55.飛翔の魔術
食後の夜番の時に、珍しくジークが途中まで送って欲しいと言ってきた。
オレは皆に羨ましがられながらも彼女を送っているのだが・・・
「セシリアさんはうまく誤魔化せてたのですが、アンリさんはダメでしたね。でもこれ以上聞いたりしませんから安心してください。」
うん!バレてーら!
でもな、多分神の御業に関わるし、セシリアちゃんが説明できないならオレも秘匿するべきかと思ったんだ。
結局は顔に出まくってた見たいだけどな!
「す、すまない。」
「私も秘密を暴きたい訳では無いのです。ただ、確認したい事もあって。それに、神聖属性の研究は・・・実はもうしていないのです。」
はいっ!?どゆこと!?
「驚かせて済みません。アンリさんには言っておいた方が良いと思ったんです。」
研究してないなら何で大渓谷の救護所に居るんだ!?
オレはあからさまに混乱してしまいオロオロしていると、ジークはやんわりとした魅惑のスマイルを向ける。
「私は、宰相府所属の特務監査官なのです。」
「はいィ!?」
つまり、あれか。中々返上出来ない聖女認定を逆手に取って聖女達の調査監視をしてるって事か!
親父さんは宰相さんだからそのお手伝いって所かな。
確かにこんだけ強ければ単独調査も余裕だろうしな。
しかも見た目が超可憐だし!
そんな事を考えていると、オレの手をふんわり優しく握ってくる。
まぁ、柔らかくはないけど・・・強そうな手だけど!
でもちょっとドキドキしちゃう!
「アンリさんが信頼できる方と分かったので、討伐戦役帰還後に、帝都でお引き合わせしたい方が居ます。会って頂けますか?」
「も、勿論構わないぞ!ジークの頼みだしな!」
即答した。
リスクとか何かに巻き込まれそうとか、そう言った事は全く考えなかった。
しょうがないんだよ!男の娘と分かってはいてもジークが可愛い過ぎるんだよ!
中身も外見も可愛いとね、ついね。
それにこの話の流れだと、多分宰相さんだろうしな。
問題ないだろ。
***
野営地に戻ると、統括指揮官のストーメア卿がカルコス君を連れて来てくれていた。
大渓谷に来て暫くすると、カルコス君は何故か頻繁にストーメア卿の所に遊びに行く様になっていた。
迷惑だからと叱っては見たが、何故かストーメア卿が受け入れてOKしてくれていたのだ。
統括指揮官様は魔獣好きなのか?それとも猫科好きか?と思っていたのだが、今日はそれが良かったと心から思う。
過保護かもしれないが、カルコス君には瘴気と怨嗟にまみれる魔物化した人間を見せたくなかった。
「やあ、アンリ。今日はお疲れ様。」
「ストーメア卿、何時も有難う御座います。」
ストーメア卿はオレが戻るまで、セシリアちゃんとお話しをしていたらしく、ついでにピラフや蟹が振舞われていた。
皆!オレがいない間の接待をありがとう!
こんな風に、ストーメア卿とゆっくり話しするの初めてだから嬉しい。
「しかし、セシリアにも妻か。そんな年頃になってしまったんだね。」
どうやらお知り合い?と思ったら、ストーメア卿は大魔女様の息子さんなのだと言う。
しかも実父がクラウスさん!
お世話になったので御礼を言うと、気にしなくて良いと言われる。
その顔がちょっとだけ苦い表情だったのだが、理由は分からん。
『ヴィンセントはね、兄さまの息子だからぼくの甥っ子なんだよ!』
なん・・・だと?レベルの衝撃の新事実!!
ブランシェさんやカルコス君が兄様と呼んでいたのはクラウスさんの事だった様だ・・・全然分からんかった。
それにしたって、人化出来る程の高魔力を持つ魔獣のクラウスさんと大魔女様の息子さんってヤバない?
ああ!だから超大型魔竜種討伐の時、自力飛翔してたのか!!
飛行の魔術があるのだとばかり思っていたが、それは魔獣の特性だったのだろう。
オレも飛んでみたかったのに・・・。
「カルコスがね、叔父は甥に小遣いをあげるものだと言って、魔石を持って来てくれるから結構重宝しているよ。特に雷は有り難い。」
「迷惑でないなら良かったです・・・」
ティグリス達は魔石を一度飲み込み蓄えると、必要な時に吐き出す。そうすると個体属性に変化した便利な魔石が出来上がっている。
カルコス君なら風と光、オレから魔力ラインで流れる雷属性の魔石。
ほんとティグリスの体内って不思議!
ブレスも吐くしな!
それにしても、お小遣いか。
そう言えばオレも叔父上からは予算いっぱい貰っていたからなぁ。
カルコス君はそれを見て覚えたのだろうか。
理由は何にせよ叔父さんぶるカルコス君にほっこりする。癒しが半端ない。
「でも残念です。飛翔の魔術があるのかと思っていたのですが、それってティグリスの特性ですよね?」
オレがそう言うと、ストーメア卿は頷く。
そして飛ぶ時の感覚はとても説明し辛いものなのだと言う。
「身体に纏わりつくアレをささっと払う、というか自分でも何を除いて身体を浮かせているのか分からないんだ。本能的な能力というのかな。」
『これをポイポイってするとふわってするから風で飛べるんだよアンリさま!』
恐らくはこの星の引力の事だろうか?
それって気軽にポイ捨て出来るものなんだろうか。
「説明し辛いけど、飛行魔道具の箒に近い。」
「更に難しいです・・・」
『あのね、地面からひっぱられてるのをぽいぽいってするの。』
カルコス君のポイポイの動作が可愛いので取り敢えず撫でておく。
だが遠心力はどうするんだろうか。
謎です。
「イリアが得意だった。アレをポイッとするのも集めてギュッとするのも。子供の頃はよくそれで魔物を潰していたよ。それで魔石が採取出来なかったと、よくいじけていたものだ。」
「あ!今の説明で何となくわかりました!」
つまりポイポイとは重力の置換だ。
重力子でもあれば上手く説明出来そうなんだけど、あれは仮説的粒子だしなぁ。
精霊術での置換魔術なら目に見えなくても出来る。
メモ帳にもそれっぽい詠唱もないし、ちょっとやってみようかな。
「一応結界、と。オレも試してみますね!」
上手く干渉できますように!
***
結果、オレは飛べなかった。
ふわっとした感覚の後どうにも出来なくなって、ジタバタしてたら回転して、結界の意味もなく地面に頭をぶつけた。
微重力状態怖い。
「か、風でっ、ふはっ、風でね、調整するんだよ。」
ストーメア卿が涙を浮かべるくらい笑った後そう言った。
やっぱり風か!風なのか!いつものお前か風属性!
くっそ、やっぱり風属性欲しいよおおお!!!!
「風が無理でも、その魔力量なら単純な魔力操作で飛べるんじゃないか?」
笑い疲れた顔でストーメア卿がアドバイスをくれたので、それなら出来そうだと勇み再び置換してみると上手く立てた。
魔力操作でふわわっと低い位置で左右に移動して行ったり来たりしていると、また皆が笑い出してしまう。
特にセシリアちゃんは笑い転げ過ぎてエルフリーデさんに背中をさすられている・・・
兄の威厳とかそう言うものは、もう無理そうです。
「あ、これ切り替えて飛べばいいのか!」
途中で思いつき、地面を蹴ってジャンプすると結構な高さまで飛んで、その後は緩く降りる事ができた。
一通り実験して満足したので、テーブルに戻ると夜番の皆がのんびりワインやお茶を飲みながら談笑していた。
「第六陣の最初の便が到着した事だし、君達もそろそろ帰還だな。」
統括指揮官であるストーメア卿がそう言うと、一瞬仲間達の間にピリッとした空気が走る。
「一番面倒な時に君達が居てくれて良かった。」
そんな労いの言葉を掛けてくれると、そろそろ戻ると言い指揮所に戻って行った。
帰れば魔女の夫だ。
もう大渓谷の討伐戦役に参加する事はないだろう。
そんな風に思ったら何だか急に寂しさを感じてしまう。
そしてカルデア遊撃隊の仲間達が言う。
自分達の代で遊撃隊に参加できた事が嬉しかったのだと。
本来なら次代のカルデア大公の子供達の代になると言い、遊撃隊への参加は諦めていたそうだ。
「後はカードの数値だけですね!」
「それな。推定値はもう聞いたか?」
「いや、まだだ。だが歴代最高値を狙えるかもしれないと行商人達が言ってたぞ。」
その後、数値予想が始まると就寝交代まで議論は続いた。
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