を振り下ろそうとしているのが目に映る。


「ぐっ!」


 すぐさま立ち上がり剣の腹で戦斧を受け流すが、重い衝撃で半ばから剣が折れてしまう。

 マズいと直感で悟ったゼノンは下がるのではなく、前へと駆けだした。

 ミノタウロスもゼノンの取ったまさかの行動に動揺していた。

ゼノンはそのままミノタウロスの懐へと潜り込んだ。

そして――……


「仲間の仇だ。クソ野郎!」


 半ばから折れた剣で、戦斧を振るったことで前傾姿勢となったミノタウロスの首を掻っ切った。

 小さな悲鳴のあと、ミノタウロスの動きが止まり、斬られた首から大量の血飛沫が上がった。

 ドスンと地面に遅れて倒れたミノタウロスは、光の粒子となって消え、拳台ほどの魔石を地面に落とした。

 そしてゼノンはすでに息絶えたバルガ達見る。


「みんな、これで良かったんだよな……?」


 ゼノンの目には、バルガ達の死に顔が満足そうにしているように見えた。

 きっと見間違えじゃない。そう思うゼノは、遺品となる挑戦者(チャレンジャー)カードを回収した。

 そしてゼノンは、味方の全滅という大きな犠牲を払いながらも、【原初の塔】10階層ボス、ミノタウロスを倒すのだった。



最後までお読みいただきありがとうございます!

面白い、続きが気になるって人はブックマークと評価をしていただけたら励みになります!

☆☆☆☆☆→★★★★★

作者のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ