26.完成
課題は無事完成した。
ボンボンショコラも美味しく出来た。
硬さのあるビターチョコレートを表面に、内側には色んな味付けでガナッシュを作って入れた。
料理長さんのアイディアで溶かしたチョコに潜すという手法も出来た。
その時、味見にチョコバナナを作ったら、料理長さんがすかさずバナナを取り寄せる手配を始めてしまったが。
その後、厨房の菓子職人さんを紹介してもらい、マカロン作成とギモーブ作成もした。
ついでにギモーブもチョコレートに潜らせる。
当たり前だが、とても美味しいものができた。
マカロンのクリームは、職人さんがここからまた試行錯誤して色々作りたいと言っていたので、プロにお任せしていたらもっと良いものができるだろう。
この世界にも食品用添加色素があって良かった!
そうこうしている内に、ユヴァーリへの訪問の前日になり、何となく緊張して来た。
「今日は明日に備えてゆっくりと休む様に。」
オトフリートさんはそう言うが、オレにはまだやらなければならない事が一つだけ残っていた。
「工房の使用は午前中のみですからね。」
イグナーツ君にもそう言われつつ、なんとか自分の魔術工房へは行かせてもらえたが、時間内に戻る様にと、レオンハルト君を監視につけられてしまった。
「何をお作りになるのですか?」
水、砂糖、スパイス類、ライム、クエン酸
この材料達を見たレオンハルト君は、薬か何かを作るのだと思っているらしい。
まぁ、確かに最初は薬として作られた物なんだけどね。
「これからジュースを作ります!」
そう言うと、拍子抜けしたような顔をしていた。
やっぱり食品工房ですね、と笑っていたがしょうがない。
オレだってそう思う。
では早速、砂糖水を煮詰めて行く。
勿論、時短の為魔術使用だ。普通にやると焦がしそうだしな。
次は、コラ、シナモン、ナツメグ、クローブ、アニス、ブラックペッパー、ドライジンジャー、コリアンダー。
ライムは皮をすりおろし、鍋に投入する。こっちも勿論時短で行く。
「ジュース、なのですか?どう考えても薬の匂いがするんですが・・・」
レオンハルト君がすんすんと鍋付近で匂いを嗅いでいる。
そうだよね。でもこれは、オレ達の世界では嗜好品であって、薬では無くなって行った物なんだ。
「まぁ、これは佐藤さんが飲みたがっていた故郷の味だから。」
そう言うと、なんだか普通に納得された。
鍋にライムの絞り汁を入れて、出来上がったカラメルと混ぜ合わせる。
少し味見をしたら、懐かしいあの風味!
取り敢えず仕上げに味を馴染ませたいので精霊術もかけておく。
「ジュースに精霊術・・・」
という呟きが聞こえてきたが、聞こえないふりをして作業を続ける。
少し酸味が足りない気がしたのでクエン酸を投入すると丁度いい味のシロップが完成した。
それを少し濃いめに水と合わせて氷魔石で冷やし、練習通りに炭酸を添加させれば出来上がり!
「やっぱり薬じゃないですかそれ。」
パチパチと炭酸弾けるコーラを見てレオンハルト君は言うが、気にせずぐいっと一気に飲む。
「ぷはぁ!懐かしい!」
味も香りも爽快感も、その全てが懐かしい。
「レオンハルトも飲んでみる?」
そう言って手渡すと、意を決した表情で一口飲むが、直ぐにむせていた。
「刺激的な味ですね。でも、これ思ったより飲みやすいですね。後味も薬とは違いますし。」
そういって香りを嗅いでいた。
コーラシロップは瓶に移し、佐藤さんのお土産用に取り分けておく。
「これで準備万端!付き合わせて悪かったな、レオンハルト。そろそろ戻るよ。」
「いえ、なんだか癖になりそうな味で、妙に後を引きます。試飲させていただきありがとうございました。」
おや?割と好評かな、それとも気を遣ってくれたのかな?
「では参りましょうか、アンリ様。」
「ああ。わかった。」
午後はしっかり大人しくしていよう。
***
意外と暇だな。
カルコス君と遊ぶぐらいしかやることが無い。
「プッチ、書庫から精霊研究の本を何冊か持ってきてもらえるよう伝えてくれ。」
ピッ!と一声鳴くと書庫へ向かってくれた。
佐藤さんの日本語魔導書を読みつつ、到着を待つ。
彼の世界の魔術理論を、この世界の魔術体系に合わせて組み込んだ応用術式の記載がいくつも有った。
記述になんとなく佐藤さんの人の良さが滲み出ている気がして、何だか安心した。
見た目こそ若いけど、年相応に大人で頼り甲斐のある人なのだと改めて感じる。
転生前を含めて、実年齢的には二歳差しか無いんだがな・・・。
それにしても、早くユヴァーリに行きたいなぁ。
そうこうしているうちに、精霊研究の本を持つ侍女さんと共に、何故かヨアヒムさんがやってきた。
「アンリ、遂に実ってしまったよ!」
ヨアヒムさんの手にはアボカドとマンダリン。いや、みかんがあった。
「まさかこれほど早く実るとは!素晴らしい!」
「うわぁ、この短期間で・・・」
実食は共に。と、持って来てくれた様だ。
魔力解析が出来る魔導師さんを帝都から招いて、再度解析したところ、収穫期を迎えたあたりで成長の加護や実りの祝福の効果が切れたそうだ。
「リューシャ様やサトゥー殿が仰られた通り、私の作った土や仕切りに精霊の祝福。更には土と木に加護と祝福が二重でかかっていたそうだ。」
今後、収穫期間は通常に戻るだろうとのことだった。
ただ、解析した魔導師さんが帝都に戻りたくない、ここで任官試験を受け直してヴァツカーヌで働きたい!と言って聞かないそうだ・・・。
「学院時代の同級生でね、植物研究同好会で一緒だったんだ。
その伝もあってお願いしてみたのだが、困ったことになったよ。」
困ったように笑うヨアヒムさんには、予算が許すなら魔導師さんを雇いましょうと伝えてみた。
オレ達二人の領地と言うか、ほぼヨアヒムさん一人で采配してる場所だ。それにオレはもう直ぐ従軍するし、魔女の夫にもなるだろう。
それでも植物研究や新しい果物の栽培もこれからも続けて行くには、専門の魔導師が居た方が絶対良いと説得した。
同級生なら話しやすいだろうし楽しいだろうからな!
その後一緒にみかんを食べることにした。
アボカドはまだちょっと青いので、少し置いてからだな。
そしてリューシャや佐藤さんへの土産として、小箱一つずつ預かることになった。
「優しい甘さと酸味だが、味は濃いね。」
「ああ、これです。結構近いというかそのものですよ!」
みかんを食べ終わると、ヨアヒムさんはユヴァーリで頑張ってこいと、励ましの言葉をくれた。
ヨアヒムさんはこれからオトフリートさんのところへ行き、同級生魔導師さんの雇用相談をしてくるそうだ。
オレはその後、精霊に関する研究書や文献を読んで過ごした。
***
前日結局遅くまで本を読んでしまい、寝不足になってしまいそうだったので、回復用上級ポーションを飲んで寝たらびっくりするほど元気に起きた。
しかも魔導書のおかげで、自前のマジックストレージの区分けを覚えることが出来たのは幸いだった。
まぁこれの練習が楽しくて夜更かししてしまった訳だが。
お陰で手持ちの荷物を大幅に減らせた!
モントムースなら多く荷物が積めるが、今回は求婚になってしまったので護衛も従者の同行も許されていない。
なので出来るだけ身軽な方がいい。
早朝、オレは城の皆に見送られつつ飛び立った。
オトフリートさんや側近達だけでなく、ラファエラ先生やフェリクスさんも来てくれていた。
そして、もらった声援はやはり、求婚と言うより就職試験へ向かう者へ送られるものかのようだった。
ある意味永久就職だが。
今回は領境のギリギリまで、竜騎士さん達が先導と護衛をしてくれたのもありがたかった。
そして領境に差し掛かると、ご武運を!とエールをくれて、オレを見送ってくれた。
魔女の求婚には武運も必要なのか・・・!?
ユヴァーリは魔物が多いし、どれも強力だからと言って、護身用にとお高そうな双剣渡されたけど、これ使う事になるの!?
そんな求婚作法聞いて無いですよオトフリートさん!
こちらはpixivにも投稿しております。




