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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
黒の大渓谷
54/64

52.妖精と精霊





「やっといつも通りって所かな。」


 ストーメアはのんびりとコーヒーを飲みながら、溜まっていた書類仕事を片付けて行く。


「それで休息と言えるのか?」

 同じく一日間の休息を与えられていた筈の討伐戦闘教導官である騎士、マリア・ベリンスカヤが簡易執務室を訪れる。


「マリアさんだって、ここに来ているって事は仕事でしょう?」

「まあな。では、椅子とテーブルを借りるぞ。」


 二人は黙々と書類を書き始めるが、軍務省への報告書には、二年振りとなる死者の数を書き記す。

 その多くは超大型魔竜種達が放った最初のブレスによるものだった。


「思ったより死者が少ないな。」

「中央の初撃を防いでくれた、カルデア遊撃隊のお陰でしょうね。」


 生きてさえいれば、治癒魔術で治す事が出来る。

 そして、聖女達の光属性治癒術を使い延命さえ出来れば、後はどうとでもなる。

 勿論水土複合の強力な治癒術で欠けた体を再生する事も可能だ。


「ヴィンセント、お前の母上殿は何か言っていなかったか?」

「母さんからは特に何も。新しい結界の準備で忙しそうですし。」


 天意の魔女イリーナ。

 ストーメアは最近特に忙しそうな己の母親を思い出すが、特別と言える知らせはなかった。

 連絡と言えば実父であるクラウスから、偶には帰って来なさいと言ういつもの手紙が届いたくらいだ。


「フリードリヒ陛下が退位の準備を始めているらしいが。」

 その言葉にコーヒーを吹き出しそうになり慌てて飲み込むが、何の知らせもなかった事がよく分かる反応だった。


「そろそろかとは思ってましたが、そうですか・・・」

「皇帝陛下が父親に加わる気分はどうだ?」


 揶揄うように言えば、今度こそ咽せる様に咳き込む。


 新たな夫を受け入れるとなれば、就任式があるので実家に帰る必要が出て来る。

 今まで傅いていた相手が母親である大魔女の夫の列に加わるのだから、その心情はとても気不味い物だった。


「面倒臭いなぁ、もう。」


 ストーメアのその呟きにベリンスカヤがくすりと笑う。

 そして、少し位ここを離れても大丈夫だ。と言うと、飲み終えてしまったコーヒーを自分と彼のカップに注ぎ足した。

 





***



 大渓谷に来て早一ヶ月。

 ようやくここの生活にも慣れてきた。


 たまに嫁達と一緒に討伐したり、教導官さん達にもお世話になりながらの毎日を過ごす。

 そのお陰だろうか。連携も更に磨きが掛かり、個々の技能も上がっている。


 順調に見える日々。

 だが実際にはオレだけが順調じゃない・・・


「何でオレにだけ妖精さん来てくれないの!?」

「アンリ様の対魔術結界のせいじゃないですか?」


「解いてる!寝る時しっかり解いてるから!!」


 そう、この大渓谷には悪戯をする妖精さんが居る。

 こっちは静電気じゃないよ。


 その妖精さんはサキュバスと言う。

 オレ達年頃男子に夢と希望と賢者の時間を与えてくれる有り難い存在だ。


 サキュバス無罪。

 寝ている間に夢の中で起こった出来事は浮気には含まれないと、そう仲間達は言う。


 その話を聞いてオレは生理現象に関わる幾つかの無効化と浄化を切るも、夢の妖精さんは現れてくれなかった。

 対魔力結界もオフにしてある。

 なのにオレだけ超絶スルーされるという辛い現実。


「別にいいじゃないですか。アンリ様は奥様方としょっちゅう会ってイチャついてるんですし。」


 指導教育と木剣の打ち合いが、イチャイチャだと!?


「後はたまに来るジークリンデさん!彼女は一体誰なんですか!?結婚の誓いが揺らぎそうな位可愛いんですけど!!」


 それについてはすまぬ。

 被害者友の会だからね、しょうがないんだ。


「ああ、あの子ヤバいですよね。庇護欲をそそると言うか何というか。」


 皆、ジークはな・・・

 男の娘なんだ。

 とびっきり可愛くて可憐な男の娘なんだ。


 ジークフリート・バウムガルト子爵令息は叔父である宰相の養女となって、今はジークリンデ・モルゲンシュテルンと名乗っている。

 そして、ジルの元婚約者だ。


 彼女は匿ってもらいにオレ達の隊に身を寄せる事が何度かあった。

 そしてその度、お礼と言って手作り菓子をおやつに差し入れてくれるのだが、そんな彼女の優しさと可憐さに皆ノックアウトされているのだった・・・


 って、そんな事より妖精さん!

 ほら、オレ戻ったら正式に夫になるし色々とシュミレートしなきゃいけない事とかあるし!!

 先ずはこの地でロールプレイしておかなければならんのだよ!

 前世の経験!?

 前世でならある意味オレも魔法使いだよ!



 煩悩にまみれたオレを見兼ねたのか、雷精霊同士のエンケリュスがぬるりと現れる。


『ケラヴィノス。妖精を心待ちにしているみたいだけど、おいら達精霊には妖精の夢魔術は通らないんだぞ・・・』


 心話と言うより、精霊同士の念話と言うべきか。

 彼はオレに悲しいお知らせをしてくれた。


『マジか・・・』

『おいらも千年位前に一度頼んでみたけど、無理だったんだ。』


 オレ達は悲しみを分かち合う様に、暗闇の中そっと寄り添った。


 コイツとはたまに会ってはユヴァーリの魔女領の様子を教えてもらったり、普段共にしているガレス卿の話を聞かせてもらったりしていた。

 そしていつの間にか、この同性の精霊仲間は心を許せる存在になっていた。


「またアンリ様が精霊様と戯れているな・・・」

「大精霊様の加護持ちだからな。」

「だからだよ。神聖過ぎて妖精も近寄れないんだろきっと。」


 仲間達のあながち間違っていない考察が聞こえて来る。

 しょうがないので色々と切っていた設定を元に戻し、エンケリュスにはマンダリンを供える。


『そういや、ヴァツカーヌにもテオブロマが育っていたよ。』

『おお、随分早いな。』


 ヨアヒムさん頑張ったんだろうなぁ。


 大渓谷に来てからヨアヒムさんのイメージがガラリと変わった気がする。

 四年前の武勇伝が多過ぎるからね。

 それもあって、彼ならきっと自力陞爵できるだろうとオレは確信した。



 こうして、オレは夜番の間エンケリュスと過ごした後、就寝した。

 もしかしてがあるかも、と期待するもやっぱり何も無かった。








***



 それから更に二週間。

 大渓谷の噴出も二年前と変わらない状態に戻り、日々噴出が起こり討伐に明け暮れていた。


 超巨大魔竜種の出現は無いが、ドラゴン型の出現頻度は増えていた。

 やはりブレスによる死者が多く、対策のしようもない。


 ただ、ラヴロフさん達が居るお陰で討伐には大分余裕があるのだが、改めて彼等の働きを見て思う。


 大魔導師と魔導師のみで構成された竜騎士隊の谷への空爆は、途轍も無く大きな規模なのだ。

 なので、彼等を頼もしいと思う反面、夜空が赤く燃える光景は美しさと同時に恐ろしさも感じる。


 この力が人の街に向わない事を感謝するしかない。



「アンリ義兄さん!」


 シリアスに物思いに耽っていると、セシリアちゃんが走り寄って来た。


 今日も圧力魔力鍋使いに来たのかな?と思っていると、手には一冊の本。

 セシリアちゃんは2日間の休暇をゲットしていたのでヴィーグリーズの街で買い物をして来たと言う。


 もしかしたらそのお土産かもしれない!

 エピソードブックの新作かな?


「これ、義兄さんの本ですよね?」


 そこには、まさかまさかのオレのエピソードブック!?と思いきや、何故か恋愛小説ゾーンにあったらしい。


「今セストで一番人気なんだそうですよ!」

「どゆこと・・・!?」


 本のタイトルは・・・

 ”追放王子と星降の魔女・エピソード1“

 オレとリューシャの物語らしい。

 続編出す気満々ですね・・・


 どうやら初版はナンバリング無しらしく、既に高値で取引されているそうだ・・・


「レムリアの王太子がとっても素敵で、ファンになってしまいました。とても良いお兄さんですね!」


 オレは本を受け取りパラパラと流し読みして思う。


 幼少期の夢やら希望が割と詳細に書かれているし、ロムレスやレムリアでの出来事も詳細だが、予想以上に美化されていた。


 心優しい末弟を意地悪な兄から解放する為、そしてこのままでは叶わぬであろう弟の夢を叶えるために、アルノー王太子は継承争いに臨んだ・・・?


 序章からプロパガンダ臭すんごい!


 オレは巻末を捲り、取材協力者の欄に目を通すと・・・


 アルフレート君の仕業でした。本当にありがとうございます。


「ありがとうセシリアちゃん。大事に読むよ・・・。」

「あ、でも姉さんのくだりは脚色が凄くて、事実と全く異なりますから。」

「それは何となく読んでなくても察した。」


 そして、エピソード1はオレがリューシャの夫を目指す所で終わると教えてくれた。


 と言う事はオレ達の旅の話か?


 飯を食って買い物をして、飯を食うだけだったのによく本に出来たな・・・

 グルメ本にしかならないだろ、どう考えても。


 いや、そこで脚色力をセストのライターさんが発揮したと言うわけか。



 取り敢えずオレはマジックストレージに本を仕舞い、夜番の時にでも読もうと気軽に考えていた。







こちらはpixivにも投稿しております

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