表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
黒の大渓谷
56/64

54.蟹





 大渓谷に来て二ヶ月。

 もう直ぐ帰還出来そうかなと思い始めたのだが、とんでもない事件が起こった。


 それは、人間の魔物化である。


「ケラヴィノス卿!至急浄化をお願い致します!」

 指揮所からの伝令が届くも、遊撃隊では無くオレ自身を指名して来た。


 人間が魔物化した場合の対処法は無い。

 つまり殺しに行けと言う事なのだが、恐らく精霊術で助けられるのではないか?と言う期待があるのだと思う。


「どう言う状態か分からないけど、場合によっては救えるかも知れないかな。」


 急ぎ指定された区画である草原地区へ向かう。

 だが隊の皆は護衛としてついて来てくれた。本当に良い仲間だよ!


「皆、魔素耐性がある者が魔物化する場合、その原理がどう言ったものか知ってる?」


 オレは皆の暗い雰囲気を払拭させる為にあえて問いかける。


「いえ、存じません。一定以上の魔素と瘴気を浴びた者が変質してしまうとは聞きますが。」


 イチローさんの魔物に関する研究書に記載されていた一文を皆にも伝えよう。


「自己の魂から多量の怨嗟と瘴気を生み出した事で外側の瘴気や魔素を引き寄せ、閾値を越え魔核が発生した時に起こる現象なんだって。」


 そう言った後カルデアの人間には無縁そうだねと言うと、少しだけ険しかった雰囲気が落ち着くのが分かった。


「しかし、魔物化した者は周囲にいる者を侵蝕します。」

「うん。多分、侵食されただけの魔核の無い人は助かると思う。」


 そう、精霊術ならね。


 と、林檎の創業者風に言うも、見事にスベった。

 異世界の名言だよ!スベるの当たり前だよ!


「確かに、討伐戦術とも合ってますね。最初に魔物化した者を倒せば、中には助かる者も居ると聞きます。」


 そんな話をしながら現地に到着すると、魔術師や魔導師達が総出でバインドを掛けて拘束をしてくれていた。


 いた、のだが・・・


「ケラヴィノス卿!最初の発現者は聖女マルティネです!」


 そう説明してくれたのは、草原地区の指揮官と救護所の護衛指揮官・・・。


 取り敢えずオレ達は円陣を組むと、作戦会議を装いヒソヒソと小声で話し合う。


「ちょっと、聖女が魔物化ってちょっと。」

「さっきのアンリ様の説明から行くと、一番魔物化しちゃダメな人ですよね。」

「いや、聖女だし寧ろ納得する。」


 やっぱり酷い評価だなぁ、この世界の聖女。


「じゃ、ちょっと私が説明します。仰々しい感じで。」


 アダルバートさん流石カルデア系伯爵令息!

 頼りになります!!




「皆の者!大精霊の加護を授かりし我が主アンリ・カルデア・ケラヴィノスが、これより精霊術による浄化と癒しを行う!

 自己の悪意にて魂に瘴気を宿した者は此処で朽ち、心清き者は救われるであろう!!」


 すっごい演技派。

 上手くまとめてくれてありがとう!


 緊張して来たけど、詠唱がヤバい事を忘れていた・・・


 焦りながらも急いで詠唱メモ帳もとい魔導書を取り出し、何とかマトモそうな一文を探す。


 うん、ある訳ないね!

 しょうがない。一番短いヤツで行くしかない。


「ん?ちょっと、アンリ様?」


 バリバリと雷を纏うオレに、仲間達がささーっと引いていく。

 そして掛けられていたバインドをオレの魔力と交代すると、魔術師や魔導師達も一斉に離れて行く。


 魔物化したのは全部で二十九人。

 さて、どれだけ助けられるんだろう。


 オレは、バインドごと雷属性魔力に変換すると、小さな声で“キレイにな〜れ”と呟く。


 バリバリッという空気を裂いた様な音にオレの呟きは掻き消される。

 目を開けていられないほどの閃光が収まると、そこにはしっかりと二十九人とも無事にぶっ倒れていた。


 すまぬ、それって無事とは言わないよね。


 魔物化が解けた人たちの元に急いで治癒師が駆け寄ると、皆生きてるっぽいので歓声が上がり始めた。


「おお!これは!!」

「何という事だ!皆生きておるぞ!」


 だが喜んだのも束の間、聖女マルティネは再び瘴気や魔素を吸収し始めている。

 倒れた人達を回収すると、再び魔術師達が聖女マルティネにバインドを掛ける。


「さっき程より弱っている様には感じられますが、やはり最初の発現者は・・・。」


 うーん、やっぱダメか。

 アプローチを変えて見よう。濃い怨嗟から瘴気が出来る程に、悪〜い事いっぱい考えるメンタルを何とかする。と言うのはどうだろうか?


「今度は花の癒しを試して見ます。」


 これは心を癒す精霊術だ。肌がモチモチになるが。


「では、バインドを代わります!」


 聖女マルティネとは接点が無いし、彼女もジークを虐める者達の一人だ。

 それに彼女は魔物化した後、自分の側近を五人程喰べてしまったそうである。


 殺して上げるのが一番の情けだろうな。

 でも、助けられるなら助けても良いんじゃ無いだろうか。

 それに、動物や人間の魔物化に精霊術がどれだけ効くのか試しておきたい。


「では、発動します。」


 オレが、そう口にした時だった。


 光槍が何処からか飛んできて聖女マルティネの身体を貫いた。


 その三本の光槍によって、魔核が破壊されたのだろう。サラサラと聖女の身体は消えて行った。







***



「聖女の名を汚したマルティネ。貴女はやはり聖女には相応しく無かった様ね。死によって、その罪を贖うといいわ。」


 そう言って槍を放ったフォルトーナの聖女ルナリアは誇らしげに笑っていた。

 ギラついたその目には愉悦が見て取れ、ぞわりとした不快な感覚と共に鳥肌が立つ。

 


 そして取り巻きの騎士や魔術師達も彼女を讃える言葉を口にする。

 熱狂的に湧く彼等と、忌々しげにそれを横目に見る魔術師や魔導師達の対比に違和感を感じる。


 確かに聖女ルナリアは魔物を盗伐したのだし誇らしいというのは分かるけど、流石に状況が状況だ。


「アンリ様の獲物を横取りして勝ち誇るなんて。浅ましいにも程がありましてよ!」


 しかもロザリー嬢も出て来てしまった。

 一体何処から現れたんだ?さっきまで居なかったよな?


「面倒ですから森に撤収します。」

「は、はい。浄化お疲れ様でした・・・」


 指揮官さんが労いの言葉を掛けてくれたので、遊撃隊にはささっと撤収令を出して森の討伐割り当て区画に戻る。


「アンリ様は人を殺めた事は有りますか?」


 アダルバートさんの急な問いだったが、オレはそれに頷いた。


「襲撃の時かな。レムリアの王位継承争いで、ほぼ脱落していたけど、帝国皇帝の孫って言う肩書は伊達じゃ無くてね。十二歳の時だと思う。」


 あの暗殺者達は従兄からの刺客だった。

 オレが斬ったのは三人。後の十人は護衛の騎士と魔術師が倒してくれた。

 というか盛大に燃やしてくれた。


「背中と脚に怪我しちゃって、護衛の騎士と魔術師に、殿下は護られてろ!ってこっぴどく叱られたよ。しかも治療中だから逃げられないし。その後は父上からも叱られたんだよなぁ。」


 皆は、叱られてる光景が目に浮かぶと言って笑ってくれた。


「私は十四の時、マルドゥーク領に出た盗賊団を全員斬り殺しました。奴等に襲われた村を見て思ったんです。人間って、魔物以上に酷いこと出来るんだなぁと。ゴブリンやオークも真っ青って所ですね。」


 アダルバートさんがそう言うと、次はカイツさんも語り始める。


「四年前に此処で、暴行被害に遭っていた女性弓兵を助ける際に、聖女の取り巻きを二人殺めましたね。特に処罰も無ければ聖女側の抗議もありませんでしたが、帝都からは感謝状が届きました。」


 皆が、ですよねーと口を揃える。

 そして皆も次々に語り出す。それは護衛の途中であったり、山賊討伐であったり。


 それはまるで、先程感じた違和感を確認している様にも感じられた。


 そして、最年少のライナー君は言う。


「先輩達の話を聞くと当たり前の対処だなって思うんですけど、聖女ルナリアのアレは何かが違うと思うんです。」


「そうだな。カルデアに居ると忘れがちになるが、ああ言う輩も世の中には居るんだ。特に帝都貴族の刺客に多かった。だが、あの目は聖女がして良い目じゃねえだろ。」

「魔力的な不快感って言うんだろうか?あれも、ちと気になるな。」


 オレだけじゃなく、皆もあの目を見て不快感を感じたそうだ。


「やっぱりゾワワって来たよな?」

「魅了と精神操作、若しくは汚染でしょうか?それに近い感覚ですが、確信が持てないんですよね。」


 確かに変な感覚だったし防御アイテムにも反応がなかったのも確かだ。

 まぁ、こんな時は研究書や魔導書を検索するしか無いなぁ。





 

***



「アンリ義兄さん大変でしたね。お疲れ様です。」


 そう言ってセシリアちゃんとエルフリーデさんが野営地に食材を持って労いに来てくれた。

 魔力で圧力鍋ですね、分かります。


 今日は避難してきたジークも居るし、嫁達も居る。

 そして何故か今日に限ってベルナルドとマルクが巨大な蟹脚を沢山持って来てくれた。


 気遣われ過ぎい!大丈夫だから!


「ルシエルさんは夜間討伐なので、イェジェヴィーカのジャムを渡して欲しいと頼まれて来ました。」


 ルシエル先輩にまで気遣われてしまったよ!

 でもユヴァーリでよく食べたこのジャムは好きなんだ。素直にうれしい。


 折角なので今日は皆で蟹を美味しく頂こうと調理をし始めると、ジークも手伝うと言う。

 そしてセシリアちゃんやエルフリーデさんとは浅からぬ縁があるそうなのだ。


「ジークリンデさんの妹さんは、大渓谷で姉さんがとてもお世話になった方なんです。」


 あ、これオレ解答出来そう。


「よく干し肉を分けてくれたって言う親切な魔術師で、帝都のスフレケーキ教えてくれた人だろ?」

「ですよね。すぐ解っちゃいますよね。」


 食べ物絡みだろ。すぐに分かる!


「魔導師にはキツイよな、解体。」

「そうなんです。我々の様に魔眼でも無い限り、解体の際の加減が難しいですから。」


 そうエルフリーデさんは言う。

 しかも魔導師以上が行商人から買うのはマナー違反だしな。

 にしても魔眼超便利!


「あの、宜しければ魔眼の種類を教えていただいても宜しいですか?」


 ジークが珍しく食い気味に言う。

 あ、研究のためか!


「私たちは共に識別系能力の魔眼です。」

「神聖属性魔力の研究をしているのですが、やはり神と女神の白帯以外ではお見かけする事は無いのでしょうか?」


「そうですね、精霊や魔女は微量に神聖属性を持っているとは言われていますが、その量が少な過ぎて魔眼では分からないと思うのです。」


 ジークの質問攻めにエルフリーデさんが回答しているが、セシリアちゃんはにっこり笑っているだけだ。

 オレも顔に出ないように気を付けよう。


 瘴気の魔物の魔核五つで神聖魔力結晶一個貰えると知ったら、彼女はきっと魔女の夫を目指すだろう。


 ん?妻か?いや、夫か?あれ、どっちだ?

 混乱する!


「さて、蟹ピラフがそろそろ炊けたかな。」

「バター焼きは準備だけで良いんですよね?」

「ああ。焼き立てが美味いから、食べる時に火を通そう。」


 その後皆で夕食を囲むが、蟹が美味すぎた。

 やはりガリアには食材仕入れに行かなければならない様だなぁ。









こちらはpixivにも投稿しております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ