43.配給食
人員交代の支援として魔導師隊で遠距離魔術を放っていると、後方から竜騎士隊が次々と空に上がっていくのが見えた。
やっぱり竜騎士カッコいいな!と思っていると、ガリア名物、重装甲竜騎兵隊も上空支援に飛び立って行く。
ガリア伯爵領のドラゴン、ウェイティドレイクを初めて見たけどかなりの大きさで個体魔力量も大きい。そのせいか基本複座騎乗のようだ。
ラヴロフさんのブラックドラゴンもでかかったけど、更に大きいなぁ。
見上げながら手を振ると、ベルナルドとマルクが気付いてくれて、手を軽く振り返してくれた。
『アンリさま、ブルブルがくるよ!』
カルコス君がそう言った瞬間だった。
ビリビリと空気が震え、急激に魔素と瘴気の波が来るのがわかった。
「時空震だ!魔導師隊、魔術にて相殺を開始しろ!魔物を押し戻せ!!」
観測手が叫ぶと魔導師隊の皆が次々に収束型高魔力攻撃を開始する。
「アンリ義兄さん、カルコスをお借りしてもいいですか?」
セシリアちゃんが何か閃いたのだろう。
もう少し大渓谷に近付いて相殺浄化を行いたいと申し出た。
それに対して観測手や指揮官もすんなり許可を出した。
『アンリさま、ぼくもブレス使ってもいい?』
野太い声で可愛らしく話すカルコス君に慣れない!
でも小規模だが噴出が始まっているのでセシリアちゃんと同行してブレスも使っていいよと声を掛ける。
「カルコス君、セシリアちゃんをよろしくな。」
『うん!まかせて!』
「セシリアちゃん、オレはここから瘴気の魔素変換を始めるから、使いたいだけ使ってくれ!」
「はい!有難うございます!」
元気よくカルコス君と共に空に上がったセシリアちゃんだが、大渓谷直上付近の空に到着すると更に高度を上げて行く。
それはユヴァーリの魔女領で見た、マイヨーラさんの娘のダイアナちゃんが行った高魔力突撃と似ていた。
オレは精霊術で変換を始め、じわじわと作業領域を広げて行く。
周りの魔導師達も、魔素を魔力変換しながら次々と収束型の高魔力魔術を放って行く。
「撃ち貫け!破波絶蒼!!」
オレの隣の魔導師さんが術名を叫んで魔術を放つ。
それは水風複合のド派手な魔力収束砲撃だった・・・
気が付くと結構皆オリジナル技名っぽい物を叫んでいるので、割と技名言っちゃうのはアリなのだろうか?
うん、アリだな。なんかカッコいいし。
オレの場合は叫びたくても叫べない詠唱文が多いからなぁ。
ちょっと羨ましい!
ぽんぽん魔術を撃っていると、セシリアちゃんの大規模な突撃魔術の余波が届き始める。
昇っては降下を繰り返す彼らからとても楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
たまに光線的な物を吐き出しているので、アレがカルコス君のブレスのようだ。結構な威力だし、ラインがあるのでオレからもどんどん魔力が流れて行っている。
後でいっぱい褒めてあげよう。
そして噴出分の瘴気を粗方変換し終えたので、魔素を取り込みながら魔力変換と操作を始める。
ここからだとちょっと遠いが、前線で戦う騎士達の助力にはなるだろう。
魔物独特の瘴気混じりの魔力を頼りに単純魔力の操作でどんどん捕まえてはガッチリと拘束して行く。
おお!手応えある!
騎士達が倒す手応えも一緒に感じるし、やっぱりこれ便利だな!
単純魔力の操作だけでも十分騎士への支援魔術としても使えることに気付けたのは今日一番の収穫かも知れない。
「アンリよ、流石に魔力を使い過ぎではないか?」
「そうでも無いですよ。単純魔力の操作だけですし、ここは材料がいっぱいありますし。」
ルシエル先輩が心配の言葉を掛けてくれたが、言っている事はラファエラ先生と同じだ。
意外と常識人で驚く。
「流石ケラヴィノス卿ですね。素晴らしい魔術です。」
オレ達をサポートしてくれている観測手を務める魔導師や魔術師の中にエルフリーデさんも居た様だ。
今は眼帯を上げていて、その右目は常時発動型の魔眼らしく、金色の光を帯びていた。
セシリアちゃんは発動させると青色の光だったなあ、と思いながらも、妻候補も魔眼持ちと言うことに今更ながら気付いた。
***
竜騎士による空からの援護と魔導師による魔術で、前線では上手く交代できた様だ。
セシリアちゃんとカルコス君で噴出分も大分消化できているので、それ程厄介な魔物も出ていない。
ただ、飛行型の魔物が発生している様で、重装甲竜騎兵達が空での討伐を続けてくれている。
前線からは怪我をしている人達から順次戻された様で、治癒師達が救護所で手当てを始めていた。
光魔術での治癒を施す者も居たが、ロザリー嬢ではない別の女性だった。周囲に取り巻き風の人達も居る。
あの人も聖女なんだろうか?
「アンリ義兄さん!カルコスと沢山の魔素を有難うございました!」
『アンリさまー!とっても楽しかったよ!』
幼獣化し小さくなって戻って来てくれたカルコス君を肩に乗せ褒めると、とても喜んでいた。
心なしかプッチ君もカルコス君を褒めて・・・いや、毛を啄んでるだけだなこれ。
「セシリアちゃんも偉かったね。」
頭を撫でていると、魔導師隊に休憩の合図が送られて来た。
どうやら遂に食事の時間が来た様だ・・・!
ドキドキしつつ配給される食事を受け取ると、前世でよく見かけた栄養バランス食的なクッキーバーだった。
ただし、硬い。そして粉っぽい。
横でセシリアちゃんが鑑定しながら、栄養価だけは高い事を教えてくれた。
「味はそれほど不味くはなっゲホゲホっ」
やばいコレ!水分無いと食べられない!
「水やミルクに漬けて食べると良いそうだぞ。」
ルシエル先輩は優雅にミルクに浸して食べていた・・・そうか、そうやって食べるのか。
オレはミルクココアを作り浸しながら食べると、食べやすくはなったが食感がちょっと気持ち悪い。
もういっその事、満遍なく添加してしまおうと考え、精霊術でミルクココアを付与すればチョコ味クッキーの出来上がりだ。
「しっとりチョコ味クッキーになったよ。」
そう言うとルシエル先輩もセシリアちゃんも自分の栄養クッキーバーに添加して欲しいと言って来たので付与すると、二人もおやつ感覚で食べることが出来た様だ。
「塩分欲しくなるね。」
「それなら二番の父から持たされた乾燥小魚がありますから是非どうぞ!」
どう見ても煮干しです。イチローさんありがとうございます!
ああ、煮干出汁醤油ラーメン食べたい。
帰ったら絶対に研究しよう。
和やかに魔導師隊の皆で各々自己紹介といった交流を楽しみながら休憩時間を過ごしていると、上空の魔物も片付いたのか竜騎士や重装甲竜騎兵も戻って来たのが見えた。
「初日から持参食料に手を付けると後々辛くなるぞ」
と言う、有り難い忠告をいただいた。
おやつも節制しないといけないな、と笑っていると、
「マジックストレージを持てる我々は恵まれている方だが、そうで無いものにはキツい場所だ。だから日に二度来くる行商人達はなるべく他の者に譲ってやってくれ。」
と言われた。
オレ達新米が迷わず“はい”と返事をすると、ベテラン魔導師達は満足そうに頷いていた。
この戦場内では1パーセントにも満たない魔導師。
力持てる者とそうで無い者の環境差が大きい事は勿論来る前にも説明を受けていたし、頭では分かっているつもりだった。
だが、まだ見えていない物があるように感じられた。
救護所では苦しみの色がもやもやと沸き立っていたし、直接前線を目にしてはいないが恐怖や怯えも伝わって来た。
オレ達魔導師にはそれ程過酷でない場所でも、従軍する一般の騎士や兵士達は違うのかもしれない。
***
大渓谷からの小規模噴出が起こると、交代作業を行なっていた気の緩みのせいか一時混乱が起こった。
「この程度の噴出で狼狽えるな!」
多少大型で強い魔物が出た程度でこの体たらく。
前線に常駐するベテラン指揮官達はげんなりしていた。
「たった2年でこうも質が落ちるとはな。」
「そんなに目くじらを立ててやるなよガブリエル。」
前線第二隊の指揮官であるアレクセイ・パステルナークが同僚を宥めるように言いながらも、次々と魔物を倒して行く。
大した量でも無いので彼らにとっては軽い討伐任務なのだが、最近来た騎士や兵士、そして下位の魔術師達には辛い任務になっている様だ。
星降の魔女の大魔術と、二ヶ月間の平穏。
その後の噴出頻度も大分少なくなっていたが、原因は直ぐに宮廷魔導師達の調査で判明した。
上空の白帯は天空の女神による世界への加護という伝承がまだ根強く残っており、人々が日々祈りを捧げる神聖な物であった。
長年その祈りを受けてきた白帯を構成する岩粒や氷は膨大な聖魔力を纏っていた為、流星として降り注げばとてつも無い浄化作用を齎した。
沈静化した二ヶ月。そして噴出の少ないこの二年間。
帝国や周辺国にとって、それはどれだけ希少な時間だったであろうか。
だが、それは恒久的な物では無い事を誰もが分かっていた筈だが、前線に緩みを齎してしまっていた。
この緩みは現場の責任であると指揮官達は考えており、常駐する騎士と兵士達は来るべき日に備えて士気を維持して来た。
だが、季節毎に従軍する者達は違っていた。
彼らは程度の低い討伐にしか慣れていないのだ。
「小規模だが噴出時間が長いな。」
「ああ、持続浄化の作用が切れ始めているのだろう。」
情けない事だが、小規模噴出ですら怪我人を出してしまう事が続く。
死者が出ない事は確かに喜ばしい事ではあるが、それもここまでだろう。
この噴出のせいで魔物も持続的に湧き出して来ている。
ここ最近では一番多い噴出になったかも知れないな、と考えていると、後方の魔導師達は収束型に切り替えて大渓谷に魔術での砲撃を始めた様だ。
「やった!これで戻れる!」
魔導師の収束砲撃魔術を見た騎士の一人が声を上げると直ぐ、後方から新たに騎士や兵士が到着した。
「さぁ、後は俺らに任せて下がれ!」
「お疲れさん!」
元気に声をかけるのは新人ではなく何度か従軍経験のある者達の様だ。
「ザハロフ隊長、パステルナーク隊長!お久しぶりですね!」
「久しぶりだな。また宜しく頼む。」
懐かしい顔ぶれに少し安堵しつつ、じわりじわりと増えていく魔物を狩る。
途中、最奥からの後退が遅れた弓兵や騎士を救助しに向かうと不思議な事が起こった。
「これはイリアの娘の仕業じゃないだろうな?」
「末の娘が来ると手紙には書いてあったが、その娘はあっちだぞ?」
アレクセイが上空を指挿すと、高魔力突撃での相殺浄化を行うつもりなのだろう。
ティグリスに騎乗し、ぐんぐんと高度を上げている。
「では、この拘束魔術は誰の仕業だ?」
第三隊を率いるガブリエル・ザハロフが辺りを見渡すが、操作された魔力の気配を感じても魔導師の気配がない事に首を傾げる。
「ああ、それならカルデアの末っ子坊っちゃんの仕業でしょう。」
第一輸送で到着したばかりの騎士が言う。
「ヨアヒムが来ているのか?」
「いや、大公がテレシア様の息子を養子にしたそうです。そっちの末っ子ですね。」
ーーテレシア様の息子なら、コレくらい不思議な事してもしょうがないな。
何となく皆そう思い、拘束された魔物を次々と倒して行く。
そのお陰で救助も上手く行き、スムーズに後方の救護所へ送り出す事ができた。
そして、イリアの娘セシリアが、繰り返し何度も突撃降下をしていたため強烈な衝撃波が届く。
騎乗するティグリスも何処か楽しげにブレスを吐き散らかしていたので、噴出された分の魔素や瘴気が大分少なくなって来た様だったが、どう考えても魔素と魔力の量が合わない。
魔石か何か魔力ストックがあったのだろうか?
「テレシア様の御子息は、召喚術ではなく本人が精霊術を使うんですよ。いやぁ、アクィラ宮殿の浄化凄かったっすよ。」
つまりは精霊達の様に、瘴気の魔素変化が出来ると言う事らしい。
「・・・テレシア様の息子ならそんな事もあるだろうよ。」
彼女の息子と聞いて、何を観ても驚かない耐性と懐かしい思い出が彼らに甦った。
こちらはpixivにも投稿しております




