51.休息
盛り上がる野営地ではオレとジルの手合わせを見物する為に、結界内沿いにビッシリと騎士や魔術師が酒やつまみを片手に勢揃いしている。
なにこれ緊張するんですけど!
細めの木剣を構えるジルは、いつも通り表情に乏しい。
読み辛いなぁ。
そう思っていると、一瞬視界から消えてしまいあっという間に剣先が迫る。
自分で隙作ってどうする!というセルフツッコミを心の中で呟くが、予想以上に初撃が重かった。
体で生み出せる力の最大値は魔力のあるこの世界では全く当てにならない事を改めて感じる。
ジルの剣撃の特徴は、とにかく速くて鋭い。
突きを捌くのが辛いし防戦一方になってしまう。
実剣で尚且つ魔力纏わせていたら二、三撃受けたら余波で死ぬなこれ。こわい。
距離を取りたいなぁ、そんな事を考えながら持ち手を変えて突き技を崩す為、受ける際強めに剣を払う。
ちょっとだけジルの腕が外側にズレてくれたので、素早くこちらから仕掛けると、やっぱり上手く捌かれてしまう。
ここでサーシャさんのアドバイス通りに重めの身体強化に切り替えて、ジルがちょっとでも疲れてくれるのを待とうかな、と思ったけど先は長そうだった。
そんな訳で更に強く打ち込むと木剣がガツンと鈍い音を立てて交差し、そのまま押し合いになった。
最早女の子と言って良いのかこのパワー。
しかもこの子、身体強化をあまり使ってない!
結構華奢に見えるのに何で!
目の前のジルを見れば、獰猛な笑みを浮かべている。
ひえっ!完全に筋肉さんに支配されてるぅ!
ちょと、いや、もうちょっと広い間合いが欲しい!
そう思い、大振りに打ち込むとその隙を狙って突き技が来る。
双剣って良いよね。
いざって時は片方防御に使えるもんね。
ジルの剣を一瞬長めに弾く事に成功したので、今度こそ距離を!と思っていると、オレが飛び退いた所に運悪くサーペント型魔物がにゅっと顔を出してきた。
咄嗟に木剣に雷属性魔力をコーティングし、首をするんと刎ねると再びジルに向かう。
そして今度はジルが大振りに打ち込んでくる。
集中しすぎて、見物人達も気にならなくなってどの位か。
ようやく少しだけジルの動きが鈍り始めた。
呼吸の回数も明らかに増えているのが分かったので、オレも重めに横振りの打撃を撃ち込む。
そんな時だった。
さっき斬り捨てたサーペント型をベルナルドとマルクで素早く解体して肉を結界内に持ち帰っていた・・・
これから焼くんだろうね、きっと。
オレ達はというと、移動しつつ打ち合いが続いていた。
だが、そろそろだろう。
体力差だけは、どうしても埋められないもんな。
それから暫くして、漸く疲れが見え始めたジルの木剣をその手から弾き飛ばす事に成功した。
「ありがと。楽しかった。」
「うん、オレも楽しかったよ。」
表情が少しだけ笑んだ様に見えるジルと握手をして結界内に戻ると、サーペント型はマルクの火魔術によってこんがりと美味しそうに焼かれていた。
観戦していた皆も良い手合わせだったと声を掛けてくれたのだが、次は隣の野営地の騎士君とうちのライナー君が手合わせをするそうだ。
しかも二人はこの野営地に居る騎士としては年少で16歳同士だそうだ。
まぁ、盛り上がるよね!
オレも観戦しよっと!
その後も何組も手合わせ打ち合いが行われ、偶に現れた魔物は手合わせ組がついでに討伐するという流れが出来上がっていた。
こうして明日丸一日休みというオレ達は、遅くまで交流を続けた。
***
折角の休みなので遊撃隊には自由行動と言うと、のんびり寛ぎつつも結界外に寄ってきた魔物を討伐している。
お出かけしないのかな〜?と思っているが誰一人として出掛けようとしない。
むしろ今日も朝から他の隊の人との交流を楽しむ感じだった。
まぁ、大渓谷には何も無いからしょうがないんだけどね。
「走り込みしたいって顔してますね。」
そんな風に仲間達に突っ込まれるが、ジルは当たり前のように準備していた。
「アンリも走るの?」
「うん。」
「じゃ、競争ね。」
そんなオレ達の会話を聞いた仲間達とリリーさんが生温かい目線を送りつつ、行ってらっしゃいと声を掛けてくれた。
今日はまだ小規模噴出一回のみ。
大した魔物も居ないし、のんびりしていても大丈夫だろう。そんな風に暢気に考えながら走っていると、急に不思議な感覚に襲われる。
一部だけ異常に空気が澄んでいる場所があるのだ。
「どうしたの?」
「多分だけど、精霊の気配がする。」
足を止めて周囲を見渡すと、漸くその姿を発見することができた。
『やあ、ケラヴィノス。元気そうだね。』
「エンケリュス!どうしたんだこんな所で。」
彼は下級精霊なのだが、見た目がちょっと魔物っぽくて、黒くて長ヒョロイ鰻や鯰の様な姿をしている。
お互い雷を操るので、魔女領の森で仲良くなった間柄だ。
こんな姿だが果物好きで、特にマンダリンが大好きという。
「ああ、これ分体か。」
『まーね。おいら色んな所に居るからね!』
取り敢えずいつもの様に頭を撫でて果物を供えると、お礼を言いながら直ぐに何処かへ行ってしまった。
「あいつ、ガレス卿が契約している精霊ね。」
「リューシャの伯父さんの?」
「うん、そう。召喚されると戦い辛い。絡んで来るし、凄くヌルヌルするから。」
一瞬いけない想像をしてしまい、ぶんぶんと首を振る。
エンケリュスの造形が触手感あるからね、しょうがないね。
でもあいつ良い奴なんだよ!ヌルヌルは許してやって!
それからまた二人で走り出し、森を少し抜けると昨日の超巨大魔竜種のブレスによる被害を目の当たりにする事になった。
草原半ば辺りで被害が止まっているので、ここで魔導師や魔術師達がブレスを防いだ事が分かる。
昨日の夜聞いた話では、中央付近は遊撃隊がブレスを防いだから問題は無いが両サイドは被害も多く出たらしい。
オレが立ち止まると、ジルは無言で何かを差し出して来た。
「りんご・・・?」
「顔が暗い。お腹空いてるんでしょ?」
オレはリューシャじゃないんだぞ〜。
と思ったが、不器用だが彼女の優しさに触れた様な気がしたので、何となくお礼を言いりんごは丸齧りした。
「美味いな、このリンゴ!」
「うちの領地でとれたリンゴ。リューシャも好きだって言ってた。」
ほんのりと嬉しそうな表情を作ったジルは、何故かもう一個寄越して来た。
「・・・私を、焼きリンゴと秋空の味・・・ってリューシャは言ってくれたの。」
おお、何故か急に惚気られた。
だが、何となくその感じ分かるなぁ。
「アイツと一緒にいると楽しいよな。」
「うん。」
「だから・・・」
ソーラメテオールでも皆で楽しく暮らそうな。
と、カッコつけながら言おうとしたその時だった。
「私は聖女じゃありません!!」
そんな怒鳴り声が聞こえて来た。
どうやら救護所の方角からだったので気になって見に行ってみようかな?と、思う前にジルがもの凄いスピードで救護所へ走って行ってしまった。
う〜ん、さっきの良いムード返して〜。
***
救護所の中では、白いローブの女性と普通の魔術師ローブを着た女性が言い争っていた。
そんでもって何故かジルが魔術師ローブの子を背に庇う状態になっている。
知り合いかな?
声からしてさっきの叫び声は魔術師の子っぽいが。
「ジークリンデは聖女じゃなくて、ただの神聖属性魔力の研究者。言い掛かりはやめて。」
「まぁ!神殿の認定があるのに、人々を救わず研究なんて。最低だわ!」
あ・・・よく見たら白いローブはロザリー嬢じゃないですか・・・。
なにあのギラギラしたローブ・・・特注品か何かかな?
逃げたいけど逃げられないので、杖で隠蔽起動っと。
流れを見守っていると、昨日出た怪我人はほぼ治療が終わっているようだった。
ただ、ジークリンデ嬢が言うには光属性での治癒は応急処置しか出来ないから、しっかり水属性での治癒をしなければ!という言い方だった。
まぁそうだよねぇ。
しかも言い争いの途中で、もう一人の聖女さんが現れて更に大混乱だった。
もう、怨嗟がもわもわと立ち上がって魔物が生まれそうなくらいだよ!
「ルナリア様は引っ込んでいて下さらない?」
「相変わらず頭が悪いのね、ロザリー様。ジークリンデさんは自身でも聖女ではないと仰ってるのよ?いい加減絡むの辞めてあげたら?」
おお、ルナリア嬢は割とまとも・・・?
「馬鹿は貴女よ!神殿と教会の認定は絶対ですわよ!?」
「帝国称号法にはそんなもの無いのだけど。」
バトルはルナリア嬢とロザリー嬢に移行して行ったので、ジルはジークリンデ嬢を連れてその場を去る。
と言う訳でオレは二人に近づき纏めて隠蔽をセット。
「ひえっ!」
ジークリンデさんが驚いて声を上げると、ジルは夫だと言い紹介してくれた。
夫!紹介がもう既に夫ですよ!
「初めまして。ジークリンデ・モルゲンシュテルンと申します。」
ジークリンデさんはジルの幼馴染なのだそうだが、モルゲンシュテルンと言えば現宰相さんの家名だ。
「大変だったね。取り敢えず暫くは隠れて置くといいよ。」
物凄く繊細でか弱そうな見た目をしている。
何となく守ってあげなきゃと思わせる容姿を見て、ジルと正反対だなぁと思っていると、「今失礼な事考えたでしょ。」と見抜かれ、蹴られた。痛い。
「そんな事無いよ。友達は大事だし、守って上げて偉いぞ!」
何とかリカバリーしようと必死に褒めたらプイっと顔を背けられた。何だそれ可愛いなオイ。
「昔は私が守って上げていたのですが、今は逆になってしまいましたね、ジル。」
ジークリンデ嬢の言葉にジルは珍しく照れながら頷いていた。
そして、この件の事情を話し始めたのだが・・・
「アイツはジークリンデが凄く可愛いからって虐めてるの。」
短いけど却って分かり易い!
「何となく分かるよ。さっきのロザリー嬢の感情の向きには妬み嫉みがいっぱいだったから。」
「でもアンリは隠れてた。」
非難めいた視線をジルがくれるが、しょうがないんだぞ!
オレが出てったらもっとややこしくなるから!
「いえ、あれで良かったのです。ケラヴィノス卿はロザリー様の取り巻きに嫌われているから。」
「そういえばそうだった。」
「オレにも理由はよく分からん。サーシャさんは狂信者が居たのかもって言ってた。」
「と言うより、聖女の周りは狂信者だらけですよ・・・」
「そうだね。」
「マジか・・・」
何それ怖い。
そう言えば、ルナリア嬢の周りにも取り巻きが居たなぁ。騎士が多めで女性も結構居た気がする。
「所で、何で聖女認定されてしまったんだ?」
「それが・・・」
ジークリンデ嬢は語る。
学院で聖書研究していた彼女は、聖女と光属性魔力の関係から神聖魔力という存在に辿り着く。
ーー女神の願いにより水の神獣は天より降立ち、瘴気の灰に蝕まれる世界を光によって癒した。
そして、その力は乙女達にのみ受け継がれてゆく。
という一文から光属性と聖女の研究を始めたそうだ。
彼女自身も光属性を持っていたので治療の名目で実験をしていたらしい。
その際は、ちゃんと水属性での治癒もしていたそうだ。
だが、神殿も教会もそんな事情お構いなしに勝手に聖女認定して行ったそうで、その後から色んな聖女、特にロザリーから絡まれる様になったらしい。
「災難だったね。」
「研究がこんな事になるとは思っても見ませんでした。」
何となく、乙女は魔女の事だと分かりそうな物なんだけどなぁ。なんであえて歪めるスタイルなんだろう。
利権でも絡んでるんだろうか。
しばらくすると、聖女達は何処かへ行ってくれた様でジークリンデさんも受け持ちの救護所へ戻れそうだった。
「何かあったら、すぐ逃げて来てくれ。オレも匿う位は出来るから。」
被害に遭う同士だから。と付け加えると、納得した様に頷いてくれた。
うーん。
益々聖女が分からん!
一体何がしたいんだろうか。
「気を付けて。」
「ええ、分かったわ。ジルもケラヴィノス卿もありがとう。」
そんな訳で、ジークリンデ嬢と別れたオレ達は再び走り出す。
ラストスパートでジルに抜かされ、少し悔しい思いをしながらも昼前に野営地に到着した。
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