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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
追放と帝国への旅
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5.勘違いでお祝いされる


 オレ達が起きて宿の食堂へ行くと、何だか客も従業員も騒ついている感じがした。


「何かあったんですか?」

 隣のテーブルのいかにも冒険者風のオッサンに話しかけてみる。


「どうやら街道で盗賊が出たらしいんだがな・・・」


 オッサンは語る。

 襲われた馬車はレムリア王国の公爵家のもので、金品のみならず中に乗っていた令嬢まで奪われたと言う。


「政争に敗れた令嬢だったらしくてな、レムリアの国境砦門に問い合わせたら、これ幸いと放置せよとの御達しがあったらしいぜ。

 気の毒過ぎる話だと思わねえか?」


 しかもクレモナ国内の街道に盗賊が出た事も責めず、むしろ後日見舞金を贈るといってきたらしい。


「大変気の毒だと思います・・・」

 恐らく気の毒なのは護衛と御者だと思う。


 食堂内でも襲われた公爵令嬢の話で持ち切りだった。

 国家憲兵が盗賊を捜索してみたものの、足取りも気配すらも掴めなかったそうで、盗賊とは名ばかりの暗殺者だったのではないか、という説が主流だった。


「ところで、兄ちゃん達は見かけない顔だな。」

 オッサンの問いにはオレ達の身分を誤魔化す為に、ロムレスからレムリアを通り帝国の親戚を訪ねる為に旅をしていると伝えた。

 するとオッサンは、何故か急にガハハと笑ってオレの背中をバシバシ叩いた。

「若いのに結婚の挨拶巡りか!いいねぇ、別嬪同士で似合いだぜ!頑張れよ!」


 因みに結婚の挨拶巡りとはこの世界の新婚旅行的なもので、最近は廃れている。


「いや、ちがっ」

 急いで訂正しようとしたが、さっきまで暗かった食堂の空気が一気に明るくなり、何故か皆に祝福されてしまった。

 リューシャは笑顔で、ありがとうございます。とかのたまっていた。


 そして、宿からは祝酒として朝からワインが振舞われてしまった・・・もう訂正できない空気を感じる。

 まあこの世界のワインはブドウジュースにちょっとだけアルコールを感じる程度のものが多いので朝昼余裕で呑める品だ。


 リューシャは小声でラッキーと嬉しそうに呟いた。

 この食いしん坊が!


 祝われつつ食事を終えたオレ達は部屋に戻って出発の準備だ。






***


 その一行は国境付近で一泊し、馬を変えると隣国にある修道院を目指す。

 ヴェルニエ公爵家に仕える彼らは、出来るだけ早く令嬢を隣国へ送り届け無ければならなかった。


 第二王子からの婚約の申し出を断った彼女のせいで、公爵家の立場が危うい。

 アルノー王子は笑いながら好きにせよと言ったらしいが、本当の所は分からない。

 気付かぬ内に王国中にじわじわと見えない手を伸ばしてきた彼の手腕を、誰もが恐ろしいと感じていたからだ。


 だからこそ暗殺者の予想はしていた。

 今でこそ公爵家で疎まれているエカテリーヌだが、それでもこれまでの功績もその為の努力も皆が知っていた。

 だからこそ、せめて修道院まで無事に送り届けたかった。


 だが、事は起こった。

 突然起こった地面からの突風で馬車も護衛の馬もひっくり返る事になった。

 やはり来たか、そう思い急いで護衛達が二度目の攻撃を防ぐために焔の防壁を起動する。


 それが仇になった。

 姿は見えないが敵から勢いよく放たれた水魔術。

 やはり水で来るか、と誰もが暗殺者の存在を確信した。

 だが、最悪な事に水に何かが混ざっていた。

 恐らくは麻痺毒が混ざっていたのだろう。蒸発したそれを吸い込んだ彼らは皆地面に伏し、防壁は霧散する。


「いやぁ、これは大量だ。しかもこんな美しいお嬢さんが乗っていたとは。」


 刺客は顔を隠した盗賊風の少年だった。

 動けない体で皆が驚愕していると、護衛には目もくれずに気を失っていたエカテリーヌと金品を奪って素早くその場を立ち去った。

 それは刺客なのか盗賊なのか。

 威力はあるが術式もありふれた物で、個を特定することも出来ない。

 第二王子の手の者か否か。

 何方も確定的な答えが出せなかった。



 一方。

「さぁ、行きますわよクラリス!」

 急いでクラリスと同じような動きやすい少年風の服に着替えると、衣類も金品も全てアイテムバックに仕舞い込む。


 使った麻痺毒は数十分で効果を切らす。

 彼らが捜索できる状態になるまでなるべく距離を稼ぐ必要がある。

 二人は体中に魔力を巡らせ身体強化をしながらひたすら森の中を走り、帝国国境手前の町セストを目指す。

 方角は空に浮かぶ星座を頼りにひたすら進む。


「エカテリーヌ様と一緒だと魔力が漲ります!」

「わたくしもですわ!二人で練習した時よりずっと速い。きっとわたくし達本番に強いのですわ!」


 猛スピードで木を避け岩を避け走る彼女達。

 魔力が続くのはレムリアより黒の大渓谷に近いため、周辺の魔素量がレムリアに比べ多かったからである。

 たまに魔物と出会うがそれも交戦せずに簡単に飛び越える。

 途中崖も有ったが想定通りに風魔術を下方に放ち、落下の衝撃を防ぐとまた走り出す。

 疲れたら互いに回復魔術を掛け合い、止まる事なく走り抜けた。


 これから二人はただの新人冒険者になり、いずれは黒の大渓谷付近に幾つか存在するダンジョンを攻略しに行く事を目標にしていた。

 笑い合って、時には喧嘩をしてもいいだろう。

 そうやって二人で生きていくと決めた。


 そして2日走り続け、猛スピードで森を走破しセストの街にたどり着いた。



こちらはpixivにも投稿しております

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