45.ベヒモス
前線へ赴くと、割り当て区画は谷側最奥。
魔物が次々と湧き出しては襲いかかって来るので、取り敢えず単純魔力操作での拘束。
その後は魔術騎士達が焼いたり裂いたり斬ったりしながらの討伐だ。
「素材回収より殲滅優先なので楽で良いですね。」
「しっかし旨いヤツがまだ来ないなぁ。」
「グロースフォーゲルとは言わん。せめてトードが居ない物か。」
ザーグロスの森での演習のお陰か、大渓谷でもオレ達の連携が上手く噛み合う。
体力と魔力に大分余裕があるので殲滅優先の討伐だけでなく、瘴気を抜いたら美味しく食べられる系魔物に出会ったら回収しておこうと言う事になる。
隊内クエスト発生です。
魔物は瘴気を含む魔核か魔石を破壊すれば消滅する。
そして、核を外さない様に上手く解体できれば素材やお肉をゲットする事が出来るのだが、これが中々難しい。
ザーグロスでも何度か挑戦したが上手く出来なかった。
ならば精霊術はどうかと思い、やってみれば結局浄化してしまいサラサラと消えてしまうという失敗が続いてしまった。
セストで食べた魔物肉の揚げ物を再現したいので、一応調味料や油も持って来ているが、美味い肉をドロップ出来る魔物自体に出会っていない。
「ここら辺グレートマンティスばっかりですね。」
「確かにずっと虫系・・・」
割り当て区画から魔物が居なくなってしまったので、次の区画に向かうも、今度はセンチピードという巨大なムカデ型の魔物ばかりだった。
今日はもう虫の日なのだろうか・・・
オレ達のお肉クエストが・・・
取り敢えず硬い魔物なので、雷属性魔力を魔剣に注ぎ纏わせる。
ぶった斬る事も出来るが、するんと斬れた方が楽でいい。
「何度見ても良い切れ味ですね。」
領軍騎士達は各々戦闘しながらも褒めてくれる。
皆本当に優しいヤツらだけど、開発者命名の技名聞いて吹き出していたのを思い出す。
“サクサク斬れるヤツ”
イリアさんはそう言っていた。
もっとカッコいい技名欲しかったです。
「必殺!!さくさくきれるやつー!!」
声に出しても凄くゆるい。
イリアさんも精霊言語の使い手なのだろうか?
「やめて下さいよアンリ様!そんな厳つい技に!可愛らしい技名!ダメですよ!」
アダルバートさんはセンチピードを細切れにしながら叫んでいた。
すまぬ。魔女の技なんだコレ。
改名は出来ないのだ。
技名を連呼していると、騎士達皆が笑出す。
力が抜けるかと思う程に笑っているが、周囲から瘴気が晴れて行くかの様な光景をこの目が捉えている。
カルデア領軍の討伐ではいつもの光景だ。
オレが冗談を言わずとも、誰かが何かを言ったりやらかしたりと笑いながらの戦闘になる。
どんなに過酷な状況でもこれを続けて来たのは、人間による瘴気の浄化を目的としているのでは無いだろうか。
“黒き谷は、人の子の業をもって鎮めよ”
その一文が頭に思い浮かぶ。
偉大なる占星術師にして召喚師であったという降霊の魔女アスタルテ。
元々は彼女の魔女領だったというカルデアならではの伝統なのかも知れない。
そうこうしている内に、この区画での討伐も終わり、次の区画へ向かう。
次こそは美味しい系魔物に出会える様にと、空の白帯へ祈りながら。
***
ベヒモス出現。
その一報が前線に齎されると、カルデア遊撃隊に討伐命令が下された。
二年振りに現れたその魔物は、巨大で強大な力を持つ魔物だった。
河馬と蜥蜴を混ぜた見た目に鋭い角と牙を持つ。
突進力が凄まじく、その上混乱や催眠の状態異常を撒き散らすとても厄介な魔物である。
「アンリ様、アレは美味しいですよ。」
「何系の肉なんだろう?」
「強いて言うなら牛っぽい、ですかね。」
遊撃隊の若い騎士達も指揮官と共に肉だ肉!とはしゃいでいる。
ベヒモスを前にしてこの歓び様を見ていると、相変わらずカルデアの騎士はこの調子かと呆れもするが、前線騎士達にはとても心強かった。
「遊撃隊!援護はいるか!?」
そう声をかけるが、結界もあるので大丈夫だと言う。
何とも頼もしいその声の主は、テレシア皇女によく似た青年だった。
第五陣の一部の者達が追放王子と噂していた者だが、悲壮感も無ければ無能そうでもない。
相変わらず噂は当てにならん。と溜息をつき部下を連れて持ち場へと下がる。
「浄化しないよう気を付けてくださいね!」
「分かったー!オレは拘束魔術に徹するぞー!」
背後から未だ楽しげな声が聞こえて来る。
部下の一人が大丈夫でしょうか?と聞いて来たが、あの調子なら大丈夫だろうと言葉を返す。
カルデアの騎士はいつもああだ。
だが、頼りにはなる。
「ベリンスカヤ隊長!あれは!」
振り返った騎士が目を見開き驚愕の表情をしているので何かと思って振り返れば、拘束術式で捕獲されたベヒモスの討伐が既に始まっていたのだが、一風変わったものになっていた。
「討伐というより解体だな。」
「状態異常も上手く防いでますね。参考にすれば対ベヒモス戦用の戦術教義に上手く組み込めるのではないでしょうか?」
「いや、あの魔力・・・魔術師団規模でも難しいな。」
「はぁ・・・やはりユヴァーリやカルデアの討伐ドクトリンを取り入れるのは難しいですかね。」
討伐戦闘教導官をしているこの部隊では、いつも話題に上がっては断念せざるを得なかったユヴァーリやカルデアの討伐戦術。
一般の騎士や魔術師の討伐にそれらを組み込むのは難しかった。
それに、この大渓谷では領の特色が出やすい。
魔物討伐の厳しい土地の者達と、そうでない土地の者達では元々の戦技自体にも大きな差がある。
だから自ずと配置は偏ってしまう。
「前線も漸くまともな顔触れになった事だ。大規模噴出が起こる前に、我らも魔物を減らしておくとしようか。」
***
「アンリ様、肉と素材を回収できましたので魔核の破壊をお願いします。」
ベヒモスは僅かに残った骨と皮だけになり動きを止めていたが、怖いのでガッチリ拘束したままだ。
「魔核の周囲の魔力を圧縮っと。」
ギリギリと締めつけてみるが中々壊れない。
取り敢えずどんどん加圧していくと、ようやく割れてくれた様で、残骸はサラサラと消えて行く。
「よし、討伐完了!今日は折角だから遊撃隊結成式しようね!」
オレの言葉に回収作業をしながら皆がオオ!っと雄叫びを上げる。
やっぱりお肉は良いよね。
急にベヒモスが現れたから討伐して来いと言われて驚いたけど、皆の解体と素材回収が上手なので、オレは拘束してるだけという楽ちん討伐となってしまった。
ベヒモスも図鑑でしか見たことが無かったから最初は少し怯えてしまったが、肉を求める仲間達の漲る闘志に引っ張られて結界も拘束もスムーズに出来た。
「皆のお陰でお肉手に入れられて良かったよ!」
「いえ、ここまで簡単に討伐出来たのはアンリ様のお陰ですよ。」
アダルバートさんにそう言われて照れて居ると、他の皆からも御礼を貰って少し気恥ずかしかった。
「あ!でもアンリ様、食べれる魔物の解体はダメですからね!」
「可食部減りますからね。」
ザーグロスでの演習の時を思い出したのだろう。
前もって釘を刺された。
次の区画へ向かいながらもオレ達は軽口を叩き合う。
カルデア領では少し距離があった様に感じていた皆と、今日一日で大分仲良くなれた気がして嬉しかった。
次の区画でも肉来い!と期待したのだが、グレートマンティスがわらわら湧いていただけだった。
「魔物は、意思も魂も無く自動で襲ってくる魔素と瘴気の集合体か・・・」
「急にどうしたんすか、アンリ様。」
「蟷螂ってさ、交尾の後雄は雌にご飯として食べられちゃうけど、こいつらはそう言う事無いんだよな、って。」
「言われてみればそうですね。魔物は繁殖しませんから。」
「俺、ガキの頃何故か蟷螂の卵集めてました。」
「あるある謎の卵集め!大体酷い目に遭うやつな!」
子供時代の話をしながら笑い合っていると、アダルバートさんが叫ぶ。
「やはりクーパー許せん!!」
卵の話で思い出してしまったようです。
アダルバートさんの手によってグレートマンティスも次々と細切れになっていった。
図鑑には鎌だけで無く、そこから発生する風系の魔力にも注意と書いてあったが、そんな時間も与えられず次々と細切れにされていった。
一応鎌だけは回収して居たのだが、これは素材として本陣で提出するための物だ。
殲滅が基本だが、持って帰れる時は持って帰って来てねと言う暗黙のルールがあるそうだ。
そして肉は自己消費okと結構緩いが、オレにとってこれは逆に辛い。
仲間が居ないとお肉を回収できないからね。
直ぐにサラサラ浄化してしまうからね!
きっとリューシャも加減が出来ず殲滅や相殺浄化になっていたんだろうなぁ。
結局この日はベヒモス後はずっと、虫さんがトコトコして来るだけだった。
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