62.婿入り
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叔母上様の不穏な発言はさておき、宮殿も落ち着いたのでオレ達はカルデア大公領に帰還することとなった。
皇子称号の返還も終わったし、ついでに子爵位を伯父上様に返上したらようやくオレも一般人!
ヒルデガルドさんとヴィルヘルミナさんは式典準備のお手伝いがあるので忙しくしているのだが、やっぱり皇帝陛下不在になるので儀式期間中はお祖父様が采配するそうだ。
なんかいつもお留守番でお祖父様が可哀想なんだが・・・。しかも今回は宰相さんも居ないから隠居していた先代宰相さんがお手伝いに来てくれると言う。
美味しい肴とお酒贈ろう。そうしよう。
お祝いムード一色の帝国だけど、宮殿と行政府は忙しい。大渓谷だってお構いなしに瘴気と魔素をもりもり噴出させてるし魔物も沢山湧き出ている。
国府をいつも通り動かしながらの儀式は大変だなぁ。
と言うわけで取り敢えず婿入り準備の為にカルデアに戻り、慌ただしい日々を過ごしつつユヴァーリ領へと旅立つ事になる。
お隣の領地なのでそれほど離れては居ないし、いつでも遊びに来てくれと言われているので寂しくはないが、伯父上様がソーラメテオールに遊びに来たいモードなので、もしかするとカルデア大公家の代替わりも近そうです・・・。
「これが新しい風邪薬ですか!」
久しぶりに会ったフェリクスさんがウキウキと風邪薬を確認している。
「改良案があれば是非!」
そう言ってオレは、帝都で購入した倉田先生の家庭向け医学書と凶器的分厚さの医学書をお土産に手渡す。
「これはとても興味深い学術書ですね。」
本をパラパラとめくるその顔はとても嬉しそうでした。
「フェリクスさんの魔力操作の精密さが帝国基準だったらどうしようって思ってましたけど、最上位って聞いて本当に安心しましたよ!」
「いえいえ、私などまだまだですよ。」
謙遜かと思ったけれど、本気でそう思っているらしいフェリクスさんは索引部分を眺めてはページを開いて読み込んでいる。
「アンリ様、とても素晴らしい書物を贈ってくださいましてありがとうございます。」
「いえ!フェリクスさんには薬草辞典いただいてしまったので。あれ宮廷魔導師さん達が泣くほど羨ましがってましたからね。」
フェリクスさんはその後、異世界の考え方を興味深げに読み込み、此方も創薬に取り入れていきたいと言っていた。
ただ、この世界の人間には大なり小なり魔力回路があるので全てがこちらの理論に当てはまるわけではないだろうと言っていた。
その差異をどうするかが治癒薬師の腕の見せ所ですねとウキウキしていたのでやはりフェリクスさんもカルデアの民だなぁと思った。
話し込んでいると医学書に記載されている諸々の説明を求められたので、懐かしみながらオレも説明をしたのだが、いかんせん長くなってしまったので後日資料を纏めて送ると伝えると喜んでくれた。
ついでに教育内容も興味深げだったので思い出話を交えて話した。
「四年間薬学を学んだ後更に二年学ばないと資格試験を受けることが出来ないんです。実習では大きな治癒院のような場所でこき使われながら実技を覚えます。」
「どの世界も治癒院でこき使われるのは同じなのですね。」
採血の実習が苦手だったなぁ。スピッツの種類をしっかり覚えても実際はオロオロして。授業で学んだ事を活かせない系学生でした。
鈍臭いから結局看護科の実習生女子達とも仲良く慣れなかった日々・・・出会い的なものを期待していたけどそんなものは有りませんでした。
実習先での輸液調製も最初すごく緊張したなぁ。クリーンベンチなんて使い慣れてたはずなのに、実習先ではなぜか緊張したっけ。と言うか慣れてるから大丈夫とカッコつけるのがいけないんだが。逆に緊張するしな。
そして各種予防接種ボランティア・・・。学徒動員ですね分かります。
入省後も予防接種時期になると所属課毎に技官の人員徴収されて馬車馬のように働かされたなぁ・・・ブラックだったなあれ。
そう言えば、別世界出身のヴィーさんは薬師が侵襲性を伴う医療行為はしていなかったと言っていた。
健康ステーションは無くて、予防接種や各種検査は病院で受けるものだったらしい。
なので彼女の世界の薬局は処方薬や市販薬を買うだけのところだったそうだ。
検査前の薬剤投与も医師や看護師が行うと言っていた。となると病院や薬局で働く薬師は調製と管理、服薬指導だけなのだろうか?くそう、ホワイトな世界だなおい!
異世界の薬師事情に羨ましさを感じながら、フェリクスさんの疑問に答え続けて、遅くまで楽しく話し込んだ。
***
カルデアからユヴァーリに出発する日。
オレはただの一般人アンリになっていた。
爵位も伯父上にお返ししたしな!
ただ、オレはカルデア大公家の一員って事には変わりはないよと言われ、家名は外れなかった。
何時でも遊びに来ていいし何時でも遊びに行くからなと伯父上様に言われた。
ヨアヒムさんも同じような事を言っていたが、何時の間にか次期大公に内定してしまっていたと言う。
エイスローラの採取や販売に関する采配がとても上手かったらしい。
一年中わさわさ実ってはいるが、それでも限りがある。膨大な需要に対して常に供給を維持できたのだから凄いとしか言いようがない。
植樹もしていたそうだし、流石ヨアヒムさんですよ!
まぁイグナーツ君も側近に付いているし、当然ですな。
「下手な爵位より、魔女の夫と言う地位の方が高いのだから今まで以上に気をつけるのだぞ。」
ヨアヒムさんがそんなアドバイスをくれたが、いまいちその意味が分からず「これからも精進します」とだけ答えてしまった。
多分功績的な事だよな?
ま、お隣領地だし寂しくはない。何時でも遊びに行ける距離だしお米も買いに来ないといけないからね!
婿入り道具なんかはもうソーラメテオールのお屋敷に送られているそうだし、カフェも整えてもらってしまっている。
何から何までありがたい。
また直ぐ逢える。そう何度も自分に言い聞かせてもやっぱり潤んでしまう。
そんな中、カルコス君も他の兄妹達ともふもふと別れを言いながら戯れていた。
短い間だったけど本当にお世話になりました。
そんな気持ちでオトフリート伯父上。いや父上と言葉を交わす頃には涙が出てしまう。
「今日はカルデア領全体が祝いの祭りとなっている。上空からも見えるであろう。」
伯父上はそう言ってオレを送り出す。
しかも今回も領境まで送ってくれる竜騎士達は祭典仕様で、なんとも豪華な感じに仕上がっている。
そこには育児中の筈のワイバーンのココと騎手であるアダルバートさんも居た。
そして、遊撃隊の仲間達は最後まで護衛をしてくれている。
出立の時刻、領の空に火華が上がった。
火魔術で作られた花火の様な物なのだが、それが彼方此方から打ち上がっている。
祝いの火華が上がるたび、歓声が聞こえて来る。
楽しげな声が聞こえ、こんなにも沢山の人に祝福して貰えるとは思っていなかったのだが、やはりそれは起こっている。
キラキラゆらりと浄化の光がオレの目に映る。
厳しい環境だけど、とても良い領地だなと改めて思う。
オレのお祝いと言うよりただ祭りが楽しい気配がするし、それでいいと思う。だからみんな、今日の祭りを楽しんでくれ!
火華の更に上を飛ぶオレとカルコス君。
そして式典用装備で護衛をしてくれるカルデア竜騎士隊。
ユヴァーリの領境では、ユヴァーリの竜騎士隊が同じく式典仕様でお出迎えしてくれた。
***
アレニローク城へ到着するとリリーとジルも領地の飛行船で今日着いたばかりだそうで、オレを待っていてくれた様だ。
「折角だからみんな一緒に手続きしちゃいましょう。」
リリーがそう言うと三人一緒に行政官へ書類を提出する。
「来週には継承の儀とフリードリヒ陛下の婿入りがあるからいい練習になったって言ってたわよ。」
「あ、それでユヴァーリの竜騎士さんたちも式典仕様だったんだな。」
新しい家族であり戦友でもある彼女達とソーラメテオールに籍を移した記念の日となった。
そして一家の大黒柱であるリューシャとの生活が始まるわけだが・・・女子三人と魔獣二頭との新生活!!
敢えて言おう。
ソワソワする!ムラムラじゃないぞ!ソワソワだぞ!!
「ちょっと、祝福漏れてるわよ・・・。」
「うわっ、すまん。」
結局、祝福漏れ事故を起こしてしまったけど今日はいいじゃないか。めでたい日なんだから!
領城から魔女領へ向かう途中、アレニロークの街でも火華が上がっていた。
魔女の夫や妻が輿入れする日は領都では何時もお祝いしているらしく、ある種の娯楽的な位置付けのようだ。
屋敷に到着すると、やはり親戚一同お出迎えでお祝いの準備がされていた。
オトフリート伯父上が手配してくれた調度品のお陰でお屋敷はしっかり高原リゾート風になっているし、カフェは今からでも営業できそうな程に整っている。
そしてオレのウッドデッキとテーブル達にはエマヌエルさん作の美味しそうな料理がずらり!!
「おかえり、我が妻達よ。っと、じゃなかったアンリくんは夫だったね!」
「この際どっちでもいいけどな!ただいま、リューシャ。」
オレ達がリューシャに歩み寄ると、リリーもジルもリューシャとの再開を喜んでいる。
そして、セシリアちゃんとエルフリーデさんも祝いに来てくれたようだ。
「アンリさん、おめでとうございます。」
「ありがとうございます!エルフリーデさんはもう慣れましたか?」
「はい。エマヌエル様にご指導いただきながら楽しい日々を過ごさせていただいております。」
セシリアちゃんもニッコニコで寄り添っているのだが、二人は本当に幸せそうだ。
・・・そうだ、ロザリー嬢の事知っているのだろうか?
お祝いの席でその話はあれだよな。
そんな事を考えていると、オレの肩の上のカルコス君が勢いよくすっ飛んで行く。
どうやらブランシェさんを見つけた様で、ねえさま!ねえさま!と嬉しそうに突進して行った。
「おかえり、アンリ君。少し会わない間に逞しくなった感じがするよ。」
「イチローさん!ただいま帰りました!」
うん、褒められて嬉しいけどイチローさんは変わってないね。イケメンエルフのままだね。
会話を楽しみながら皆で食事をしていると、遅れてすまぬと言いながらルシエル先輩が現れた。
リードに繋がれたもふもふもっこもこの小さな羊型魔獣を連れて・・・
「我が友アンリよ、おめでとう。」
そう言って結婚祝いと言ってプレゼントをくれた。
ルシエル先輩との再会もめっちゃ嬉しい!これからいっぱい一緒に冒険しましょうね先輩!!
「ありがとうございますルシエル先輩!これからは休暇には絶対遊びに来てくださいね、あとダンジョン!」
「ああ、無論わかっているぞ!楽しみだなアンリ!!」
男二人、ワクワクしていると小さな声が微かに聞こえて来る。
『ああ、アンリ様・・・その節は大変なご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありません、誠に申し訳ありません・・・』
う・・・うわぁ、これは確かにロザリー嬢の声だけど!キャラ変わりすぎってレベルじゃねーぞ!!
恐らく声が届いているとは気付いていないロザリー嬢はひたすらオレに謝罪を繰り返す。
そしてジルを見つけた様で、今度はジルに向かってまた届いていない声で謝罪を続けている・・・
おお、もう・・・こんな事になっているとは。
しかし、一人謝罪しまくるモコモコのロザリー嬢にブランシェさんが注意していた。
祝いの席でそんな辛気臭い事を言ってはいけないとかなんとか。
そして前足でコロコロ転がしてカルコス君にパスしている・・・ルシエル先輩はリードをタイミングよく外しているし、遊び慣れているなコレ。
なにこれカオス。
ロザリー嬢はパスされ転がされながら、カルコス君にもあの時不快で怖い思いをさせて申し訳なかったと謝っている。
ああ、輸送艦のラウンジでの事かな。カルコス君はきっともう忘れてるよ。
ああもう、今は毛玉転がしが楽しそうだし可愛いからもうどうでもいいや・・・。
「アンリさん、その・・・ご不快かもしれませんがアレは、」
「うん、知ってる。エルフリーデさんが辛くないならそれでいいよ。」
オレがそう言うと、エルフリーデさんは安心したようなホッとした表情をしていた。
あんなに酷い事されても許せてしまうものなのだなぁ。
ま、オレもレナート兄上を恨んでいるか?と言われれば、恨んでいないし憎んでもいないし。
ただ、心配ではある。暗殺的な意味で。
生きてるよな?大丈夫だよな?
あんな事になってしまった兄上だけど、いい思い出の方が多いんだ。
汚染は解けただろうか?
うーん、急に心配になってきた!




