38.帝都
城の皆に見送られ、カルコス君とプッチ君と共に帝都へとやって来た。
騎乗できる大きさに成長したカルコス君の最速は、ブランシェさんに比べても遜色ない怖さだった。
帝都は城壁に囲まれた大都市だったが、何が凄いって電車見たいなケーブルカーが走ってるんだよ!しかも帝都中を!しかも空には小型飛行船!
何だこれ!
交通の便が良過ぎィ!摩天楼いっぱい有るうう!
リューシャが言っていた通り、帝都を見たオレは驚いた。
何処かスチームパンクじみた世界に迷い込んだ見たいでわくわくしていると、アルブレヒトさんのお使いだと言って迎えに来てくれた人が現れる。
真っ赤な髪のイケメン騎士さんだ。
「初めまして!アンリ・カルデア・ケラヴィノスと申します!よろしくお願いします!」
元気に挨拶すると、彼が帝都のカルデア家別邸へ案内してくれると言う。
「アンリ、俺の事はルーと呼んでくれ。」
赤い髪の騎士さんはルーさんと言うそうだ。
なんでも彼はアルブレヒトさんの学生時代の同級生なのだそうで、大渓谷でも一緒に従軍したらしい。
今でも仲良く連んでいるそうで、新しい弟のオレを気遣って初めて訪れた帝都の観光案内をしてくれるそうだ。
ルーさんからは頼れる兄貴感が滲み出ている。
アルブレヒトさんと同級生ならオレの四つ上だろうか。
かっこいいなぁ、凄く大人って感じがする。
しかもケーブルカー的な物にも乗せてくれた!
これは魔石を動力に運行している魔道具なのだそうだ。
坂道もスイスイ登って行くんだから凄いよな。
この魔道車に乗ってるだけで楽しい!
「アンリ、帝都はどうだ?」
「すっごい発展してます。想像以上に!」
オレの答えを聞いたルーさんは緩く笑うと、それでもまだまだ足りない所が有ると言っていた。
もう十分だと思うけどなぁ。
だが、中心街に近付くにつれ、オレは感じ取ってしまう。
帝都は瘴気と怨嗟を生産している場所でもあるという事を。
少し澱みを感じてしまうが、ユヴァーリの大渓谷側の森に比べたら薄い薄い。
そう思い、気にも留めずに都会の景色を楽しむ。
「瘴気の常時浄化か・・・本当に規格外のやつだな・・・」
ルーさんはボソッと何かを呟いたが、肩の上ではしゃぐプッチ君とカルコス君と一緒に魔道車と街の景色に夢中になってしまい聞き取れなかった。
「どうかしましたか?」
「旨い飯屋がこの先にあるが寄って行くか?」
どうやら帝都の食事処へ連れて行ってくれるらしい。
小腹が空いていたオレは是非にとお願いした。
***
別邸に到着すると、これまた豪華で驚く。
しかもここから宮殿が見えるよ!でけえ!
「あらやだ、ルートヴィヒがアンリを迎えに行ったの?」
出迎えてくれたヒルデガルドさんと、ヴィルヘルミナさんはルーさんをそう呼んだ。
おい、待ってくれ・・・
じゃあこの人が序列第一位の皇子なのか!?
「ははは、すまんなアンリ。私は仕事があって迎えを友人に頼んでしまった。」
アルブレヒトさぁん!そんな事をさらっと第一位の皇子に頼まないでください!
「改めて観光してみると結構楽しかったぞ。なぁ、アンリ。」
「はい、とても楽しかったです!」
楽しかったのは事実。
定食屋さんも美味しかったしな。
「そうでした。お土産を持たされているのですが結構大きいのです。どちらにお持ちすれば良いですか?」
オレの言葉に直ぐさま従者達を呼ぶと、このエントラスで出してくれて構わないと言われたので、お土産の内容を説明しつつマジックストレージから取り出していく。
「そしてこちらがカルデアの新たな銘菓、チョコレートとマカロンです。後はオレからなのですが、魔女領のお土産も有ります。」
それらを見ると、わっと歓声が上がりお茶にしようとサロンへ誘われた。
他のお土産は分類分けされ従者さん達の手によって運ばれていった。
サロンに向かう途中、菓子に会う茶を聞かれたので、迷わずコーヒーだと伝えるとしっかりコーヒーが用意されていた。
「では、アンリの結婚を祝いましょう!」
ヒルデガルドさんはそう言うと、ここでもまた祝いの言葉をもらった。魔導師の称号もついでに祝われ、ユヴァーリでの出来事等も聞かれたが、ルーさんがこの後先帝が晩餐に来るので、土産話は取って置いてあげようと言っていた。
お祖父様来るのか!会うのが楽しみだ。
「大丈夫、アンリの事情は家族皆が知ってるわ。遠慮しないでゆっくり滞在していってね。」
ヴィルヘルミナさんはルーさんも事情を知っているので、皇子称号の返上を手伝ってくれると言っていた。
ありがたやありがたや!
「お、これは凄いな。口の中で直ぐ溶ける。」
ルーさんが優雅にチョコレートを食べ始めると、食感も味も好みで、特に砕いたアーモンド入りとギモーブチョコが美味しいと感想をくれた。
「本当、コーヒーに良く合うわね。」
「ナッツでもフルーツでも、何にでも合うとは。しかもミルクの風味が良い。これはカルデアの銘菓に相応しいな。」
試食会的な物になりつつ、オレが渡したチョコレートケーキを侍女さん達が切り分けて運んでくる。
勿論焼いたのはパルティア城の厨房の菓子職人さんだ。
彼も食品管理室に移動になるそうで、製品開発チームに入ったそうだ。
このカルデアンクリームを使用したチョコレートのケーキは僅かにブランデーが香る大人の味だ。
オレも試食したがめちゃくちゃ美味かった。
やはり本職に任せると凄く良い物が出来上がるよな。
「これは・・・来るわね。」
「ええ、これはとんでもない代物だわ。」
母娘が何やらうんうん唸っていると、急に執事さんを呼び、帝都に店を出す為だと言って指示を出し始めた。
「良い場所をお願い。それと、アンリ。皇帝陛下に献上するお土産は持ってきているの?」
「チョコレートは元々オレの求婚の課題なので、その報告とも合わせて献上用にショコラアソートという贈答包装された物を持ってきています。」
確認用に持参した幾つかの化粧箱入りの詰め合わせを見せると、どれも合格をもらえた。
それを見たヴィルヘルミナさんは、よし!と言うと、ニンマリ笑ってうんうん頷いていた。
前に会った時も思ったが、妙に仕草が漢らしいんだよなぁ。
「陛下用に特別に作った物はあるかい?」
「はい。花の精霊さんに頼まれて品種改良した、イチゴと言う果実をピューレ状にした物を詰めたチョコレートを用意してあります。」
花の精霊と言う言葉に、微妙な空気が流れてしまった。
叔父上が連絡をしていたのか、ああ、例のやつね・・・と皆が遠い目をしていた。
因みに先帝であるお祖父様には、お酒が好物と聞いていたので魔女領のエールとブランデーを持ってきている。
リューシャの祖母である水明の魔女ミカエラさんの領地アクアルーチェで作られた物だが、流通していないためとても希少なのだそうだ。
結婚祝いにもらった物だが、頂いた時にご家族にもどうぞと言われたので、家族皆とお祖父様にお裾分けだ。
ユヴァーリからカルデアに戻る際、お土産を持ってきてくれたミカエラさんやマイヨーラさんに精霊術を見たいとせがまれたので、お土産のエールには炭酸強化。ブランデーには回復効果が付与されている。
そして体内浄化が時限式で発動すると言う謎の効果が付与されている事をセシリアちゃんが魔眼で見抜くと、デトックス酒と言って皆が次々にお酒を持って集まってきたのは笑った。
そして、フェンリルのポーさんに出立前に渡された、皇帝陛下に宛てた大魔女様からの手紙もある。
これは実際にお会いした時に渡す様言い付けられていた。
大魔女様からのお使いミッションだ。
だがどうやって渡そう。チョコと一緒に渡しても大丈夫かな?
***
その日の夜の晩餐にお祖父様が訪れ、ご挨拶するやいなやがっしりと抱き締められた。
やっぱりここでもテレシア母さんに似ていると言われ、やっと会えて嬉しいと涙ながら言われた。
逢えた嬉しさにオレも涙ぐんでしまい声が震えてしまうが、それを聞いても皆温かく見守ってくれていた。
そんな中、お祖父様の護衛?従者?どちらかは分からないがフードを被ったお付きの人もグスグス言いながらもらい泣きしていた。
「何をやっているのですか陛下!」
ルーさんの声で、グスグス言ってた人の正体が割れた・・・
本当に何やってるんだろうこんな所で。
肖像を見た事があるだけのオレにもよくわかる。
あの威厳に満ちたお顔が台無しである。
そして、今日の護衛騎士の中にはサーシャさんと三騎士の一人、スヴェン・ファルケンマイヤー卿も一緒に来ていた!
流石先帝&皇帝!護衛も超豪華!
因みにもう一人の三騎士であるオルセン卿は、護衛決めジャンケンで負け、宰相と共に宮廷でお留守番だそうだ。
改めて皆とご挨拶をするが、今日は先帝のお付きの従者役なので堅苦しい挨拶はやめてほしいとか言っていた。
そして今日のメニューは、オレがお土産として預かって来た食材も並んでいる。
アボカドと海老のサラダは料理長のレシピでしっかりと再現されていた。
デザートには魔女領土産の苺とセストで購入した南国フルーツが美しく装飾されて出てきて、流石帝都の料理人!と感動したが、こちらでは料理の見た目がかなり重要視されているのだと言う。
因みにカルデアでは味と食べやすさが重要視され、料理に華美な装飾は好まれない。
装飾に力を入れるのは催事があった時だけだ。
まぁ、研究者や行政官が多いからね、しょうがないね。
そして食後サロンに移動して、皆でお酒やお茶を楽しむ。
「お祖父様、こちらはユヴァーリのお土産です。」
エールとブランデーが納められているアイテムケースを渡すと、アクアルーチェのお酒は久しぶりだと言ってとても懐かしそうにしていた。
つられて皇帝陛下が、余にはないのかとか言い出したので、明日の謁見の時に持っていく予定だったとお話しすると、それならば明日で良いと諦めてくれた。
だが、ここがミッションチャンスだと感じたオレは、大魔女様からのお手紙を渡す事にした。
「イリーナ様からの、手紙!」
そう言うと陛下は直ぐに客室を借りたいと言い出した。
急な申し出に、この別邸の主であるヒルデガルドさんが快く了承し手配すると、今にもスキップしそうな勢いで護衛を引き連れ客室に移動した。
「誰かさんが早く帝位を引き継いでやれば、あやつも大魔女様の所に行けるんだがの。」
お祖父様の言葉に、ルーさんはもうちょいっとだけ待って下さいと軽く返事をしていた。
「もしやヴィルヘルム様も領地にお帰りになりたいのですか?」
「いや、儂はお前の尻を拭うために継承後もしばらく帝都におるよ。」
二人はガハハと豪快に笑う。
話の内容から察するに、帝国の継承争いもほぼ確定している様な気がした。
「ルートヴィヒ、そしてアルブレヒト。お主らもアンリを見習って早く身を固めよ。」
「ははは!これは痛い所をお突きになりますね!」
婚約者は居るが、ルーさんは継承後に正式に結婚すると言い、アルブレヒトさんは2回目の婚約破棄をしたばかりだと言う。
オレはコーヒーを吹き出しそうになるが、何とか堪える。
その様子を見ていたヴィルヘルミナさんがアルブレヒトさんは女性運が悪いのだと冗談っぽく教えてくれた。
一人目は何の功績も持たない上、酷い散財癖があったそうで、二人目は第三位の皇子の婚約者の立場を利用しオルセン卿に自分に剣を捧げろとしつこく言い寄っていたそうな。
それでも順位が下がらない辺りアルブレヒトさんは凄いと思って居たのだが、ルーさんの為に適度な功績相殺を行なっていただけだと知った。
一見まともそうだが中身は危険な女性に敢えて婚約を申し込んでいたらしい。
そうやって自分の順位管理をしっかり行いながら宰相を目指しているのだそうだが、今後妻を持つ事は無いと断言していた。
帝国の継承争いと役職争いはマジで半端無いね。
「ではやはりカルデアを継ぐのはヨアヒムか。あやつにも早く身を固めてもらわねばならんな。」
お祖父様の矛先がヨアヒムさんに向いていた。
領地経営が上手いのでいずれ大公領を担うに相応しいとオレも思うし、精霊研究家の叔父上から農作物と植物の研究家のヨアヒムさんに代替わりするだけだ。
あんまり変わらないよね。
おや、そんなヨアヒムさんの従者になったイグナーツ君はまた胃を痛める役回りかな?
まあ、彼はとても優秀だから大丈夫だろ!
オレと言う予定めちゃくちゃな主人に使えてくれて、しっかり行動管理もしてくれたんだ。
それに比べたらヨアヒムさんは良い主人だろう。
ちょっと時間を忘れがちだけど、研究熱心なだけだしね。
そうこうしていると、フリードリヒ陛下が戻ってきた。
そしてニッコニコの笑顔で、ルーさんに言う。
「余は遂に許しを得たぞ!さあ、ルートヴィヒ!今すぐ帝位を継承してしまおうではないか!」
とんでも無い発言をしつつ、オレの方に突進してくる陛下。
「今回の件はお前のお陰でもある。でかしたぞ!」
そう言って何故か肩をバッシンバッシン叩かれた。
一体何が起こったのだろうと困惑していると、説明が始まった。
手紙には、帝位を次代に譲って手伝いに来いと書かれていたそうだ。
そして、新たな理論を組み込んだ魔術結界を開発したのでこれから全交換作業が始まるのだそうだ。
そう言えば、大魔女様のお城でクラウスさんが案内してくれた時にそんな話を聞いたような気がする。
しかもその時、夫候補の小僧がどうのこうのと言っていたので、それが皇帝陛下の事だったのだろうか?
大魔女様はいつも忙しそうで、クラウスさんもケットシーの手も借りたい位だと言っていたなぁ。
「精霊の帰還という類稀な慶事があったという事もあり、天意の魔女はこの機を逃すべきでは無いと言う。」
つまり、オレが大渓谷から帰ったら精霊の守護もといお願い聞く係を任せられるから、大魔女様ご夫妻一同で帝国全土の結界の交換作業が出来ると言う事だった。
良い事が起こったら、更に良い事を重ねる。
瘴気や怨嗟の浄化にもってこいな発想だが、今から代替わりしたとしてオレの従軍期間は最短2ヶ月、最長で半年だ。
引き継ぎ間に合うのかな。
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