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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
カルデア大公領と魔女の課題
31/64

29.コーラと異世界人



 夕食を取り終わると、伯父さん達が帰って行く。

 だがサーシャさんは、休暇がまだ残ってるそうなので今日は泊まっていくとの事だった。

 しかも明日稽古をつけてくれると言う。

 何という幸運!


 そしてオレの今の状況は、リューシャの第一夫(仮)。


 何故仮の状態なのかと言えば、皇位継承権の問題が有ったからだった。

 これを返上するには手続きがいるし、返上するには大渓谷への従軍後と言う規定もある。


 大精霊さんは皇帝ダメ絶対と言っていたので、返上の準備はしているが、それも戦役から戻ってからになる。


 幸いな事に、オレにはヨアヒムさんがいてくれるので領地の問題と爵位の問題は考えなくてもいいと言われていた。

 ヨアヒムさん曰く皇子称号は剥奪が一番楽で良いそうだが、正規の手続きを踏んでしっかり申請しようと言うことになった。

 そう言う事で(仮)が取れるのも、黒の大渓谷でお務めを果たしてから、と言う事になった。


「では皆さん。我々の故郷の懐かしの味、コーラです。」


 このコーラは、コラの実によってカフェイン入りとなっている。

 夕食後の一時に出しても良いものかとは思ったが、イチローさんが急かしてくるので、ここでお披露目になってしまった。


 黒い飲み物はコーヒーで慣れているこの国ではあるが、この強炭酸に順応出来るかは不明である。

 とりあえず台所を借りて、小さめのコップに作った物を振る舞う。


「ぷはぁあ!

 これだ!この味と香り!ありがとうアンリ君!!」


 迷わずイチローさんが飲み干してお礼を言ってくれたが、他の皆は不安そうな顔をしている。

 リューシャすらなかなか手をつけないのはこの匂いのせいだろうか。


「あれ?これ意外と美味しいですね。」

 そんな中、セシリアちゃんが挑戦してくれると、ようやく皆次々飲み始めた。

「何となく癖になる味わいね。」

「薬草の香りがするが、むしろこれが良い。」


「オレ達の世界では最初は薬として作られたのですが、その後は嗜好品の扱いでした。

 まだ薬として飲んでる地域は残っていたみたいですけどね。」

 そう説明するとイチローさんすら皆と一緒に感心していた。

 異世界人さん・・・これ好物なんだよね?!


 取り敢えず、カフェイン入りなので夜はあまり飲まないようにと伝えると、むしろコーヒーより徹夜が捗りそう!とか皆が言い出した。

 流石研究職ですね皆さん。

 これは翼を与えてくれる系エナジードリンクも必要かな?


「アンリ兄さん、これ鑑定してみてもいいですか?」

 セシリアちゃんがサラっと、とんでもない発言をした。


「鑑定・・・?」

「はい、鑑定です。まだ未熟ですが少しだけ見えるので。」


 これについてはイチローさんが説明してくれた。


 セシリアちゃんは鑑定の魔眼という珍しい目を持っているそうで、識別の魔眼の上位互換の魔眼だそうだ。

 イチローさんのご先祖様にこの鑑定の魔眼を持っていた人がいたらしく、この世界では発現した者がいない魔眼だとも言う。

 なので、恐らくは自分からの遺伝ではないかと言っていた。


 ん?イチローさんからの、遺伝・・・?

 まって!どう言う事!!?


 セシリアちゃんにはアドラーさんからの遺伝で少し髪に羽根が混ざっている。

 そして顔はエマヌエルさんそっくり。

 髪や瞳の色はイリアさんと同じだ。


 どう言う事だってばよ!?


 混乱しつつもせっかく申し出てくれたので、セシリアちゃんに鑑定をお願いした。


「名称コーラ。感冒に効く。精霊の祝福による疲労回復効果あり。」


「おお!凄い!!」

 ゲームみたい!と思いつつ、とんでもないどチート娘だなと突っ込みを入れたくなる性能だ。

 これで未熟って先はどうなっちゃうのだろう。

 そしてリューシャは相変わらずセシリアちゃんの事となると誇らしげな表情でうんうん頷いている・・・。


「・・・アンリ君、何でコーラに祝福なんてかけちゃったんだい。」

 イチローさんが呆れた様に言うが、しょうがなかったんです。

「重曹とクエン酸だと比率が面倒なので、精霊術で直接二酸化炭素添加をしてみました。」


 正直に白状したが、事情を知らなかったらしいサーシャさんが固まっていた。


「確かに疲労感なくなってるわねぇ。」

 家事でお疲れなのだろうエマヌエルさんが言う。

 だがアドラーさんは急に立ち上がると、台所へ向かう。

 そして物凄い速さで戻ってくると、エール瓶をオレの前に置いた。


「アンリ、実際に祝福を見せてもらえないだろうか。」


 何となくアドラーさんの言いたい事が分かった。

 これアレだ。強い炭酸のエールを飲んで見たいだけのヤツだ。


 イリアさんがアドラーさんに、じとーっとした目を向けていたが、取り敢えず実際に精霊術を見てもらう事にした。


 セシリアちゃんも鑑定眼を発動させて準備できたとの事なので、瓶からコルクを抜いてエールに二酸化炭素の添加を始める。

 勿論いつも通りキラッキラが出てしまうがな。


「わぁ、本当に精霊の祝福ですね!しかも凄い浄化率です。

 事象はエールへの強いシュワシュワの付与。祝福効果はくつろぎ、疲労緩和。」


 しっかり鑑定出来た様だ。

 と言うか、くつろぎって別に祝福とは関係なくない?アルコールの仕業じゃないそれ。


「おお!やはり美味い!!!」

 グビグビとエールを飲むアドラーさんは至福の表情だった。


 これはいつものただのアドラー。イリアさんはそう言って飲み干されたエールの瓶を、手の上でどろりと溶かし球形に丸めた。


「瓶には一切干渉してないのね。本職の精霊にもきっと出来ない精密な祝福だわ。魔力の扱いがとても上手ね、アンリ君。」

 褒められて嬉しいのでニマニマしてしまうのを止められないでいると、未だ固まったままのサーシャさんにエマヌエルさんが説明をしてくれていたのだが、しっかり口止めもされていた。

 やっぱり驚きますよねー。オレも驚きました。


「そうか、あの結界はそれだったか。」

「はい、アレがなかったら10秒経たずに即負だったと思います。」

 というか即死ですけどね。


 約束していた明日のお稽古楽しみ!とワクワクしていると、突然アドラーさんが姿を消してしまい、驚いて当たりを見渡す。


 突然消えたんだが、何処へ行ってしまったのだろう。


 皆は驚いた様子もなくオレ一人オロオロしていると、イリアさんはアドラーさんが座っていたはずの椅子から、何かを掬い上げた。


「もう、アドラーったら、くつろぎ過ぎよ。」


 その手には、犬鷲色のプチーツァによく似た鳥さんがいた。

 眠そうにピヨピヨ言っているのがアドラーさんだと知って驚愕していると、イリアさんはそのまま手に抱えて就寝の挨拶をして自室に戻っていった。


「今日は昼から飲んでいたし、いずれああなると思ったわ。」

「相変わらずですね、アドラー先生。」

「きっと出張続きで疲れていたんだよ。」


 これが普通なんか・・・

 獣人ってこういう事もあるんだね。


「あれはいつものパパだから気にしないでねアンリくん。」

「そうです、父さんはお酒飲むと大体あんな感じですので気になさらないでください。」


 お酒にはそれ程強くないけれど、エールが大好物だそうな・・・。


 一番威厳がありそうだったアドラーさんが、この家で一番可愛いという衝撃がすごい。


 めっちゃピヨピヨしてた!







***


 結局今回もオレはイチローさん部屋だった。

 べ、別にアレとかそれとか初夜とか期待してたわけじゃないんだからね!


「アンリ君、ソファーベッドの準備も終ったし、少し話そうか。」


 真面目な顔をして話し出すイチローさん。

 その内容はこの世界に現れた異世界人について、なのだそうだ。


「日本人一人と、恐らくは英語圏の人間が一人。

 確実にこちらにやって来た痕跡があるんだ。」


 オレ達もこちらにやってきたのだから、やはり他の人が来ていたとしてもおかしくはない。

 ただ、大分昔の人物だそうだが。


「一人は603年前。もう一人は大体150年前。」

 そう言って資料ケースを2つ、テーブルの上にどさりと置いた。

 丁寧に状態保存が掛けられたガラスケースに、懐かしい文字を発見した。


「アンリ君も知っておいた方が良いと思うから、少し話をさせて欲しい。」


 先ずは600年前に日本から来た転移者さんの話だった。


 彼は自分の世界に帰る事を望んでいた様で、帰る為の研究をしていたそうだ。

 だが、ある時を境にその研究を辞めて、残りの人生は冒険者としてダンジョン探索をしていたそうだ。


「我々の世界の技術をこちらで幾つか発明品として残していて、大賢者の称号を得ていた様だよ。」


 日記には、2015年12月に此方へ流されたという記載があった。

 そして、自分の世界とは違う魔術体系だとも書いてあるので、恐らくイチローさんの同郷の人だ。


「大賢者マズナーガ、の方が有名かな?」

「ええ!?魔力変換式のマズナーガさん転移者なんですか!?」

 この国では誰もが知っているマズナーガ式!

 そう言えば開発は600年位前って、魔法陣製作の授業でラファエラ先生から習ったな。


 彼は松永さんと言うらしい。

 元居た世界では魔導書館司書として、主に状態保存魔法を掛け続ける日々を送っていて、24歳で此方に流されて来たそうだ。

 プロ野球とビールが大好きな方だった様で、来シーズンを観れない悲しみが日記に綴られていた。猛虎弁で。


 あと、異世界転移だしハーレム無双したい。という、とんでもない期待を胸に抱いていた事が初期の記述で分かった。


 単一言語のこの世界。

 多少方言はあるが、言語学者なんていない。

 日本語で書いて遺していたと言う事は、誰にも読まれないと確信していたからだろう。


 日記を読んでしまった申し訳なさで一杯です。


 所で、オレのPCはどうなっただろう?

 不安です。


「アンリ君、そんな顔しないでくれ。

 松永さんはしっかりハーレムを形成していたし、奥さん11人と子供達を養うために結構な頻度でダンジョン探索をしていたそうだよ。

 しかも二度走破しているし。」


「それを聞いて安心しました。」


 日記を全て読んだらしいイチローさんは、ハーレム形成に至るまでのエピソードを教えてくれた。


 ダンジョンに潜る度増える奥さん・・・。

 よかった、本当に良かったよ。取り敢えずマズナーガ爆発しろ!


 しかしハーレムとは。流石マズナーガさんだなぁ。

 この人は伝記とか全くないからどんな人か知らなかったんだ。

 不本意に流されて来たこの世界で、良い人生を送れたようで安心した。


「では次に、150年程前に現れた転移者。クレモナ建国の父、大商人ロバート・オースティン。彼については、僕よりもレムリア出身のアンリ君の方が詳しいかも知れないね。」


 あの有名な商人王が転移者ァ!?


 戦続きの小国郡の中で、商人として頭角を表し富豪となった後、旧ザナージ王国での民衆革命に巨額の資金提供をし、議会制の国の立ち上げに大きく貢献した人だ。


 そして初代議長を2期務め、今のクレモナの基盤を作り上げ、引退後も議員達のサポートに尽力していた。


 大っぴらには言えないけど、レムリアもオースティンの建国事業に手を貸していたはずだ。

 見返りにかなりの物品頂いちゃってて、その時貰ったどデカいブルーダイアは国宝の一つにもなっていた。


 そして当時のレムリア国王の目論み通り、国の北西方面の情勢が安定したと、王族教育の時習った。

 当時のオレは、商人王の掌の上でぶっ転がされてない?共和制なんて王政の天敵じゃねーか。と思っていた位だ。

 だって民衆革命だよ?

 しかもロムレス公国も議会導入して安定したからって、他国も真似してるし。

 まぁ、真似しても未だにあの地域はいざこざ絶えないんだけど。むしろ情勢悪化した国もあったし。


「読書とコーヒーをこよなく愛する大商人オースティン。

 南方諸国でコーヒーを発見したのも彼だし、印刷技術をより発展させたのも彼だ。」


 因みに製紙技術を齎したのは松永さんだそうだ。


 イラストカードやエピソードブックも、確か元祖はオースティンだったよな?


「そして、彼は魔法も魔術も一切使えなかったそうだ。」

「南方系なら魔法も魔術も使えない人が多いので、判断が難しいですが、恐らくオレの世界から流されたのではないかと思います。」


 オースティンは商人を始めた頃に護衛として雇った剣士や魔術師に慕われ続け、その後も常にその身を守られていたと言う。

 商人だけでなく、冒険者達にも手厚く支援をし続けて、あの大きな街、セストの発展にも尽力したと聞く。


 今も変わらず愛され続ける建国の父オースティン。

 そう言えば彼は商人時代からとてもモテていたという逸話があった。

 奥さん3人だが愛人達は数え切れない程いたという・・・・。

 貴方もハーレムでしたか、オースティンさん。爆発して下さい。


「不思議な文字で書かれたオースティンのメモ、と言うものが幾つかあってね。以前から彼の周囲に転移者がいたのではないかと思っていたのだけど、オークションでこれが出品されて確信したよ。」


 そこには英語で、尚且つスラングまみれのメモがあった。


“マルグリットちゃんのデカケツ超サイコー!“


「幾らだったんです?」

「白金貨10だよ・・・オークションって怖いよね。」

「ええ、あの空気感は呑まれますよね。」


 イチローさんは、二人の例からも分かるように、不本意な転移でも、その後幸せに楽しく暮らして行くことは十分可能だという事と、自分も今とても幸せであると話してくれた。

 そして、それは転生でも同じ事だと思うから、これから先、しっかり幸せになってくれと言ってくれた。


「彼らのように時期が離れず、君と同じ時代に転移できて良かったよ。」

「オレもです。イチローさんが居てくれて本当によかったです!」


 その後、オークションの為にクレモナを訪れた際、落札の記念にと現地の仲介者に紹介されて購入した、こちらの言葉で”2015-12“という銘柄のスパークリングワインを振る舞ってくれた。


 このスパークリングワインは、知る人ぞ知る!と言う物らしく、数もあまり出回っていない物だそうだ。


 そしてこれを造るワイン工房は、今もオースティン一族が所有しているそうだ。



こちらはpixivにも投稿しております。

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