46.夜の来訪者
日が落ち始め、今日の討伐任務は一先ず終了。
と言うか、全体的に魔物が少なくなっている。
そのせいか、魔素や瘴気もかなり減って来ているのでオレ達は森の中の野営ポイントへ。
結界を設置したらテントとテーブル等の準備。
そして遊撃隊結成式祝いを開催出来る歓びを隊の皆と分かち合う。
だが一つ問題がある。
「肉はどの様な調理をするべきか!」
オレがそう言うと皆が次々と希望を出して来る。
「ベヒモスと言ったら肉厚ステーキだろう。」
「串焼きも捨てがたい!だがやはりステーキ!」
ステーキ希望多めなのでメインメニューは決定だ。
まぁ、色んな味の味付けすれば楽しめるだろ。
「今日のお祝いメニューは、ステーキとスープ。そして配給食です!ワインもあるよ!」
配給食の下りであきらかに皆げんなりした表情になってしまったが、気持ちは分かります。
オレも最初は咽せまくったからな!
従軍期間中、皆に許可を貰って料理係を任せてもらえる事になった。
そして感想等を教えてもらえる事になり、忖度無しの厳しいジャッジをお願いした。
ソーラメテオールに行くまで、しっかり料理の腕を磨いておかないといけないからね。
では早速、野郎11人プラス一匹分の夕飯作り開始。
気分は寮母さんだよ!
では、お肉を厚く切って先ずは塩胡椒。
切れ端に熱を通して味見してみると、牛っぽいと言う言葉がピッタリでやや薄味。良く言えばクセがなくて食べやすい。
ステーキソースは、ソースストック達を少しだけ加工してお好みでかける形にしてしまおう。
帝都でも流行っている照り焼き風味は、角切り肉を焼いて絡めてマヨネーズは添えておく。
サッパリ食べれる系も必要なので薄切り玉ねぎとレモン塩も用意して置けばなんとかなるだろ。
スープは野菜多めで作っておく。
サラダもあるけどオレ達若人は肉ばかり食おうとするからね。
草は大事ですよ!
ボソボソ栄養クッキーバーもあるけど、バゲットも出しておこう。だって折角の遊撃隊結成祝いだもんな。
「さて肉を焼くぞ野郎ども!!」
「よし来た!僕の出番ですね!!」
「火なら任せろ!」
火炎魔術が得意の二人が鉄板を熱してくれるのでとっても楽です。
薪も使わないし結界があるので匂いも漏れない。
「焼き目よし!」
肉を裏返す時も一気に魔力操作でひっくり返せるので本当に楽なんだが、オレはこれで料理が上手くなれるのだろうか・・・?
「ワインを入れて少し蒸すか。」
ジュワァッと良い音がするが、匂いも蒸気も物理結界被せてしまえば簡易蓋になる。
なにこれ超手軽・・・
「こんな魔力の使い方したら本当は怒られるんですけど、アンリ様ですからね。」
「アンリ様って魔力枯れの経験無さそうですもんね。」
「そう言えばないなぁ。常に一定量はある感じかな。」
オレ自身どれだけあるのか知らないし。
個体魔力数は測定できなかったんだよなぁ。
「自分の魔力よりも外から魔素変換して使ってる方が多いから、無くなりようがないだけかもしれない。」
数人吹き出したが残りは、まぁカルデア家だししょうがない、と言っていた。
「取り敢えず焼けたし食おうぜー!」
「ワイン準備完了ですよ!」
そんなわけで皆で豪快に乾杯すると、一番先に食べ始めたのはカルコス君だ。
「プチーツァども、お前達にもご褒美だぞ!」
細かく砕いた魔石をテーブルに散らすと、11羽一気に集まって美味しそうに魔石粒を啄んでいた。
中にはちょっと鈍臭くて、魔石粒を横のプチーツァに奪われている子がいた。
可哀想だから後で少し魔石をあげようと思っていたら、その個体はオレのプッチ君だった・・・。
カルコス君と遊んでる時の素早さがゼロじゃねーか・・・
「これが噂の照り焼き!」
「ソースどれもうまい!ああ、城の料理長さんの味を感じる!」
「そうそう、それ料理長さんからのお土産のヤツ。」
「この肉ワインに合うなぁ。俺大渓谷2回目だけど、前も美味もんばっかり食ってたんだよ。これで良いんだろうか?」
ヨアヒムさんと共に四年前に従軍したという、この中では年長の騎士カイツさんがそう言うのだが・・・
大渓谷の従軍って過酷なんだよね?違うの?
「ヨアヒム様の時ですよね。あの方のマジックストレージの容量半端ないですからね。」
ヨアヒムさんは超大容量持ちなのだそうだ。
なので、大渓谷でも手持ちの食材で2ヶ月を過ごしたそうだ。しかも遊撃隊の分も含めて!
「果物と野菜は売れるくらい入ってるが肉が少ない。すまん。」
「いえ、肉なら取れます。大事なのは野菜と果物の方ですよ!」
皆、オレのために肉クエストを続けてくれると言う。
本当にいい奴らだ。ありがとな!
「アンリ様、マヨネーズとこのテリヤキは危険な代物ですね。サンドして食べても美味しいし幾らでも入って行きます。」
そんな具合に、こってり系人気かと思いきや、意外とレモン塩や薄切り玉葱も人気だった。
「僕、今日の配給食はいいです。」
隊最年少のライナー君がそっと自分のマジックストレージにしまっていた。
そして結局皆仕舞いだしたので、オレも今日は料理を普通に楽しもうと、配給食を仕舞う。
合宿みたいな雰囲気でとても楽しい。
この先も元気にやって行きたいが、オレ達ほぼ全員が戦場で言ってはいけない言葉を言ってしまっている。
アダルバートさんだけは大丈夫だと思っていたのに、ライナー君が、孫が産まれるの楽しみですね!名前は決まりましたか?とか言っていた。
これも結構危険じゃないか?
結局全員フラグ立ててしまった気がするんだが・・・
***
隊では交代で睡眠を取る。なので見張り番はのんびりワインを飲みながら食後の休憩だ。
勿論ポーションと睡眠魔術なので大した睡眠時間は取れない。でもここでの生活では、これで十分恵まれている方だ。
遊撃隊は森の外の野営地を使わない。
基本森の中での生活になるから、贅沢してても咎められないし、いざこざに巻き込まれることもない。
そしてそれは魔導師達も同じだ。貴重な大規模魔術を使える大事な戦力という事で、他とは扱いが違うらしい。
不満は出ないのか?とも思ったのだが、大量に魔力を扱うし、強力な魔物が出現した時矢面に立つのが彼等魔導師だ。なので誰からも文句は出ないのだそうだ。
「やけに静かだな。」
「今は噴出起こって無いからな。」
皆でだらだらのんびり座っていると、ゾワりと魔力を感じる。
「何者だ!」
カイツさんが素早く剣を構えるが、流石年長者!
しかし、あれだけ呑んで良くこんな素早く警戒態勢取れたな。
警戒の声に人影が見えてくるが、そこに居たのは女子二人組。
「そこにアンリ・カルデア・ケラヴィノスは居るかしら?」
その女性の声と言葉を聞くなり、見張り番が全員警戒と護衛体制になる。
流石領騎士団!素早いよ!
「何用だ!」
「そんなにガッチリガードしちゃったら、護衛対象丸分かりよ?」
「ジル、喧嘩売るのやめなさいって。あたし達はただ、ご挨拶に来ただけでしょう?」
ん・・・?そのお名前は・・・
「あたしはリリー・ヴェスティエール。こっちはジル・ファルケンマイヤーよ。」
リューシャの奥様達だったー!
破壊神達の来訪に少し怯むが、大丈夫。なんとかなると思う。
「皆ありがとう。彼女達は大丈夫だ。」
聖女関係のゴタゴタを気にしてくれていて、守りが固かった様だ。
オレが彼女達はお仲間だと伝えると、皆護衛を解いたので、結界の中に二人を招き入れて改めてご挨拶する事にした。
「お初にお目にかかります。アンリ・カルデア・ケラヴィノスです。」
貴族風ご挨拶して見ると、リリーさんもジルさんも貴族風ご挨拶を返してくれた。
流石ヴェスティエール侯爵令嬢とファルケンマイヤー伯爵令嬢だね!優雅だよ!
まさか家事で壊滅的破壊を齎すとは誰も思うまい!
テーブルに案内して取り敢えず親交を深めようと頑張って見るが、二人はオレ達が休息中と知った様で、また出直すと言う。
「今日は挨拶だけにしておきます。」
騎士服とローブを見るに、この二人も魔導騎士なのだろう。第二輸送で到着したばかりかな?
「お会い出来て光栄です。またいずれ、ゆっくりとお話をいたしましょう。
野営地に戻られるならば、こちらをおやつにどうぞ。」
リューシャの課題で作った物だと伝えて、チョコレートを手渡して二人を見送る。
ただの挨拶か・・・?
こんな時間に?
なんだか用事あった風だったけど、なんだったんだろうなぁ。
いやぁ、しかしリューシャもやるな。
あんな美人達を捕まえているとは・・・。
***
森の中、リリーとジルは目的を果たせず自分達の野営場に戻って行く。
「遊撃隊の休息邪魔しちゃったわね。」
「うん。」
考えれば分かるだろう時間に押し掛けてしまったのは、ジルが早くアンリに会いたいと言って飛び出したせいでもあった。
「でも、早く手合わせしたかったから・・・。」
「まぁその気持ちは、あたしもちょっとは分かるよ?でも時間が悪いでしょう、時間が。」
「うん、次は気をつける。」
ノーヴァ卿の剣撃を15秒も耐え、そして課題も合格したと言うカルデア大公家の皇子。
噂では政争に敗れて追放された、無能な元田舎王子というものが多かったが、予想以上に魔力が多く少し驚いていた。
「やっぱ顔かな。どう思う?」
「剣技と魔力だと思う。」
リューシャからは簡素な手紙が届いただけで、詳細が分からなかった二人は、実際に会って魔女に相応しい力量があるのかを確認をしたかった様だ。
ーーカルデアのアンリくんが夫に決まりました。
アンリくんが大渓谷から帰ったら準備が整うので、ソーラメテオールにお引越しをしようね。
未だ家事を上手くこなせない二人は困惑した。
一日も早く彼女の側に行きたくて様々な家事トレーニングを受けたがどうも上手くいかない。
だから、まだ行くべきでは無いのだが・・・
「謎が深まるばかりだわ。」
森を歩きながら、アンリから差し出された箱を開けて見ると、甘い香りがふわりと舞う。
「求婚の課題よね?なんでお菓子?」
「リューシャだからお菓子なんじゃ無いかな。」
ああ、十分有り得る。
そう納得してチョコレートを口に放り込むと、今まで食べた事のない味に驚愕する。
そして流石はカルデア大公家。カルデアンクリームが使用されたその菓子は、甘く柔らかに口の中で解けてゆく。
「なにこれ美味しすぎ!」
「・・・うまっ。」
リューシャがアンリを選んだ理由に、何となくだが察しがついた。
そして、おそらく料理が出来るだろう事を彼女達に悟らせた。
「かっ、菓子と料理は違うと実家の城の職人が言っていたわ!」
「いや、たぶん・・・あの雰囲気は、ご飯が作れる男だった・・・」
「って、それどんな雰囲気よ!どう見ても見目麗しい大公家の坊っちゃまだったじゃない!」
明日こそは、その力量を測らねばならない。
そう決意しつつ森を抜け野営地に到着すると、二人は時間外の無断外出をこっ酷く叱られた。
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