院長先生との交渉
「こんにちは!サルー院長先生いますか?」院長室に入ったミリアは元気に挨拶する。
「はい、いますよ〜。あら、ミリアさん、カリーナさん、フーゴくん、ジンくん、揃ってどうしました?」サルー院長先生がいつものおっとりとした口調で尋ねる。
「実は見て欲しいものがあるんです。」そう言ってミリアはフーゴに目配せして、フーゴは頷き狩ったキジとウサギを机の上に乗せた。
「あら、立派なキジとウサギだこと!これはどうしたんですか??」驚くサルー院長。
「これは私が狩りました!」
少し胸を張りながら誇らしげにミリアが答えた。
「え?ミリアさんが?でも、ミリアさんはまだ4歳じゃなかった?それに狩るための道具の貸し出しもしていないはずですが、、、。」サルー院長先生は困惑した様子である。
「はい。森にあるもので罠を作って狩りました。勝手に森に入ってしまってごめんなさい。」そう言いながらミリアは頭を下げた。
「ただ、孤児院の皆んなで美味しいお肉が食べられたらなって思ったんです。院長先生!私はこれからも森に入って狩りを続けたいんです!森での狩りを許可してくれませんか?」
「院長先生、私からもお願いします!今日私たち、ミリアが仕掛けた罠を4人で見に行ったの。本当にキジと野ウサギが掛かってたのよ。ミリアは獣道だって見つけるし慎重に行動してたわ!そして実際に獲物を捕まえていたの!」カリーナがミリアに続く。
「俺からもお願いします!今日ミリアから罠の仕掛け方を教えてもらって俺たちでも獲物を狩れるんだって分かったんだ!畑の野菜ももちろん大事だけど、皆んながもっと食べられたらなって思ったんだよ!」
「ああ、それにミリアが森に入るときは俺が必ずついて行くから、絶対無茶させないから許してくれないかな先生!」
ジンとフーゴもそれに続いて援護する。
「あらあら、まあまあ。ん〜どうしましょうか。本当にミリアさんがこの2つの獲物を狩ったんですね。確かにこの実力はすごいです。ただ、森へ入ることは狩りの実力があるからって許可出来ることではありません。」サルー院長先生は穏やかに言う。
「そんな、、、せっかくお肉も皆んなで食べられるのに、、、。」ミリアは思いが伝わらない悲しさで下を向いた。
「そんなにガッカリしないで。許可をしないと言ったわけではありません。院では森に入るためには、6歳になる時に講習を受けるようになってるでしょ?」サルー院長ほ笑顔を向ける。
「ああ!そう言えばそんなのを受けました!」カリーナが思い出した!とつぶやく。
「そうです。ミリアさんに狩りの実力があることは分かりました。ただ、森を歩くためには狩り以外にも気をつけることがたくさんあります。当院では年長の子が下の子の講習を担当して、森に入っても大丈夫と判断した場合にのみ森へ入ることを許可しています。ミリアさん、まずは講習を受けなさい。本来は6歳で受ける講習ですが、ミリアさんの受講を許可します。そこで合格したら森へ入って構いません。
ただ、10歳までは森の浅瀬までですよ。それに、10歳以上の子と一緒に森に入るのは絶対です。決して1人で森へ行ってはいけません。本当に危ないですからね。フーゴくん、先程必ずミリアさんについて行くと言いましたね。約束ですよ。」
「「「「ありがとうございます!」」」」
がっかりした様子だった4人はサルー院長の話を聴くと笑顔が戻り元気にお礼を言った。
こうして、ミリアの受講が決まった。
「ちなみに、このキジとウサギは孤児院の皆んなと食べようと思って持って来ました!!スープに入れてもいいですか?」ミリアがニコニコと満面の笑みで院長先生に尋ねる。
「もちろんですよ!中々子供達に栄養のある食事をさせてあげられなくてごめんなさいね。正直今月もまた寄付が減ったからそうしてくれるととても嬉しいわ。子供達が喜びますね。」サルー院長先生は申し訳なさそうな顔をしながら優しい微笑みを浮かべる。
「気にしないでください!そのために取って来たんです。」昨日は4人で食べたがやっぱり少しだけ申し訳ない気持ちがあったミリアは皆んなにお肉を食べてもらえることが嬉しかった。
その時、サルー院長先生が真剣な顔で話し始めた。
「……ミリアさん、フーゴくん、ジンくん、カリーナさん。皆さんにお願いがあります。これから冬が来ますね。今はまだ暖かいので作物が取れていますが、冬になると食べられる野草や木の実が無くなっていきます。去年は冬の間の食料が十分に確保できず、とても辛い時間を過ごしました。子供達が1人も欠けることなく冬を越せたのはある意味奇跡です。今年の冬は、長期保存のための作物や肉がまだ確保できていないので、去年よりもさらに厳しくなると想定していました。しかし、こうしてミリアさんが獲物を狩ってくる姿を見て、もしかしたら今年の冬は十分な食料を確保できるのではないかと考えています。
まだ小さい4人にお願いするのはとても申し訳ないのですが、子供達が生き残るためです。冬に向けた保存用の肉の確保をお願い出来ませんか?」
ミリアはまだ5歳の自分にサルー院長がお願いをすることに少しだけ驚いたが、それくらい危機的状況なのだと理解しすぐに頷く。
「もちろんです院長先生!!私も去年の冬はお腹が空いて寒くてとても辛かったです。。皆んながお腹いっぱいになる程とは行きませんが、飢えを凌げるくらいには狩ってきたいと思います!」力強く答える。
「ふふっ。期待してますね。ただ、講習はきちんと受けてくださいね。忘れちゃダメですよ。講習の担当は私の方で決めてお願いしておきますからね。」穏やかな表情に戻ったサルー院長先生が微笑みながらやんわり注意する。
「あっ!忘れてた!はい!!ありがとうございます!」
「大丈夫ですよ院長先生。僕たちも同行しますからね!」フーゴがしょうがないなという顔でフォローを入れ、残りの2人も力強く頷いていた。