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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
カルデア大公領と魔女の課題
35/64

33.新居の準備


 ソーラメテオールから帰ると、やっぱりオレはイチローさんの部屋だった。

 夫(仮)だからね、しょうがないね。


「それにしても、瘴気や怨嗟にのまれずに済んでよかったよ。あの感覚は言葉で説明しようがないからね。」


 イチローさんはそう言うと、ホットワインを手渡してくれた。


「大渓谷は世界の浄化装置だったんですね。精霊の目で確認した一定域の大まかな量からマズナーガ式を逆算して、おおよその世界の数がわかりました。」

「随分使いこなせるようになったんだね。」


 嬉しそうに頷いて居るが、苺の件や南国フルーツの件も喜んでくれていた。


「イチローさん、オレも貴方のようにこの世界に何か貢献出来ないかと思っています。」


 彼は様々な改革を齎し、この世界をより豊かにして来た。


「僕も最初は異界からの瘴気と怨嗟の流入を知って落ち込んだんだ。そして、僕の世界にも浄化装置だったであろう物があってね。」


 彼の世界に定期的に現れる魔王という存在。

 今思えば、浄化システムの一部だったのではないかとイチローさんは語っていた。

 それでも循環率は悪くてこの世界に少なからず流入しているとも言っていた。


「人が魔王となる理由はずっと分からなかったし、きっとあの世界では今も知らないままだろう。」


 流出量を計算出来ないせいで、変換式も無い世界だと言う。

 ただ、彼の世界の境師と呼ばれる希少な魔術師の扱う術が、今となってはより正解に近かったのではないかと考えているそうだ。


 魔法のなくなった世界出身者としては内容が全く分からないけどな!


「最初は僕も瘴気や怨嗟を少なくしようと頑張ったんだ。でも、この世界の仕組みを思うとこれ以上は必要無いのではと感じる事もあるんだ。」


「オレの世界は循環不全を起こしていました。だから多く流出もしているんです。何かしなければと思って、居ても経っても居られなくなってしまうんです。」


 そう言うとオレの背中を宥める様に撫でながら、諭す様に彼は言った。


「ある程度の危機が無ければ立ち行かない世界もあるんだ。大渓谷のお陰で維持できる平和もあるんだよ。」


 そして、神々の定めたルールブックである聖書に、なぜ大渓谷を人の業を以って鎮めよと書いてあるのかを教えてくれた。

 このままではいずれ魔女の力を当てにしすぎて、人間達は脅威から目を逸らす様になり、その後は人同士で争いを始める。

 そうすれば魔女達では浄化しきれないほどの瘴気や怨嗟が生まれてしまうのだそうだ。

 それでは天空の女神さえも世界から失われてしまうと言う危惧から、神々はルールブックを人間に与えたそうだ。


 あーもう、オレ達人間って結局いつもこうだよなぁ。

 神様達の未来予測はほぼ正確だとオレも思う・・・


「それにね、今日の瘴気と怨嗟を見たろう?ユヴァーリの森は、大渓谷よりもその量が多いんだ。」


 結界に施された魔法陣による誘導で、魔素以外をこちら側に多く来る様に設定されているのだそうだ。


「それって、良いんですかね・・・」

「大魔女と皇帝、そして神々が決めた事だからしょうがない。そしてそれを祓う力量も魔女達には十分ある。」


 この話を聞いて色々とわからなくなって来た。

 だが、それでも温かく迎え入れてくれた人たちには恩を返したい。


「アンリ君はチョコレートを作ったしコーラも作ってくれただろう?美味しいはらこ飯も食べれたし、森には南国フルーツや苺だ。十分過ぎるほど君は良くしてくれているよ。」


 そう言われてしまい、照れながらも思い付いた事があった。


「リューシャにも美味しいご飯やおやつを作って欲しいと言われています。そしてこれから皆に食べて欲しいものがまだ沢山あります。」


 エマヌエルさんの料理の腕前には敵わないかも知れない。

 でも、美味しいと言ってもらえるのがとても嬉しかった。この感情はきっと怨嗟や瘴気とは逆の物を生み出している筈だ。


「イチローさん、魔女領には食事処やカフェなんかは有りますか?」

「全く無いよ。アレニロークまで行かないと外食は出来ないかな。」


 ならば決まりだ。


「オレの目標はソーラメテオールで小洒落たカフェを営む事にします!」


 そう言うとイチローさんは呆気に取られた様な顔をした後、笑い出した。


「リューシャの魔女領、ソーラメテオールにぴったり過ぎて、これは本当に良い目標だね!」


 そう言いながらもしばらく嬉しそうに笑い続けていた。


 そして、リューシャがさっき言っていた、大容量転移陣の開発は、美味しい食べ物を沢山取り寄せる為だと言う事を聞いてしまった。

 お取り寄せグルメか・・・


 やっぱ食いモンじゃねーか!

 オレの感心を返して!


「君程リューシャの夫に相応しい人間は居ないだろうね。」

「・・・異世界の料理知識やお菓子の知識が一般成人男性より多いですからね・・・。」


 その魔女にとって有用な功績か・・・

 どう考えてもやっぱりオレ食事係!

 

「たまにはエマに楽させたいし、食事も出来るとありがたいな。」

「勿論です。料理の腕前はエマヌエルさんには届きませんが、そこそこの物は作れると思うんです。」


「スターボカフェみたいなメニューも欲しいね。」


 恐らくはセイレーンマークのあそこかな?

 相変わらずネーミングが微妙に違う。


「季節のフラッペドリンクとかですね、分かります。」

「まぁ、季節感ない森になってるけどね。」


 精霊さん達の希望により季節感も土地感も全く無い果物祭り状態になっている。


「報告作業も挨拶も終わった事だし、明日からはリューシャの屋敷の調度品の手配かな?」

「そうなりますね・・・」


「ならば明日、屋敷を少し改造してしまうのはどうだい?」


 イチローさんは大渓谷に行く前にカフェ用の建物も併設させてしまえば良いと言い出した。

 話を聞けば、最初の屋敷は両親や祖父母がプレゼントするらしいが、建てると言うより魔術で作る物らしい。

 そして、工房などを併設したり夫や妻のための部屋をどんどん作っては繋げていく。

 このファンタジックなイリアさんのお家もそうやって出来たそうだ。


「アンリ君の工房はカフェ、と言う事になるね。」


 そう言ってまた笑い出したので、オレもつられて笑ってしまった。


「パルティア城にあるオレの魔術工房は既に菓子工房ですよ。」


 あっちもこっちも結局食べ物工房になってしまった・・・。


 明後日にはカルデアに一度戻り従軍の準備を始めなければならない。

 屋敷の準備間に合うだろうか?!




***


 次の日の朝、朝食の後直ぐサーシャさんが出立した。

 イリアさんやエマヌエルさんが沢山お土産を渡していた。

 オレも、サーシャさんの為に朝食用のブリヌイを焼きながら精霊術をかけた。セシリアちゃん曰く体力回復12時間と言う中々良い効果が付与された様だった。

 まぁ皆の分全てに付与されてしまったので今日は元気に働けると喜んでくれていた・・・加減が出来ず申し訳ない!


「さてリューシャ。屋敷に必要な物はあるか?」

「ご飯とおやつ!」


・・・聞いても無駄でしたね、すみません。


「調度品はオレが選ぶけどいいか?」

「うん、それはお任せするよ。」


 予想通り、あっさり丸投げして来た。


「それからオレの工房についてなんだが・・・」


 昨晩イチローさんに話したオレの目標をリューシャにも告げると、イチローさんの数十倍嬉しそうにはしゃいでオレに抱きついて来るほどの喜び様だった。

 しかも今すぐ屋敷の拡張をしたいと言い始め、ソーラメテオールへ連れて行かれてしまった。


 調度品もまだなのにな・・・

 しかも、急いで急いで!と言うリューシャは箒に乗り、ブランシェさんの最速を再び体感する事になってしまった。

 結界があっても怖いんだよ!


 着いて早々、リューシャはオレのお気に入りであったウッドデッキ付近にどどーんとカフェ(工房)を制作していく。


「ああ、オレのウッドデッキが・・!」

「あれそんなに気に入っていたの?しょうがないなぁ。」


 リューシャはそう言って、いとも容易くカフェの入り口を上げ、広いウッドデッキを設置していく。

 木が急に生え出し、ウネウネと形を変える姿はとても不思議な光景だった。


「この魔術って何の属性なんだ?」

「これは水土複合とそっちの木の根から闇属性の魅了で分離させて作ったよ。」


「なるほどわからん。」

「アンリ君だって精霊術で作れるでしょ?」

「いや、オレがやっても木がつやつやになるだけだと思う。精霊術は特殊詠唱が有るっぽくてな・・・」


「特殊詠唱?そんなの有るの?」

「前世の知識で原理がおおよそ分かっていれば、無詠唱でイメージだけで発動するものもあるんだが、自分に知識がない場合、イメージと詠唱が必要だと分かったんだ。」


「あらら、それじゃ精霊さんに詠唱魔術聞かなきゃいけないね。でもアンリ君、たまによく分からないで祝福かけちゃう事あるよね?あれは何でだろう。」


 うーんと言いながらまた長い考察タイムに入ってしまった。

 こうなると長い事は経験則でわかって来たので、オレはブランシェさんを肩に乗せたまま調度品を用意する為に屋敷内の寸法を図る事にした。


「状態保存の魔術と拮抗してるのか上手く計測器を作動させられん・・・」


 オレは魔道具を諦め、どんな色柄の物を置こうかだけ考え始める。

 このリビングは高原リゾート風にしたいな。

 あと、恐らくはオレの縄張りとなってしまうだろう台所もチェックしておこう。


 屋敷の中を見て回ると、明らかに誰が考えたのか分かる風呂場があった。


「温泉風の浴室・・・広すぎて掃除がめっちゃ大変そうだ・・・」


 オレがそう呟くと、ブランシェさんはそんな時こそ浄化魔術だと教えてくれた。


「まだ術式が曖昧で、魔法陣と単純魔力で足りますかね?」

「精霊さんも浄化魔術が使える筈ですよ。むしろ彼らは得意でしょう。聞いてみてはいかがですか?」


「今日の午後の浄化のお手伝いで精霊さんに会えたら聞いてみます・・・」


 まともな詠唱であります様に!


 その後再び工房もといカフェへ戻るとリューシャはウッドデッキに丸テーブルや椅子を作っては設置していた。考察モードはとっくに終わっていたらしい。


「あ、おかえり。お家の中どうだった?」

「魔道具を上手く作動させられなかったよ。」


 そう言ったら細かい設計書があるそうで、それを見ればいいと言われてしまう。

 ぐぬぅ・・・なんという無駄骨!


「それにしても良いな、このテーブル。」

「いいでしょう!ここでご飯を食べたら美味しそうだよね!でもここは日差しが強いからパラソル欲しいね。」


 そう言ってリューシャは材料を揃え始めた。


「リューシャ、布地じゃなくてクラルハイトで作れば雨の時も大丈夫じゃないか?」

「雨なら物理結界でいいよ。」


 広範囲物理結界ぃ・・・高度だなぁ!

 オレはせいぜい自分を囲う位しか出来ないと言うのに!


「分厚くて良い布地をセストで買ったんだよ。ここに使おうよ!」


 そう言えば布も大量買したと言っていたな。

 結構お高そうだったが魔女は結構お金持ちだよな。

 あれ?これって玉の輿か?


「パラソルの骨組材料はクラルハイトにしよう!加工楽だしね。」


 それにはオレも同意だが、透明で少し味気ない。


「アンリ君、クラルハイトに私が貰ったペンダントみたいにこのキラキラした金の粉入れられないかな?」


「置換でなら入るぞ。ただ、凄い豪華なパラソルになるな。」

「可愛かったらそれで良いの。」


 結局白い金粉入のキラキラパラソルが完成した。

 クラルハイトの硬化もラファエラ先生に習っていたお陰で上手く出来た。


「クラルハイトシートをテーブルに敷いておこう。」


 そう言って薄く伸ばして行くと、イチローさんも良くこれを作っていると教えてくれた。

 ビニールシート便利だからね。





こちらの作品はpixivにも投稿しております

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