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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
黒の大渓谷
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49.魔女の惚気杖



 その日、ユヴァーリの魔女領でも大規模噴出の影響から大量の魔物と瘴気の魔物が出現していた。


『おはよう、私の子供達。二年振りの大噴出だね。今回は瘴気の魔物の魔核一個につき神聖魔力結晶一個と交換だ。皆楽しんで狩りをしてくれたまえ。』


 魔女領名物、瘴気の魔物討伐合戦開催のお知らせと、賞品の案内が祖である神獣から齎されると魔女やその子供達はうきうきと準備を始める。


「ママ!私も自分の領地に行ってくるー!」

「気を付けて行ってらっしゃい。」


 普段は五体分につき一個と交換される神聖魔力結晶。

 二年振りの大噴出のせいか、大盤振る舞いしてくれるらしい。


「わぁ、もういっぱいいる!」


 リューシャは急いで箒に乗ると、自分の領地であるソーラメテオールへ向かう。

 まるで運動会かの様に浮かれた主人を追いかけて、ブランシェもその後を追う。


「今日もいいお天気!いっぱいやっつけて、じーじから神聖魔力結晶もらおうね!」


『はい、ご主人様。』


 ブランシェは魔力ラインから供給される初春の風に桃の香りの混ざる心地よい魔力をどんどん吸収すると、一度ブレスを吐く。

 風属性の強力な魔力は瞬時に瘴気の魔物を消滅させると、魔核がポトリと落ちるのが見えた。


「ありがとう、ブランシェ。」


 リューシャは魔力操作で魔核を拾い、自分のマジックストレージにしまう。

 先ずは一個目。だが森側の結界から滲み出た瘴気の魔物達が次々とやって来る。


『星降、おはよう。魔核集め大会久しぶりね!』

「ルルちゃんおはよう!いっぱい集めようね!」


 今日の魔女領の空は、魔女やその子供達とペットの魔獣が飛び交う。

 そして瘴気で澱んだ空気は次々と浄化されていく。


『あらそう、黒い谷底から魔竜がいっぱい出てきたのね?』


 花の精霊ルルディがボソボソと話す。何処かと交信している様な口調だったのでリューシャは邪魔をせず瘴気の魔物狩りに勤しむ。


「じーじの神聖魔力結晶が有れば色々研究捗るし、セシリアの分もしっかり確保しなきゃ!」


 途中、おやつのラップサンドを齧りつつ次々と光属性の魔術を放つ。

 そういえば、アンリとセシリアはちゃんと会えただろうか?と二人のことが頭を過ぎる。

 今頃配給食のボソボソさに悲しんでいるのではないかと心配になるが、おやつを沢山持たせた事を思い出して安堵する。


「リリーとジルも大渓谷だったね。ご飯大丈夫かな、心配だね。」


 自分達は強すぎる魔力を持つ為、素材回収は何とかできても肉を取り出す事が出来ない。

 魔導師や上級魔術師は行商人から食料を購入すると迷惑になってしまうので、マジックストレージ内の食料でなんとかするしかない。


『懐かしいですね。あの時はご主人様も奥様方も早々に食料を消費し尽くしておりましたね。』

「そうそう。あれは辛かったね。」


 溢れ出た瘴気の魔物を狩り尽くすと、彼女達は自領沿いの森へ向かい、殲滅という名の浄化を行う。


 あっという間に魔女領は浄化された様で、夕方には元通りになっていた。

 ただ、噴出は続いている為数日間はこの狩りという名のお祭りが開催された状態になる。


 魔女の妻達が食事や菓子を沢山用意してくれる瘴気の魔物狩り大会中は、魔女同士の交流も盛んになる。

 妻達の作った料理を交換しあったり、夫達の研究成果である魔術や魔法陣、そして魔道具のお披露目の場でもある。


 リューシャはこの祭が大好きだった為、二年前の大渓谷では余計な事をしたとがっかりした位だったが、帝国や周辺国はとても助かったと喜んでいたので、こっそりと次回の開催を心待ちにしていた。


 ここにアンリが居ればもっと楽しかったのに。

 そんな事をふと思う。


「アンリくんもきっとこのお祭り楽しんでくれるよね!」

『アンリ様はびびりですからね。大渓谷から戻れば少しはマシになっているかも知れませんが。』


 そんな二人に花の精霊ルルディは言う。


『ケラヴィノスは天空の女神の子で水の神獣の子でもあるんだから、こんな魔物なんてぱっと片付けて終わりよ。』


 その言葉でリューシャは思い出す。

 魔女達は漏れなく水の神獣の子孫で、精霊は天空の女神の子供達。

 アンリは前世で雷の精霊と混ざって同一化しているし、今生では降霊の魔女アスタルテの子孫でもある。


「わぁ、アンリくんって不思議!」

『今更ですねぇ。』


『はやく力が戻るといいわね。そうしたら素敵な美味しい果実をもっともっと産んでくれるもの!』


 そんなルルディの言葉にリューシャは力一杯同意した。








***



 大渓谷では三体の超巨大魔竜との戦闘が継続していたが、中央のコイツはオレの精霊術を継続的に浴びせたお陰か、大分縮んでくれた。


『大分小さくなりましたのでアンリ様はお戻り下さい。』

 そんな伝言をプッチ君が伝えてくれると、ようやく地上に戻っての戦闘だ。


 超大型が大型位になったので、戦術を変えて遊撃隊と攻守交代だ。


 オレも攻撃に参加しようとしたら、素材を沢山回収したいので拘束だけしてと言われてしまう。

 すまぬ。

 勿論嫁二人もバインド係に徹していた。


「アンリ、魔核の場所特定できる?」

 リリーさんがそう言うので、目を凝らすと瘴気が一番濃い場所を見つける事ができた。


「圧力をかけて、ゆっくり壊してみて。」

 言われた通り、魔核を魔力でメキメキと圧迫すると大型魔竜は動きが鈍くなって行く。


「壊し切らないでそのまま!」

 微妙な加減だが、何とか魔核を半壊状態でホールドして置く。

 拘束用の魔力操作にあまり手が掛からなくなって来たので、集中はしつつ皆の解体を眺める。


「リリーさんって教えるの上手ですね。指揮も素晴らしかったですし。」

 オレがそう言うと、名前は呼び捨てで良いと言われた。


「あたし教導官やってたから、その位出来なきゃおかしいでしょ。」

 そう言って笑うリリーさんはとても頼もしかった。

 そして姐さん感が半端ない。

 これで料理や家事が出来たならなぁ、理想の年上妻だろう。


「それにしても、本当に勿体ないなぁ。」

 オレの顔をグイッと覗くと残念そうに溜息を吐く。

 リリーさんはオレ達の様な騎士体型はあまり好きじゃないんだろうか?


「私はいいと思う。筋肉は大事。」

「あ、ありがとうございます。」


 そうだぞ!筋肉は裏切らないからな!努力した分だけ付いてくる最高の友達だからな!


 そしてジルさんも煩わしいから敬語はやめてほしいと言っていた。

 何だか少しずつリューシャの嫁達とも仲良くなれて嬉しいぞ!

 因みにリリーさんは22歳、ジルさんは20歳。どちらも年上だ。


「まさかアンタが魔女の惚気杖持ってるとは思わなかったけどね。」


 ん?なんだそれ。

 リューシャに貰った就職祝い杖か?


「私は杖と筋肉を見て確信した。凄く強いって。だからリューシャはそれを渡したんだと思う。」


 ジルさん・・・かなり重症ですね・・・脳が筋肉とパワーに侵されてますよ。


「所で、惚気杖ってなんですか?」

「えっ!?アンタ知らないで使ってたの!?」


 非難めいた声色にビクビクするも、そんなオレに親切に教えてくれた。

 

 魔女の惚気杖とは、中位から下位の魔術師や騎士を夫にする際、安全に魔女領で過ごせる様にと贈られる物らしい。

 今ではその解釈が変わり、功績夫ではなく普通に恋愛結婚した場合に贈られる特別な杖だと言っていた・・・


 まじか。

 いや、でもリューシャだぞ!

 そんな風には・・・


「あらら、真っ赤な上にだらしない顔しちゃって。」

「だ、だらしなくもなりますよ!」


 そんな時だった。

「アンリ様!今すぐここから離れて下さい!」


 カイツさんが叫ぶのでそちらを見ると、オレから漏れ出ちゃったらしい祝福のキラキラ粒子が解体中のドラゴン型の頭部を浄化しかかっていた。


「すまん!今すぐ離れるから!」


 謝りつつ、カルコス君と上空へ向かう。

 頭部が融解したせいか殆ど動かなくなったドラゴン型の解体は、もう直ぐ終わりそうだった。


 だが上空に来てみるとまだ両サイドでの戦闘は続いているのが見えた。


「セシリアちゃんとルシエル先輩か・・・?」


 オレ達の右側主力はどうやらその二人だった様だ。

 解体が終わるまでは魔核ホールドを解けないので、見ているだけなのがもどかしい。


 しかも何故か騎士や魔術師、そして他の魔導師達が撤退を始めている様に見える。

 しかも上空から支援していた竜騎士達は後方に捌けて行く。


 だが、竜騎士四騎がセシリアちゃんを迎えに行った所で、オレはようやく気付いた。


 多分セシリアちゃんが極大魔術を使い、もしもの備えにルシエル先輩を残しているのだと言う事に。


 

 どうやらそれで当たりだったみたいなのだが・・・

 あの魔法陣に見覚えがあります。


「プッチ君、皆に伝令。光属性魔力を含む衝撃波が来るから結界を今すぐ!」


 あのSF映画でよく見る広範囲のレーザー兵器みたいな一撃は、この距離だとしても余裕で強烈な衝撃波が来るだろう。

 そして、右側のドラゴン型も撃たせまいと上空へ飛び立つ。


 オレもここから結界を張り、なるべく衝撃波を緩和しようと準備する。


『わぁ、ぴかっとしたねアンリさま!』

「ぴかーでは済まないぞカルコス君。ほら、衝撃に備えて!」

『はーい!』


 それはそれは激しい衝撃波でした。

 ただ、下でルシエル先輩が鎖型バインドを沢山繰り出しているのがチラッと見えた。

 何してたんだろ?



 そして一息吐くと、どうやら今度は左側らしい・・・


 「プッチ君、伝令。今度は左側からの火属性魔力を含む衝撃波に注意。」


 だが、オレはストーメア卿の火炎魔術を見るのが初めてなので少しワクワクしていた。


『アンリさま!熱そうだね!』

「うん、取り敢えず衝撃波に備えよっか・・・」


 ワクワクは瞬時に消えた。


 ドラゴン型に上空から突っ込んだストーメア卿は、辺り一体をドロッドロに焼き尽くしていた・・・


 消火も大変そうと思ったけど、もう燃えるもの残ってないね・・・


 何とか両サイドからの衝撃波を耐えると、オレ達は一度下に降りる。


「アンリ様の惚気のお陰で助かりました。両隣の衝撃波のせいで危うく素材達をダメにする所でしたよ。」


 オレの照れ祝福漏れ事故は忘れろぉ!


「さぁ、アンリ。もう魔核壊していいわよ。」


 そんな訳で一気に加圧して粉砕すると僅かな残骸もサラサラと消えて行った。


 討伐完了に皆で労い合っていると、上空にブラックドラゴンの編隊が見える。


 そして降下してくるなり彼は言った。


「もう超大型討伐終わっちまったか〜。楽しみにしてたんだが間に合わなかったな。」

「あ、はい。三体とも今さっき討伐完了です。」


 相変わらずあっけらかんと言うラヴロフさん、そして部下の方々も残念そうにしている。

 本当は夜到着だったけど急いで来たのだそうだ。


「しゃーない!明日以降に期待するか!」


 そう言った後、一度グリフィス君から降りてオレの頭をよしよしと撫でる。

 そして頑張ったなと遊撃隊皆に労いの言葉を掛けてくれた。

 アダルバートさんは目をキラッキラさせて少年の様な顔でラヴロフさんと握手して喜んでいた。

 

「お前達も、偉かったな。」

「リューシャの妻だもの、これくらい当然よ。」


 なんか嫁達はラヴロフさんに対して素っ気ないな。

 遊撃隊の皆と真逆の反応をしていた。


 そんなこんなで、ご挨拶も一通り終えるとラヴロフさん率いる帝国竜騎士第一小隊の皆さんは指揮所に向かった様だった。


「素材回収も終わったし、オレ達も指揮所に報告に行こうか。」


 魔物の数も大分減っているし、後は一般騎士や兵士に任せても大丈夫と判断してオレたちは指揮所へ向かう。

 途中、魔物に会えばさらっと討伐しておく。


 今日は少し早いが遊撃隊と嫁達には休息を貰おう。

 トード肉の料理もあるしな。


 そしてオレはと言うと、歩きながらも偶に惚気杖の話を思い出してはニヤついてしまい、その度祝福漏れを起こしてしまうが皆なにも言わないでいてくれた。






こちらはpixivにも投稿しております

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