12話:【剣姫】とお茶
ゼノンは現在、マリーの店に向かっていた。
その道中で買い物をする。
買った者は片っ端から、ガルートから貰ったブレスレットに収納していく。
「荷物を持たずに済むのはいいな。大事に使おう」
このブレスレットをくれたガルートに心から感謝し、そしてガルートの仲間だった人たちに誇れるようにと。
マリーの店まで少しというところで、見覚えのある人物が前を歩いていた。
フードを被っている者は、ギルドでゼノンを助けた人物、アイリスだった。
「アイリス、だよな?」
「その声、ゼノンね」
振り返ったアイリスは柔らかい笑みをゼノンに向けた。
「ギルドでは助かった。ありがとう。それで【勇者の塔】に行ったんじゃなかったのか?」
「お礼は受け取っておくわ。行こうと思っていたのだけど、王城に行ったら呼び止められてね。当分王都を離れなさそうだから、王都の外で魔物を狩っていたところなの」
「そうだったのか」
王城で何があったのかは聞かない。
アイリスは王族だ。そう簡単に出て行けないのだろう。
「ゼノン、あなたこれからどこに行くの?」
「マリーのところだ。つい昨日攻略から戻ってきたところだよ」
「そうだったの。ちなみに今は何階層?」
「昨日20階層ボスを倒したところだ。思いの外苦戦した」
ハハッと笑うゼノンに、アイリスは続ける。
「ゼノンは前、10階層ボスを倒したって聞いたけど?」
「11階層からのスタートで、一週間塔に籠って攻略してた」
「一週間で……」
ゼノンの異常な攻略スピードに素で驚く。
普通、攻略は一日一階層が限界と言われている。
11階層からのスタートで、一週間で20階層ボスの攻略。
一日二階層は攻略しなければならない。
「いくら何でも早すぎる……何かしたの?」
「何か? 俺はソロだし特別何かしたわけではないな。これくらいが普通の攻略速度だろ?」
ゼノンにとっては普通の攻略速度だ。
だがアイリスには先のように、ゼノンの攻略速度が異常なことに気付いていた。
「索敵に野営での警戒だってある。何かしていると思うのが普通だと思うけど?」
「ある程度は全部一人で出来る。野営に関しては木の上や魔法で地面に穴を掘って隠れたりしていたよ」
「ほんと、呆れた……」
深い溜息を吐いたアイリスだった。
すぐにマリーの店に着くと、ゼノンとアイリスを見たマリーが驚いた表情でこちらを見てた。
「あ、あの……どうして二人で?」
「たまたま近くで会っただけだ。行く場所も同じだったから少し雑談をしながらね、ゼノン?」
「アイリスの言う通りだ。偶然だよ」
「そうですか。あ、すみません! それで本日はどのようなものを?」
「私はいつものだ」
「分かりました。ゼノンさんは?」
「回復薬とか諸々だな」
ゼノンは必要なものを伝えていく。
今回は収納のブレスレットがあるので、少し多めに買っていくことにした。
その他に、何か使い道がありそうな道具なども購入し、その全てをブレスレットに収納していった。
ゼノンがブレスレットにしまっていく光景を見たマリーが口を開いた。
「ゼノンさん、先ほどの収納、もしかしてマジックバックを買ったんですか?」
「私も気になっていたの。前は持っていなかったわよね?」
「マジックバックは持っていないが、これがその替わりだ」
そう言って腕に付けているブレスレットを見せる。
マジマジと見つめる二人にゼノンは、ガルートを含めて説明した。
「なるほど。形見を受け継いだのね」
「そういうことだ」
「にしても塔で出るんですね」
「出ることはあるけど、こういった魔道具は見たことがないわ。容量も膨大でわからないとなれば、国宝級よ。よくそんな代物を譲ったわね」
「俺だって驚いているんだ。そう言うな」
「まあいいわ。私からの忠告だけど」
そう言葉を区切ったアイリスの真剣な瞳がゼノンを捉える。
「そのブレスレットは国宝級の魔道具よ。あまり人目のある所で使わないことをオススメするわ。マジックバック程度なら気にすることはないかもしれないけど」
言われて初めて理解するゼノン。これを狙って襲ってくる者はいるだろう。
ゼノンはアイリスからの忠告を受け入れた。
「今度からは人目のないところで使うことにする」
「ゼノンが強くなるまではその方がいいわよ」
「忠告ありがとう」
それから少し雑談したゼノン達はマリーの店を後にした。
マリーの店を出て歩くとしばし、アイリスがゼノンに、一緒にお茶でもしないとか提案された。
「予定でもなければだけど、どう?」
「そうだな。予定もないし別にいいか」
「では私のおすすめの店を案内するわ」
アイリスの後に従って付いて行くゼノン。
歩くとアイリスが一軒の店の前で立ち止まった。
外装は綺麗で、人もそこそこ入っている。
「ここよ」
そう言ってアイリスは店の扉を開けて中に入った。
店員に案内されて席に着き、ティーセットを注文する。
待っている間、アイリスは【原初の塔】に関する色々な情報を話してくれた。
「ふむふむ。50階層からは苦戦しそうだな」
「私は一人だから。ゼノンは仲間を増やす気はないの?」
「そうだな……」
考えを話そうとしたところに店員が注文したセットを持ってきた。
店員が去っていき、ゼノンは口を開いた。
「仲間を失う恐怖が抜けきっていないのかもしれない」
「そう。あなたも」
ゼノンはアイリスの呟きを聞き逃さなかった。
「あなたも? それは一体どういうことだ? もしかして……」
アイリスが静かに頷いた。
「私も【原初の塔】で仲間を失った。それもゼノン、あなたと同じミノタウロスでね」
「そうだったのか。悪いことを聞いた」
「今でもゼノンのように、私も仲間を失う恐怖が抜けていないんでしょうね……」
少し話が暗くなったのでゼノンは話題を変えた。
「いつ、【勇者の塔】に挑む予定だ?」
「分からない。でも当分先になりそうね」
「先、か……」
「どうしたの?」
「いや、それまでに俺も【原初の塔】と【賢者の塔】を踏破すれば一緒に挑めると思ってな」
「無理でしょ?」
「無理かもしれないが、可能性はゼロじゃない」
「ゼノンの言う通り、ゼノじゃない。でも【原初の塔】に【賢者の塔】、二つの塔の最後に待ち構えるボスは容易には倒せない。それは理解しているでしょ?」
「20階層であの強さだ。だけど――」
ゼノンは強い意志に籠った眼差しをアイリスに向け、告げた。
「――俺が強くなればいい」
一瞬呆気にとられたアイリスは、次の瞬間には笑う出した。
周囲の視線がゼノン達に向けられるも、それを気にせず笑うアイリス。
程なくして落ち着いたアイリスは、笑みを浮かべる。
「あなたならやりそうね」
「当たり前だ。そもそも、こんなところで躓いていたら、いつまで経っても最強には程遠い」
「ふふっ、なら期待して待っていることにするわ」
「ああ、待ってろ。すぐに追いついて見せる」
それから二人は店を後にするのだった。
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