34.決闘のお申し込み
昼食後は今日も森へ行って浄化の手伝いだ。
オレとリューシャはソーラメテオール側、イリアさんとエマヌエルさんはゴルトヴィーゼ側を浄化する。
今日は昨日より大分瘴気が少なくなっていた様で、リューシャは片手間に魔物討伐しつつ苺をつまみ食いしていた。
オレは昨日習った雷魔術をどんどん打ち込む。
何だか本当に作業なのだなと思いながら、次は浄化用に自分で考えてみた電撃を周囲に放つ。
クレモナの森で放った物より高威力で、なおかつ精霊術の混合だ。
イチローさんが見たらピッカーと言わされそうな魔術だが、結構効果が高かった。
そして、サーシャさんからアドバイスを貰った必殺技を使い、魔物達と対峙する。
スルスルと斬れる上、オレ自身の動きも良くなっているのが分かる。
今ならホーンラビット狩れそう!
魔物を討伐していると、まるで森で冒険しているような気分だった。
あの嫌な重たい感覚も今日は少ない。慣れればきっとここで討伐や浄化業務をして行く事が出来るだろう。
魔導騎士とカフェ。
魔女領でなら、この目標二つを両立出来る様な気がして来た。
ただ、浄化が主な目的なので素材回収は無く、魔石ごとサラサラと消えてしまい、勿体ない気がする。
魔物が減り、瘴気が大分薄まった。
リューシャが仕上げとばかりに広域浄化を行うが、イリアさんの術効範囲を超えていた。
セシリアちゃんが魔力馬鹿と言うのもよく分かる気がした。
「さーて、アンリくんはこのイチゴで何を作ってくれるのかな?」
リューシャがそう言うと、どこからかキラキラと光の粒子が舞い出した。
昨日の花の妖精さんが、今日もまた来た様だ。
『ケラヴィノスはこの子達をもっと美味しくするの?』
「お花の精霊さん、いらっしゃい。」
『ねぇ、星降。これをケラヴィノスがもっと美味しくするの?』
リューシャが二人いる様な感覚なんだが・・・
食いしん坊選手権でも始まったのかこれ。
そんな事を考えていると、二人からどんな風に美味しくするのか聞かれた。
「そのままでも十分美味しいけど、チョコレートにするのも良いし、ジャムも美味いぞ。」
二人とも瞳を輝かせて聞いている。
そして花の精霊さんからはより一層キラキラ粒子が溢れ出しており、その浄化効率はとんでもない物だった。
「そう言えば、前世でオレが死ぬ前はフルーツ飴が流行っていたから、イチゴ飴も良いかもしれないな。」
オレは葡萄飴派だけどな。
「今作れないの?」
『そうよ。浄化も済んでるし今すぐ作って!』
食いしん坊二人が詰め寄ってくる。
ただ、材料が無い。
いや、一つあったな。
「ちょっと実験になるから、少し待っていてくれ。」
二人はそわそわした様子でこちらを見ている。
じっと見るなよ、緊張するだろ!
イチゴを摘むとマジックストレージから野営グッズの小皿を取り出す。
水魔石で洗った後にヘタを取って半分に切って行く。
そして精霊術での置換で水分を急速に奪う。
苺水的な物ができるかと思ったが、ただの水だった。
フリーズドライでも良かったが工程が面倒だ。結果同じ物が出来るなら楽な方が良いだろう。
水分が抜けて軽くなった苺に、火魔石を使いホワイトチョコを溶かす。
魔力操作で物体を操作する事を覚えて良かった。
上手くコーティング出来たので、フェリクスさんのあの繊細な魔力操作を思い出しながらホワイトチョコから均一に熱を奪う。
置換先はさっき奪った水だ。温いお湯が出来たよ・・・
でもな、精霊術めっちゃ便利だぞ!
「さあ、出来たぞ。」
そう言って二人に手渡すと勢いよく口の中に放り込んでサクサクと良い音を立て始めた。
『おいしいじゃない!もっとちょうだい!』
「サクサクしてて甘酸っぱい!クリーミーな白いチョコレートとすごく合うよ!私もおかわりほしい!」
カルデアンクリーム使用した物じゃ無くてよかった・・・
『水をとっただけなのに、さくさくして味が濃くなって美味しいのね。』
花の精霊さんがチョココーティング前の苺を食べ出してしまうと、つられてリューシャも食べ出した。
せっかく作ったのに!この食いしん坊どもめ!
しばらくすると、花の精霊さんも苺を乾燥させていた。
流石本物の精霊さんだな。手際が良い。
そしてオレは、ドライ苺にホワイトチョコをコーティングするだけになった。
結局ホワイトチョコの在庫が尽きてしまい、残りはカルデアンクリーム使用のものだけになってしまった。
『この白い脂も美味しいわね。』
「これはアンリくんの夫課題で、チョコレートって言うんだよ。でも、もっと美味しい白いのもある筈なんだよ。」
リューシャが得意げに精霊さんに言って、そのせいで結局在庫がバレてしまった。
渋々カルデアンクリーム入りのホワイトチョコレートを差し出すと、二人とも喜んで完食していた。
そして精霊さんは、求婚の品を分けてもらったお礼と言って何か願い事は無いかと聞いてきた。
「精霊術の詠唱文を教えてほしい。」
『そんな事で良いの!?』
仲間なのだから、それくらい何時でも教えると言っていた。
彼らから見たらオレは、異界から帰ってきた扱いなのだそうだ。
そしてオレの魂に溶け混ざった精霊さんは、雷の精霊だった事を知る。
オレの姓は、雷属性で農業で栄えるカルデアにとってとても縁起が良いと言う理由で付けられたもので、ケラヴィノスには雷鳴と言う意味があるそうだ。
偶然だろうか必然だろうか。
雷の精霊さんもケラヴィノスと言う名だったそうだ。
ベルトルッチさんは自我はオレのものと言っていたが、そもそもオレ自身が精霊さんと混ざっている。
きっと、二人合わせてオレなのだろう。
前世でも運が良くなり始めた頃から、メンタルも強くなった様な気がする。
何となくだが、精霊さん達に会うと妙な懐かしさを感じていたのも確かだしな。
因みに花の精霊さんはルルディと言う名前だそうで、それを聞いたリューシャは驚いていた。
「精霊さん!お名前は簡単に言っちゃダメだよ!」
『いいの。私ここに住む事にしたから。』
ここに住んで、固着化と言う状態になるそうだ。
なので地主には名を明かし、祝福と加護を授け守護の契約が行われる。
この契約を沢山してしまったのが大魔女様だそうだ。
しかも未契約の精霊の頼み事も聞いてしまうそうで
、断らず全部了承してしまう辺り大魔女様って面倒見が良いのだなと思ってしまう。
『ケラヴィノスは自分の加護と祝福があるけど、星降は持ってないでしょう?』
「うん。そしたらソーラメテオールの住人第一号は精霊さんになるね。」
それはまた規格外の土地ですね・・・
『星降は領地にどんな加護が欲しいの?』
「油の取れるお花と、果物がいっぱい育つ様になったら嬉しいかな。」
そのリューシャらしい反応に、精霊さんはお安い御用だと言って、直ぐにリューシャと契約し始めた。
契約すれば、活動領域は森とソーラメテオールだけになる。
それでもここに住みたいと言う精霊さんは、チョコレートをとても気に入った様で、ここに居ればまた美味しいものに出会える予感がするのだと言っていた。
「わぁ、これが精霊の加護!」
早速効果を体感したらしいリューシャは、精霊さんの為に屋敷の周りで花を沢山育てるのだと言っていた。
良い休息場になるらしい。
「ルルちゃん、カフェの近くにもお花沢山用意しておくからね。」
『かふぇ?』
「美味しい物をいっぱい作るための、アンリくんの魔術工房だよ。楽しみだね〜!」
『まぁ!この土地と契約したのが大当たり!流石私!』
食いしん坊が意気投合した様だ。
精霊達が固着化した領地は、何もせずとも浄化率が上がるそうで、とても便利な存在に思える。
だが、色々と要求される事も多いそうなので、扱いが難しいそうだ。
そして飽きてしまえば、土地を去る事も多い。
人間と精霊の寿命も違う。契約した相手が死んだ場合、土地から離れることが多い。
魔女領ならあまり影響は無いが、恵みを失った人間の領地はその後大変な事になってしまう事もあるそうだ。
「大渓谷から帰ってからだぞ。」
「わかってるよ。でも、パパッと片付けて早く帰ってきてね。」
『そうよ!アンタは精霊なんだからそんなものさっさと片付けて、かふぇで美味しい物を生み出しなさいよ!』
美しい魔女、美しい精霊。
誰もが羨む光景だろうなぁ・・・
会話の内容さえ知らなければな!
***
浄化を終えてイリアさんの家に戻ると、ルシエル先輩が仁王立ちでオレ達を待っていた。
「納得がいかぬ!なぜ貴様がリューシャの夫になれたと言うのだ!」
そして、ルシエル先輩は自分の方が強いと言い張った。そして・・・
「決闘を申し込む!!」
とか言い出した。
何てこったい。と思いつつ、決闘とかワクワクする。
作法を剣技訓練校で習ったオレは、無縁だとは思っていたがちょっとだけ憧れていた。
「ルシエル、アンリくんとは戦っちゃダメだよ。」
リューシャは止めたが、ルシエル先輩が豪快に手袋を投げつけてきたので、オレはうきうきしながらそれを拾う。
「木剣何本要ります?盾必要ですか?」
わくわくしているオレを見たリューシャが溜息をついたのが分かったが、ルシエル先輩もノリノリで木剣と盾を希望してきた。
「もう、面倒臭いなぁ。10秒だけだからね!」
リューシャのお許しも頂いたので、いざ打ち合いだ。
よく見ると、ルシエル先輩の身体強化はかなり強力で木剣と盾が保つか不安なくらいだった。
だが、受ける一撃が弱い。
サーシャさんの様な、腕が痺れる様な打撃はない。
「そんなに振り上げたら、隙ができちゃいますよ。」
ついアドバイスしてしまうが、もしかしてルシエル先輩は・・・弱いのか?
だからリューシャは止めたんだろうか。
「何故当たらぬ!これではまるでノーヴァ卿の様ではないか!!」
オレの胸を撃ち貫く一言を放って来た。
サーシャさんからはほんの少し教えを受けただけなのに、似ていると言われて歓喜して、うっかり祝福を撒き散らしてしまった。
わっさりツヤツヤと生える草花を見たルシエル先輩は唖然とした表情で動きを止めてしまった。
「はい10秒!このままじゃ家の前が草だらけになっちゃう!」
リューシャがわっさり生えた草花を元の大きさに戻していた。
不思議現象過ぎる!何だそれ!
「ま、まるで精霊様のようではないか・・・」
「アンリくんは大精霊の加護?えっと、なんかそんな感じのアレなんだよ。」
機密保持の為にしただろう言葉が曖昧すぎる。
「成程、そうであったか・・・それであの強さと言う訳か。」
あっさり納得していた・・・
純粋な人だなぁ。
さっきの言葉も嬉しかったし決闘ごっこも楽しかったので、オレは割とこの人に好感を持ち始めていた。
「一応オレの課題です。良かったらどうぞ。」
そう言ってフェリクスさんも気に入っていたオランジェットと、オレの好物アーモンド入りビターチョコレートを手渡す。
「ルシエルばっかりずるい!」
勿論リューシャにも渡した、というか奪われた。
オレのおやつ・・・
「な、何と言う美味・・・っ!」
ルシエル先輩も美味しそうに食べてくれた。
やはり美味しいと言ってもらえるのは嬉しいなぁ。
そしてチョコレートを堪能した後、何故か普通に帰って行った。
「リューシャは何でルシエル先輩を夫にしたくないんだ?」
「ルシエルは弟みたいなものだし、私に有益そうな成果なんて何もないんだよ?それにね、めんどくさいし夫なんて無理だよ。」
面倒臭い弟・・・
年上にそれは言わないでやってくれ。
可哀想過ぎる。
「研究や成果は、しょうがないな。」
「そんな事よりアンリくん。まだ私に隠してる味のチョコレートあるんじゃないの?」
結局、残りのチョコレートは全て放出させられた。
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