27.憧れの騎士
まずは最初の関門である領都へ向かう。
ユヴァーリ侯爵領、領都アレニローク。
パルティアやユークの様な発展はしていないが、それなりに大きな街があった。
そしてこの先、黒の大渓谷に近い大森林付近に魔女領が点在している。
聞くところによると、ユヴァーリは帝国内で唯一冒険者ギルドのない領地だそうだ。
理由はもちろん、魔物が強すぎて冒険ができないからだ。
そのかわり、領軍は帝国一強力で、魔女の子弟や血縁者も多く在籍しているらしい。
そら強いわなぁ・・・。
まず、イリアさんの魔女領であるゴルトヴィーゼへ行く前に、アレニロークの領城に寄って、行政官に求婚申請をしなければならない。
ここまで来ると、最早試験の願書を出しに行く感覚になってしまうんだが・・・。
城へ到着すると行政官はオレの来訪を知っていた様で、直ぐにお出迎えされてしまった。
恐らくオトフリートさんが予め日程について連絡してくれていたのだろう。
そして前もって用意していた申請書を提出すると、ここでも、頑張ってくださいね!ご武運を!と、いい笑顔で応援された・・・
しかも、遠くからヒソヒソと話し声が聞こえて来る。
「いい装備だわ。あの双剣、カルデア大公家の宝具、魔剣オルトロスでしょう?
今回はきっといけるんじゃないかしら。」
「おおう、流石魔剣マニアは見るところが違うな。
しかし大公家の坊っちゃんも騎士特有の良い体格してるしな、いい勝負になるかもしれん。」
うあああああああ!!!??
やっぱりオレ何かと戦うのかー!!?
しかもこれ魔剣だったあああああ!!!!
オレは震えるのを堪えながらも何とか城を出て、預けていたモントムースのいる獣舎へ向かう。
勿論ここはユヴァーリ。
獣舎はモントムースだらけで、佐藤さんからお借りしている個体を探すのに少し手間取ってしまった。
幸い角の形状から無事見つけ出す事ができたのだが・・・
お借りしているモントムースの手前、そこに以前のオレと全く同じ髪型をした金髪イケメンが立っていた。
「随分と装備を整えた様だが、貴様では届かんだろうな。」
初対面で挨拶もなく、急に上から目線で言われて、少しイラッと来てしまうが、続けて自己紹介されてしまった。
「我が名はルシエル・ノトス・ユヴァーリ。
貴様と同じく、星降の魔女リューシャへの求婚者だ!」
求婚者いるじゃねーか!しかもイケメンの!領主の弟!
いや、しかしこれはチャンスだ。
この先オレの身に何が起こってしまうのかを聞けるチャァンスゥ!!
「あ、初めまして。アンリ・カルデア・ケラヴィノスです。
ルシエルさんは求婚の先輩ですね。
後学のために、この後なにが起こるのか教えてもらえませんか?」
オレがそう言うと、ルシエル氏はフッと笑い、行ってみればわかるさ。とだけ言い残して去って行ってしまった。
ああああああ!!聞き方失敗したあああ!!!
ぐぬぬ、あの余裕そうな笑みが腹立つなぁもう!
「あ、でもなんか恐怖が和らいだな・・・」
今の唐突なやり取りで、震えが治まっていた。
ルシエル先輩、もしかして緊張をほぐしに来てくれたのか・・・?
魔女の夫は複数と言うし、就職仲間を励ます気持でここで待っててくれたとか?
分かりにくいツンデレかな?あの人。
ーー無論、そんな訳もなく。
ルシエルの行動は、ただの示威と威嚇であった。
***
なんとかメンタルを立て直したオレは、ようやくゴルトヴィーゼへ到着したが、どうやら親戚総出でのお出迎えの様で結構な人がいた。
これでようやく一番のパパさんにも会えるな。
ビビっていたけど、魔剣は使わずに済む様で安心した。
「アンリ君〜!ようこそ〜!」
イリアさんやエマヌエルさん、佐藤さんも温かく声をかけてくれる。
さっきまでの緊張は何処へやら、オレは皆との再会が嬉しくてしょうがない。
「アンリ、ゴルトヴィーゼへようこそ。
俺は黄金の魔女イリアの第一夫でリューシャの父親のアドラーだ。」
黒髪に赤目の、一番のパパさんが握手を求めてきた。
見た目ちょっと怖そうだけど、挨拶の言葉をかけてくれてありがたい!塩撒かれなくてよかった!
事前情報によると、見た目では殆ど分からないけど犬鷲の獣人さんらしい。道理で眼光が鋭い訳だ。
「お会いできて光栄です!アンリ・カルデア・ケラヴィノスです!」
オレの自己紹介に、次々と親戚の方々も自己紹介と挨拶をしてくれた。
水明の魔女ミカエラさんは祖母と言うより、イリアさんのお姉さんと言っても問題ないような若さだった。本場の美魔女すげえ。
金剛石の魔女マイヨーラさんも挨拶に来てくれていた。やっぱり兄妹、エマヌエルさんと似ているのですぐに分かった。
そして、お隣のラルフさんも挨拶とはらこ飯のお礼を言ってくれた。ヒグマの獣人さんらしく、なんとも大きな人だった。
今日はゴルトヴィーゼに住むご近所さんのほぼ全員集まってきていたようで、こちらの方々からも次々と挨拶を受けていく。
一通り挨拶をした筈だが、肝心のリューシャの姿が見えない。
「あの、リューシャは・・・?」
なんだか急に不安になってきた。
チョコレートを持って行くと言ったのだ。
リューシャなら一番先にオレのところへ来るはずなのに・・・
しかもブランシェさんとセシリアちゃんまでいない。何かあったのだろうか?
辺りを見渡していると、奥からイリアさんにそっくりな男性騎士二人と、なんとオレの憧れであるあの人がこちらに向かってやって来た。
生ノーヴァ卿だあああああ!!本物だ!めっちゃかっこいい!!
「はぁ、やっぱりやるのね。」
イリアさんが呆れたと言わんばかりにため息をつく。
彼らは皆リューシャの伯父さんなのだそうだ。
騎士二人はイリアさんに顔が似過ぎているので気付いてはいたが。
ノーヴァ卿以外の二人はユヴァーリ領軍の軍服を来ているので、領軍に仕官しているのだろう。
そして、このイリアさんそっくりな二人は、ガレスさんとアークランドさんというそうだ。
双子かな?二人の区別が難しそうだ・・・。
そして、こちらに向かいながら憧れのアレクサンドルさんは言う。
「魔女の夫に相応しい力が有るのか、見せてもらおう。」
そう言われるまで、彼の右手がグリップにかけられていた事に気付かなかった。
「はい?」
間の抜けた返事をした直後、既に距離を詰められていた。
余りの速さに剣を抜くだけで、応戦が間に合わない。
咄嗟に精霊術で結界を発動し事なきを得たが、次の一撃で直ぐに結界は破られた。
何とか剣でその一撃を食い止めるが、これがまた重いのなんの。
手だけでなく、腕や肩にまでビリビリと響く。
そして、魔剣に魔力を込めても力負けしてしまい、後方へ押し飛ばされてしまう。
オレとしては間合いを測るために距離を取れて良かったと考えたが、全く甘かった。
アレクサンドルさんは、助走距離を得るためにオレを後方へ飛ばしたに過ぎなかった様で、神速の一撃がやって来るのが分かった。
ああ、やばい。
そう思いつつ、憧れの人の、憧れの技が自分に向いている事で、妙な高揚感を得てしまっていた。
受けたい。この一撃を回避せず受けてみたい。
頭ではわかっている。あ、これ死ぬやつと。
でも、ワクワクが止まらない。
その思考のせいで、回避の隙は無くなっていた。
だからもう踏ん張るしか無い。
精霊術も未熟な雷属性の魔力も全部使って。
そして、その強烈な一撃を受けたオレは、もちろん吹っ飛んだ。
だが死にはしなかったし、怪我も小さな切り傷と擦り傷だけで済んだ。
剣撃が放たれた時に感じた魔力量から考えて、恐らく相当加減をしてくれている。
体勢は大きく崩れたが、辛うじてまだ立っていられたので二撃目に備えて、応戦の構えを取る。
こちらは一気に魔力を消費してしまったので、次は双剣だけで受け止めるしかない。
回避も考えたが、あれは避けるタイミングに失敗したらやばいヤツ!
だが、その時声が聞こえた。
「はい15秒〜!10秒超えたから合格です。」
イリアさんのやんわりとした声が終了を告げていた。
するとドタバタと家の方から走って来るリューシャが見えた。
「チョコレートおおおおお!!」
そう叫びながらオレに向かってダイブして来たので、何とか受け止めた。
擦り傷だが、一応オレ怪我人なのですが・・・
セシリアちゃんとブランシェさんも一緒に家から出てきたようで、こちらに手を振ってくれていた。
「アンリくん!待っていたよ!さあ早く求婚してくれないかな!」
チョコレートはよ!見たいな言い方で求婚を求められてしまう。
何だかいつものリューシャで安心してしまった。
大分家から離れてしまったので、見守ってくれていた皆さんの所へ戻ろうとするが、途中アレクサンドルさんが声をかけてくれた。
「良い胆力だ。次は少し打ち合おう。」
「光栄です!是非打ち合いをさせて下さい!」
憧れの騎士との打ち合い予約!
嬉しすぎて、オレはただただ舞い上がっていた。
そして、リューシャには求婚者がいないのではなく、伯父さん三人衆の剣撃10秒間に耐えられる奴が居ないだけだった事を知る。
リューシャに関しては、本来ならこの10秒間を乗り切って初めて課題が与えられる制度だったらしい。
順序が逆になってしまって申し訳ない。
だがリューシャはチョコレート食べたさにこれを隠蔽していただろうし、オトフリートさんも知っていたからこそ黙って家宝の魔剣なんかをよこしたんだろう。
竜騎士さん達の、ご武運を!の意味がようやく分かった。
そういえばカルデア領騎士団の訓練も、オレだけ対魔物想定ではなく対人想定の訓練や打ち合いばかりだったなぁ・・・してやられたな。
まぁ、結果良ければ全て良し!
と言うことにしておこう。
色々思い出して冷静さを取り戻せたオレは、チョコレートの入った装飾箱を取り出し、銀と魔石の手作りペンダントも添える。
そして、しっかりと片膝をついて口上を述べる。
「星降の魔女リューシャよ。貴女の望みに応えるべく、今日、この日のために課題を仕上げました。どうぞお納めください。」
受け取ってもらえるかどうかの不安なんて一切与えられない速度で、ペンダントごと素早く受け取ってくれた。
ささっとおざなりにペンダントを首にかけると、バリバリと包装紙を破り捨て、箱を取り出し中のチョコレートを一粒口に放り込む。
するとリューシャの表情がどんどん緩んできて、美味しそうに咀嚼を続けている。
カリカリと音がしたのでアーモンド入りを食べたようだ。
そして無言で二粒目。にまにまと緩みっぱなしの表情のまま、更に三粒四粒と次々と食べていく。
周りも固唾を呑んで見守っているが、リューシャは構わず次々とチョコレートを口の中に放り込んでは、うっとりとしつつ、突然驚いたり嬉しそうにしたりと表情を変えていく。
結局、無言でチョコレートは完食されてしまった。
「お、終わっちゃった・・・」
第一声がそれだった。
それはそれは寂しそうで、切ない響きの声色だった。
周りにいた家族親戚ご近所さん一同も、ああ、こう言うヤツだったと言いたげな表情をしていた。
そうですよ、リューシャはこう言うヤツなんですよ。
「リューシャちゃん、お返事!」
見かねたイリアさんがリューシャに耳打ちしていた。
「アンリ・カルデア・ケラヴィノス。
これより貴方を、我が夫として迎えます。
我が元に侍り、今後一層の努力を誓いなさい。」
「はい、心よりお誓い申し上げます。」
そう宣誓がなされると、周囲がわっと沸き立った。
皆がおめでとうと祝福してくれて、これから祝賀会を開いてくれると言う。
準備も既にされていて、何だか拍子抜けしてしまっていると、毎回課題発表会として準備されているが、いつも残念会になるのだと教えてくれた。
料理上手なエマヌエルさんの佐藤さん直伝異世界料理を食べたくて、毎回結構な人が集まるらしい。
血縁のないご近所さん達も集まっている事から、人気イベントだった事が窺い知れた。
ただ、アレクサンドルさんは帝都で仕事があるため滅多には来られないらしく、今日はリューシャの頼みでわざわざ来てくれたそうだ。
「ふふ、リューシャちゃんの大本命が来るって言ったら、帝都からすっ飛んできたのよ。」
イリアさんがこっそり教えてくれた。
なんでもアレクサンドルさんはリューシャが子供の頃、面倒を見たり遊んであげたりしていたそうで、目に入れても痛くない、可愛い姪っ子扱いだそうだ。
そして、今回の一番の功労者はセシリアちゃんだと言う事を知った。
チョコレート食べたさに家から飛び出しそうなリューシャをずっと拘束してくれていたそうだ。
魔力と物理の複合バインドに、八重結界。それでも留めるのに苦労したそうで、ブランシェさんが拘束に加わって、ようやくという有様だったそうだ。
化け物すぎませんかね・・・
ベルトランド先輩達が魔物化したレッドドラゴンを倒す為に使用した拘束魔術より強力なんですが・・・
「姉さんは魔力馬鹿力なのでとても大変でした。」
「ほんっっとうに偉かったね!セシリアちゃん!」
オレはよしよしと頭を撫でて、精一杯褒めた。
リューシャはふふんと鼻を鳴らしつつ、誇らしげに、自慢の妹だからと言って、オレの後にセシリアちゃんの頭をなでなでしていた。
お前は見習う側だぞ・・・
因みにブランシェさんは、もう既に定位置であるオレの肩上だ。
そして、心地良いゴロゴロ音を聴きながら、ブランシェさんからも祝福の言葉を頂いた。
『おめでとうございます、アンリさま。』
「ありがとうございます、ブランシェさん。」
こちらはpixivにも投稿しております。




