28.妻
お祝いという名の昼食を立食式で皆と楽しむ。
沢山並ぶ料理を見て、エマヌエルさんの料理の腕前に熟練の奥さん感を感じた。
しかも美味しいしな!今生初エビフライうんまいっ!
オレの方でも、折角なので皆さんに食べて欲しいと、マジックストレージ内のチョコレートを放出しつつ、菓子職人さんの力作マカロンも投入。
勿論リューシャが我先にとマカロンに飛びついていたが、食べ物に関しては全くブレることのないその姿勢に、むしろ関心する。
「アンリ、お前は夫ではなく妻の方が向いているのではないか?
この間のはらこ飯とやらも相当な美味さだった。」
一番のパパさんことアドラーさんがしみじみと言う。
「ありがとうございます・・・。
何だか自分でもそう思い始めています。」
妻・・・
オレの中での夫や妻の概念が揺らぎまくってます。
因みにリューシャの妻志願者は2人いるそうだが、なぜかそちらの方が戦力的にも技術力的にも夫候補に向いているという不思議な捻れ現象が起こっていたらしい。
夫候補で思い出したので、ついでにアレニローク城でルシエル先輩に会った事を伝えると、リューシャが物凄くめんどくさそうな顔をしていた。
「ルシエル君とリューシャちゃんは幼馴染なのよ。」
彼らは子供の頃同じ魔導師から教えを受けていた幼馴染なのだそうだ。
その頃から既に求婚が始まっているそうで、大分年季が入っているようだった。
伯父達による10秒剣撃も、その求婚を面倒臭がるリューシャの為に始まった行事らしい。
そして魔女に列せられた後は求婚者の数が一気に増え、腕に自信のある者達がその10秒を越える為、我こそは!と、勇みやって来るそうだ。
どう考えても腕試しじゃないですかね、それ・・・。
もう求婚関係なく無い?
「皆予選敗退してしまうので、求婚者にすらなれないのだ。」
「流石に10秒は長過ぎではないかと話していた所だ。」
こう語るガレスさんとアークランドさんが主に求婚志願者のお相手をしていたらしい。
話の途中、名前が長いからとアレクサンドルさんがサーシャと呼んでくれと言ってくれて、オレは嬉死寸前だった。
その後、またしてもとんでもない事実が判明した。
「いやぁ、遅れてすまん。もう10秒イベントは終わってしまったか?」
呑気そうに言って現れたのは、リューシャの伯父さん最後の一人、小型のブラックドラゴンに騎乗するラヴロフ・クラーキン卿。
帝国史上最強の竜騎士さん・・・
カルデア竜騎士団の皆さんに話を聞いたばかりだったその人も、姪の為と駆けつけてくれたらしい。
領騎士団の訓練中にもよく話題になっていたので、どんな竜騎士なのかを聞いたら、レオンハルト君がイグナーツ君には内緒で、こっそりとイラストカードとエピソードブックをくれたので、どんな功績があるのかも知っている。
彼の大渓谷討伐戦役エピソードを読んで、ああこれは一人で小国一つ二つぐらいなら余裕で滅ぼせちゃうヤツだぁ。大魔導師の称号持ちが空に上がったら恐ろしいことになるんだね、と勉強になった位だ。
魔女の血筋って強すぎだよね・・・。
緊張しながらご挨拶したのだが、凄く気さくな人だった。
相棒であるブラックドラゴンのグリフィス君を撫でさせてくれたりもした。
小型と言ってもワイバーンよりも一回りはでかいけどな。
そして、何となくラヴロフさんとアドラーさんが似ているなと思ったら、お二人は従兄弟だそうだ。
二人とも見た目は怖そうだが、話していると穏和で気さくな雰囲気を感じられるのも共通点だった。
うん、よく似ている。二人とも犬鷲感あるしな。
「アンリ君は、騎士剣士マニアだってリューシャから聞いていたけど、やっぱり収集癖は前世から引き続きかい?」
「そうですね、今生でもコレクター気質が抜けてないです。」
佐藤さんはうんうん頷いて、凄くよくわかるよ。と言っていた。
トレーディングカードはロマンだよね!
因みに佐藤さんはフィギュアコレクターだったそうだ・・・。
ジャンルは聞かないでおこうっと。
そして佐藤さんも家族になるので名前呼びでお願いしますと言ってくれた。
なので今日からイチローさんとお呼びする事になった。
***
「しっかしサーシャが10秒越えさせるとは思わなかったなぁ。リューシャの為に手を抜いてやったのか?」
ラヴロフとサーシャは父違いの兄弟で、余り容姿が似ていない。
彼らは水明の魔女ミカエラの第一夫と第二夫の息子達。
ガレスとアークランド、イリアは三つ子。そして神獣ヴォジャノーイの子であった。
「いや、むしろいつもより力が入ってしまった。
一時は殺しかけたかと思って焦ったよ。」
小さな頃からお転婆で食いしん坊だったリューシャは、外見が成長しても、いつまでも変わらず子供のままの様に思えた。
だから、既に食べ物関係で課題が与えられていると聞いたサーシャは、カルデア家のお坊ちゃんに言葉巧みに食い物で釣られただけでは無いかと危惧していた。
「実際見てないから分からんけど、アンリは強かったのか?」
「いや、まだ強くはない。これからの鍛錬次第では大化けするかもしれないけど。」
本当は、双剣を抜く速さと初撃への対応に驚いていた。
結界は硬く、高魔力での一点突破で何とか打ち砕いたが、勢い余ってそのまま斬りつけてしまう所だった。
だがそれも受け止められてしまった。
世間では神速の一撃と言われている、ただの突き技も。加減はしてあるものの、両膝を地にはつけられなかった。
しかも次撃に備えて、双剣をしっかり構え立つ姿には感心するしかなかった。
噂では見目麗しい小国の元王子と聞いていた。
それがどうしてなかなか良い目をしているではないか。
王子ではなく、皇子でもなく。ただの騎士がそこに立っているのだ。時間が許すならばこのまま打ち合っても良い。
そう思っていると彼の姉が終了の合図を出して、終いになってしまった。
少し勿体なかった。
そう思い、アンリに打ち合いを申し出ると、子供のような顔をして喜ばれた。
何とも調子を狂わせるその笑顔が、何故か擽ったく感じられてしまう理由は、その後判明した。
「まさかあそこまで慕われていたとは思わなかったけどね。」
だが、自分を目指しているからこそ研究もされていたのだろう。対応されるのは当たり前のことだ。
そう思いつつ、突き技を放つ前のアンリのわくわく顔を思い出しては小さく笑う。
「無邪気に慕われるってのは中々慣れないよなぁ。
あと自分のカードな!あれ本当に恥ずかしいからやめて欲しい。
美化され過ぎてて何だか申し訳なくなるんだよ!」
勿論、彼らも子供の頃はカード集めをしていたし、それでカードバトルも楽しんでいた。二人にだって子供の頃には憧れの騎士や剣士がいた。
だが実際自分がその立場になって見ると、どうしようもない気恥ずかしさがあった。
「兄さんはまだ良いよ・・・三騎士に名を連ねてるお陰で、僕はもっと出されてるから。
知ってます?カードの見た目と肩書きだけで追いかけて来る御令嬢達って魔物より恐ろしいんですよ?」
実感の篭もった言葉に、ラヴロフは笑いつつ三騎士じゃしょうがない。と慰めにもならない言葉をかけた。
「それにしてもアドラーがあっさりと許すとは思わなかったなぁ。」
「アドラー先生はあれです。二週間程前、既にアンリに餌付けされていた様だから。」
隣人ラルフが獲って来たプルプルンラックスを使った料理は相当美味しかったらしい。そう話に聞いていた。
アドラーは当初、やっとまともな妻候補が来たのかと思ったらしく、夫候補と聞いて驚いていたそうだ。
「もういっその事、リリーやジルを夫にしてアンリを妻にすれば全て丸く収まるんじゃ無いかな。」
家事全般が壊滅的な妻志願者達の名前を出し、その役割を交換させればうまく行くのでは?とサーシャが言うと、ラヴロフは飲んでいたワインを吹き出しむせていた。
「・・・それは流石に気の毒だろう。」
二人は妻志願者達の顔を思い浮かべると、深い深いため息をついた。
***
お祝い昼食会も終わり、親戚や近所の人々が帰るとアンリはエマヌエルを手伝い、片付け作業に勤しんでいた。
お祝いの主役なのだからゆっくりしていればいいのにとセシリアも手伝おうとするが、今日から家族なのだからこれで良いと言い、むしろ今日の功労者はセシリアなのだから、休んでいてと言われてしまう。
元王子の現皇子に流石にそれは、と思っていると前世ではずっと一人暮らしで慣れているのだと聞かされた。
実際手際もよく、とても手慣れているように見えたしスライムの扱いも上手で、テイムもせず簡単にゴミ処理をさせていた。
姉には勿体ない人なのかも知れない。
そんな考えが頭を過ぎるが、あの姉にはこう言う人が必要なのではないかと前々から考えていた事を思い出し、ついでに妻志願のリリーやジルが家事手伝いに来た日々も思い出す。
料理とは言えない消し炭を見せられても、どんなに皿を割ろうとも、洗濯物を細切れにしようとも。掃除と言って床や窓を破壊したとしても。
妻として母として最良と言われる自分たちの母、エマヌエルと比べるのは可哀想なので大目に見よう。
初日はそう思っていた。
だが一週間もそれが続けば流石に皆気付く。
ああ、これは無理だ。と。
魔女である母や姉、大賢者や大魔導師である父達すら、その二人の所業に恐れ慄いていた。
唯一エマヌエルだけが穏やかに二人を見守りつつ、家を片っ端から修繕していたが。
そしてその後二人は、今後しっかり鍛錬してまた挑戦しに来ると言って去っていった。
どうかもう来ないで下さい。
それがエマヌエルを除いた、家族全員で一致した見解だった。
そのおかげで生活力の乏しいリューシャは未だ家を出る事が出来ないでいた。
彼女の魔女領は既に決まっており、屋敷も整っている。
見かねたセシリアは自分が手伝うと言ったが、それではセシリアの負担が大きすぎるとイリアに止められた。
そしてこの問題は、リューシャが自分で解決するべきだと言う。
あれはいつだったか。
その日も懲りずにルシエルが10秒剣撃に挑んだ日、一撃で倒れたルシエルにセシリアは問う。
お掃除やお洗濯は出来ますか、料理は出来ますか。と。
勿論領主の弟で生粋の貴族である彼に出来るはずもなく。それは使用人がするものであって自分達がする事ではないと言われてしまう。
夫が駄目なら妻はどうか、と聞いてみようと思ったが、それも無駄に感じてしまい、それ以来彼には声をかけなくなった。
次々とやって来ては伯父達に吹っ飛ばされる他の求婚者志望の挑戦者達にも聞いて見るが、誰も彼もがそれは自分達の仕事ではないと言う。
家事上手だとしても、普通の女性では魔女領があるこの地方では生きて行けないので、選択肢はとても狭かった。
基本的に魔女達は、魔導師時代あたりに領外や大渓谷で仲良くなった女性を妻とする事が多い。
そして魔女でなくとも、ユヴァーリの女性魔導師は妻を持つ事が一般的だった。
しかも魔女領内の女性はその殆どが魔女の血を引き、いつ何時魔女に列せられるか分からない。
イリアの様に幼馴染の為に妻を目指していても突然魔女に列せられる例もあった。
だが、転機は訪れた。
いつものようにリューシャがイチローと共にヴァツカーヌへ遊びに行くと、そこで大公からお使いを頼まれた様だった。
よく話を聞いて見ると、帝国外の料理を食べてみたいと常々言っていたリューシャに大公が気を遣った形だったといい、更にカルデアンクリームの御礼を付けると言ってくれている様だった。
可愛い子には旅をさせろ。
それはイチローの故郷の言葉だそうだ。
家族一同リューシャの成長を願い、お使いの旅へ送り出した。
その後夫候補としてリューシャが連れて来たアンリは、転生や精霊等の問題を抱えてはいたが、この家ではとても気に入られていた。
普段求婚者達に冷たいアドラーですら、はらこ飯を食べ、彼滞在時の話を聞くと、破壊神達が再び訪れる前に課題を済ませて早く家に来てくれと言うようになっていた。
「やっとまともな人が来てくれてよかった。」
これまでを振り返りつつ、セシリアは呟く。
きっと今頃アンリはエマヌエルと共に夕飯の支度をしてくれているのだろう。
自室まで漂う良い匂いに気づくと、魔石研究の資料を閉じて、今日はいつもより多く家族が集まる広いリビングへと向かった。
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