1.兄上の婚約破棄
初投稿です。小説不慣れですがよろしくお願いいたします。
この小説はpixivにも投稿しております。
とある地域の小国群。
乱立と衰退を繰り返す国々の中にあって、唯一500年以上の歴史を持つレムリア王国。
他の小国と比べると立地的にも少しだけ恵まれており、今日も平和を謳歌していた。
秘策は世界一の大国であるオルテア帝国の伝統を真似た王位の継承争いにあった。
国民の生活に僅ながら影響が出る事もあったが、それでも賢王が続き豊かでそれなりに平和な国を実現させていた。
現在この国の王位継承権を持つものは10人。
現国王の子供たち4人と、王家の血引く適齢の者達6人だ。
継承権はもちろん放棄もできるが、それぞれの後ろ盾である貴族や官吏達が許してはくれない。
なので、期待は背負っているが王に向いていないと思う者は、有望な別の誰かに助力して、自身の派閥ごと取り立ててもらおうと考え行動した。
この国での継承争いは幼少の頃の学習から始まる。
学問と魔術と政治。強く賢く無ければならず、政治では国単位での権謀術数に長けていなければならない。
――そう、だからオレは賭けていた。
自分の少ない派閥ごと全てを兄である第一王子に賭けていた。
母親がオルテア帝国の元皇女で、オレも生まれた頃は王太子確定と持て囃されていたそうだが、最大の後ろ盾であった母は4歳の頃に死んでしまった。
母の顔も朧気にしか覚えていない。
政務大好きワーカーホリック全開だったらしい母は、出産後すぐ子育ては乳母に任せて仕事に励みまくっていたそうだ。
どうやら当時進行していた王国内での治水事業を主導していたらしい。おかげで今では大雨による氾濫は減って、農作物の収穫高が安定している。
だが、ある日突然の死。
工事の進行も上手くいっていて、終わりが見えてきていた頃だったらしい。
当時母に仕えていた文官が教えてくれた。
やり遂げた感のある幸せそうな死に顔だったそうだ。
だからそう、オレの少ない派閥は母と苦楽を共にした文官と魔術師達が主だ。
彼らはオレがいずれ臣籍降下して第一王子の騎士として活躍できる未来を応援してくれていた。
剣と護衛としての技術を学ぶために、多くの剣豪を輩出するロムレス公国への留学も支援してくれていた。
だというのに!!
「エカテリーヌ・ヴェルニエ!貴様との婚約を破棄する!」
そう声高に叫ぶ兄。
隣には婚約者のエカテリーヌ嬢ではない別の少女。
今日は王立学園の卒業記念式。
もう王太子が決まったも同然だった兄上。
祝辞の一つも述べようと帰国を早めたというのに、この仕打ち・・・。
「クラリスに対する卑劣な行い、全て貴様が行った事は分かっている!」
兄はまだまだ発言し続ける。
ざわつく会場で、ああやっぱりねみたいなヒソヒソ声が聞こえてくる。
やっぱりってどういうことだ!?
ふと目をやると貴賓席の上座で国王がつまらなそうにそのやり取りを見ていた。そして、その隣では兄上の母である王妃が頭を抱えている。
因みにエカテリーヌ嬢の卑劣な行いとは、学園の風紀を乱す行動を慎むように、未婚の女性が婚約者の居る男性と二人っきりにはなってはならないという普通の淑女的アドバイスである。
ただ、第一王子に近づいたクラリス嬢を心良く思わない女子学生達が、持ち物を隠したり、虫を鞄に入れたりと可愛いらしい嫌がらせをしていた。
それも含めてエカテリーヌ嬢のせいにされていた。
「アンリ殿下、レナート殿下にお祝いを言うどころじゃなくなってしまいましたね。」
従者であるアルフレート君が声をかけてくる。
「お前、知ってたな?」
「勿論知ってましたが、私は第二王子派の密偵なので隠蔽してました。」
さらっと従者のスパイ宣言があった。
全然気が付かなかった!
「殿下は余り驚かないのですね。もう少し取り乱すかと思っていましたが・・・」
「いや、レナート兄上の暴走の衝撃がまだ残っていて、お前への正しい反応が出来なかったんだ。すまん。」
しかも現在進行形で事が起こってる訳で。
だがしかし、軽々正体を明かすと言うことは
「因みにオレもヤバい感じ?」
「いえ!アンリ殿下の後援者の皆さんも既に第ニ王子派ですからご安心を!」
ご安心を!じゃないだろう・・・
母さんとの苦楽の日々ぃ・・・
まぁ、優秀な人ばかりなので失脚したら国の損失だ。
それでいい。
「アンリ殿下が今後第二王子アルノー殿下に膝を折り、仕えてくださるなら近衛騎士団をお任せになっても良いとの事です。
脳筋の殿下に打って付けのお仕事じゃないですか!
高待遇ですし騎士になる夢が叶いますね!」
正体表してから急に辛辣すぎるスパイ従者め。
今まで従順で優しかったのに!悲しい!
「それって断ったらどうなるのかな?」
そう言った瞬間、身震いする様な恐ろしい笑みを向けられた。
「そうなると、最後まで第一王子派を貫いた事になる貴方は、この国では暮らして行けないでしょうね。」
レナート兄上の変化を知らなかったと言う甘えは許されないか。
情報収集を怠ったオレが悪い。
"最後の“って事は、オレ以外の継承権保有者はほぼ第二王子派になっていると言う事だろう。
第一王子の派閥も含めて。
これはもう国内纏まっちゃってるなぁ。
14歳で国を出て、たった4年でこんな事になるとは。
魔力は多いが属性を持たないオレは、属性有りの魔石、魔法陣、魔道具を介さないと魔術を発動できない。それだけでも十分継承争いにはマイナスだった。
勉強もそれなりに出来たが体を動かす方が好きで、剣を振っている時が一番楽しかったし、王位は面倒なので欲しくはなかった。
それにオレは転生者だ。
地球の、日本の、あの高度な文明と文化の記憶を持って生まれた。今更王位だの何だのに興味は持てなくて当然だろう?
むしろ魔法のある世界にワクワクしたし、出来る事なら世界を旅して冒険したかったが、流石に王族として生まれたからにはその責務は果たすつもりでいた。
だからレナート兄上の騎士を引退したら旅に出ようと、考えていた。
二度目の人生だしどうとでもなる。
そう思って生きてきたし、今もそう思っている。
今回の出来事は、それを早めただけ。
そう思う事にした。
「じゃ、オレはこの国を出ることにするよ。」
凄く怒るんじゃないかなと思ったが、アルフレート君はむしろホッとした顔をしていた。
「殿下らしいご回答ですね。」
そう言うと直ぐに俺の側を離れた。
因みに騒動はどうなったかというと、頃合いを見て父上が場を収め、騎士を呼んで兄上に謹慎を言い渡し、王城に戻した。
そして卒業記念式はその後も何事も無かったかのように続いた。




