22.チョコレート2
のんびり休憩をしているとラファエラ先生やフェリクスさんが戻ってきた。
レオンハルト君も護衛ポジションの扉外へ移動した。
二人ともシュワルマを気に入ってくれた様だが、似たような食べ物が帝国にもいくつか有るらしい。今度食べに行ってみよう。
「さて、焙煎に取り掛かりましょう!」
まずは魔道具コンロを使い、鍋で煎る。
微妙に時間がかかるな、と思っていると、焙煎用の魔道具があるとフェリクスさんが教えてくれたので、早速手配してもらう。
まぁ、今回はこのまま鍋で行こう。
「薬草学の実習では、よく鍋で焙煎しておりました。」
懐かしそうにフェリクスさんが言うと、ラファエラ先生も頷いていた。
焙煎は良いと思う所まで小一時間掛かってしまったが、何とか出来上がっている様だ。
割ってみるとしっかりと焙煎されているのがわかる。
そして遂に、懐かしいカカオのいい香りがしている!
ちょっと齧ると、苦味が強いが程よい酸味もあって、美味しく出来上がる予感がした。
次は火魔石と精霊術で焙煎してみようと思う。
その間ラファエラ先生とフェリクスさんがカカオ豆の皮むきをしてくれるそうだ。
ありがたや!
耐熱トレーに豆を敷き詰め、揺すりながら魔石と共に魔力を流す。
シャカシャカとトレーを揺さぶっていると、皮むきを終えた二人が、集まる光の粒子に見入っていた。
「皮剥きありがとうございます。お二人とも早いですね。」
「煎った後に、素材をそのまま粉砕する事も有りますが、基本皮むきが有りますので、慣れですかね。」
皮だけに切れ目を細かく入れた後、風魔術でさっと取ってしまうらしい。
コツがあるそうなので後で教えてもらう事になった。
そうこうしている内に、こちらのカカオ豆もいい具合になってきたので魔石の発動を止め、冷ましたら皮むき開始だ。
フェリクスさんが手本を見せてくれるが、工程が全部風魔術だった・・・。
風の刃を用いて皮だけに亀裂を入れ、パリパリと皮を剥がすと風魔術で皮だけを横に飛ばし分けていく。
その全てが微細な魔力操作で成されているのがよく分かる。
「フェリクスさんこれは凄い!ただ、オレにできるでしょうか?」
「慣れればできる様になりますので、頑張りましょう。」
一粒やってみるが風の刃を出せず、豆を豪快に吹っ飛ばしただけになった。
「ぐぬぬ、難しい!」
どう考えても無理です。本当にありがとうございました。
詳細な効果を持つ魔術は、属性魔石の他に魔法陣の補助が必要だった事を思い出す。
もう遅いよ!飛んでいったよ!
「魔石利用での魔術発動は、コントロールがとても難しいですからしょうがないですよ。」
ラファエラ先生もそう言って慰めてくれた。
ひとつしかない雷属性でも何とかならないだろうか。
皮の厚さを確認しながら考えていると、少しアイディアが浮かんだので試してみる事にした。
まず氷魔石を用意しておく。
「皮だけに、皮だけ〜に」
ぶつぶつ呟きながら、魔力力場を薄く発生させる。
小さすぎて対象を観測出来ないが、電磁波を模した属性魔力でなんとか水の分子を振動させたい。
でも周波数を覚えていない。
電子レンジさあああん!振動数どうしたら良いですかあああ!?
一生懸命集中していると、またキラキラが発生してしまう。
するとカカオ豆の皮がパリパリ言い出し、少し焦げた匂いがし始めた。
「何とかできたかな?」
急いで氷魔石を使い皮表面に冷気をかけると一気に皮がバリバリと割れつつ一部吹っ飛びもした。
しっかり皮だけを熱して、中身には熱が伝わっていない様だった。
「おお!」
手に汗握って見守ってくれていた二人から歓声が上がる。
その後は属性魔力で起こした静電気を利用して、割れた皮を手にくっつけていく。
飛び散った方の皮は普通に拾った。
床でやると埃もくっついてきそうだしな。
「フェリクスさんみたいにはできませんでしたが何とかなりました!」
「同じ作業でも違う工程を以ってする。これは面白いですね、とても良い発想だと思います。」
「風の刃で皮に亀裂を入れ剥がし、先程の魔術で吸着していけば、もっと簡単に作業できそうですね。」
先生が褒めてくれて、フェリクスさんは提案してくれた。
二人とも大小偏りはあるが5属性持ちだそうで、一種しか持たないオレを労ってくれた。
雷属性は魔女でも数人しか持っていないそうで、教本もなく扱いが分からないらしい。
ただ、三属性混合魔術式に雷を発生させる魔術があるそうだ。
大量の魔力を扱う上位魔術。
魔導師以上でなければ発動できないそうで、やはり希少な魔術だそうだ。
因みにこの世界の静電気は、妖精の悪戯と呼ばれている。
「皮をくっつけたのは、妖精の悪戯とほぼ同じものです。」
そう言うと二人は、大精霊の加護で扱える精霊術は面白いですね。と言っていた。
そういえばそう言う事になってた。
「では粉砕します!」
次の行程に入ろうとしたら、粉砕用の魔道具もあるらしく手配をしてくれた。
だがここで閃く。
「もしかして植物の種などから油を圧搾する魔道具なんかも有りますか?」
「はい、勿論何種類かございますよ。」
それも手配してもらい、乳鉢は片付ける事にした。
しばらく待っていると、塔から荷物が届いた。
アイテムケースから次々と魔道具が出されていく。
だが日も暮れて大分経つ様で、お腹も減ってきた。
「やっぱり粉砕は明日にしましょう。」
オレがそう言うと二人も時間に気づいた様だ。
「何だか楽しくて、時間を忘れてしまったようです。」
「私もそうです。あれ程ひどい匂いを発していた物が、今は何とも香ばしく良い香りをさせています。
その先が知りたくて年甲斐もなく心躍ってしまっていた様です。」
二人共楽しそうに言ってくれたので、少し安心しつつ、保管用ケースに仕舞って作業を終了した。
「今日はお手伝い頂きありがとうございました!」
そう言って皆で工房を出ると、レオンハルト君とイグナーツ君が待っていてくれた。
二人にもお礼を言って今日の成果を報告した。
佐藤さんの魔導書と闇属性魔石に発酵の魔法陣。これらのお陰でかなり製作過程が短縮された気がする。
もしかしたら、明日にはチョコレートに加工が出来るかも知れないので、今のうちに材料を用意した方が良さそうだ。
あと型もだな。
厨房に何かないか聞いてみよう。
まぁ聞くのはイグナーツ君だが。
そう思っていたら、イグナーツ君には助手が出来ていた。
秘書官見習いで、試験を受けてパルティア行政官として登用された新人さんだそうだ。
因みに従者や護衛にも登用試験があるそうで、縁故採用は一切ないらしい。
助手のクロエさんは物凄く丁寧に挨拶してくれた。
彼女はカルデアからかなり遠い、ガリア伯爵領出身の平民だそうで、カルデアの乳製品に憧れてこの地で試験を受けたそうだ。
イグナーツ君の話では、帝都の学校では次席卒業者で、かなり優秀な子だそうだ。
同世代のお仲間が追加された事も嬉しいが、イグナーツ君の負担が減ってくれたらそれが一番だと思う。
生真面目そうな子なので、イグナーツ君と気が合いそうだ。
***
浴室から部屋に戻り、就寝の支度をしながら考える。
今日は精霊術っぽいものが何度か発動していた。
おそらくあのキラキラした光の粒子が発生している時がそうだ。
おそらく加護ではなく祝福という物だろうか。
恐ろしい程に作業は成功し続けている。
きっとあの工程の中には、本来ならば失敗してしまう様な物もあったのではないだろうか。
因果を捻じ曲げている様にも感じられ、少しだけ身震いする。
チートとは無縁と思っていたけれど、これは佐藤さん以上にアレな能力なのではないだろうか。
「あ、そういえば!」
コーラの件を思い出してしまった。あれも作らないと。
目録を見た限りスパイスの類は結構揃ってる。
クエン酸は旨素をもらった時に、重曹と一緒に貰っていた。
明らかにコーラを意識しただろう材料。
まさかお掃除してねと言う意味では無いはずだ。
そう言えば天然の炭酸泉はこの世界にもあるし、瓶詰めの炭酸水もある。
ふと、水差しを手に取りコップに注ぐ。
「このただの水に祝福をして、炭酸飽和出来ないかな。」
与圧して二酸化炭素を添加したいがその為の設備がない。
魔道具にはあるのだろうか?
そうだ、単純に水に二酸化炭素を付与と考えて見てはどうだろうか。
今日は対象を目視出来なくても出来たし。
魔力を水に流し込んで見ると、ほんの少しキラキラが発生した。
その途端に水に気泡が発生し始め、何となく飲んでも大丈夫な気がした。
口に含むと普通に炭酸水だった。
天然の物に比べると炭酸が強めなので、コーラ用のシロップを水で溶いた後に、炭酸付与って形にすれば行けそうな気がする。
精霊術を使う度、周辺魔素は消費され、瘴気が浄化されてゆく。
そんな事には思い至らないまま、炭酸水を飲み干した。
こちらはpixivにも投稿しております。




