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追放王子と星降の魔女  作者: ぷも山
カルデア大公領と魔女の課題
21/64

19.帰領と魔術工房



 支度を終えると皆揃って朝食をとる。

 この家の何とも言えない賑やかだが和やかな雰囲気が、とても心地良い。


 食卓には、スクランブルエッグや目玉焼き、サラダやカリッカリのベーコンが並んでいる。

 そして全粒粉のベーグルはもっちりとしていて、それに各々好きなジャムやバターを塗って食べる。


 バターが凄く美味しいが、カルデアンクリームで作られたバターだった。

 道理で!


 ジャムはリューシャの祖母の、水明の魔女ミカエラの手作りだそうだ。

 どれも美味しいが特にマーマレードが好みだった。あっさりしていて美味しい。

 これは朝にぴったりだと思う!


「アンリ君はしっかり眠れたかしら?」

「はい、おかげさまでぐっすりと眠れました。」

 家長のイリアさんの気遣いはありがたいが、今日この後カルデアに帰るのは、なんだかとても名残惜しかった。


 しかし、もともと再来週に訪問予定があったので気を取り直す。


「イリーナ様と私からの手紙をオトフリートさんに渡してね。」

 そういって二通の手紙を渡されたので、大事にアイテムバックへしまう。


 封蝋が、どう見てもゴールドです・・・。

 さすがこの世界唯一の黄金錬成師だ。


 予測できる製作内容が恐ろしそうなので、精神衛生のため作り方は聞かないことにした。

 予測が確定したら、不安で眠れなくなりそうだからな。


 あと、少し気付いたことだがセシリアちゃんは少し大人びている。

 立居振る舞いもそうだが、リューシャの妹というよりお姉さんという感じがした。

 いや、セシリアちゃんは普通の成長具合で、リューシャが少し子供っぽいだけなのかもしれないが。


「隣のラルフさんが、はらこ飯はとても美味しいと喜んでいました。」

 その嬉しそうな顔は少し幼さが残っていたが、表情も受け答えも常にしっかりとしている子だ。


 オレがセシリアちゃんを褒めると、リューシャが何故か誇らしげにしていた。

 むしろお前は彼女を見習いなさいよと言いたい。


 そして、セシリアちゃんが褒められて、エマヌエルさんがとても嬉しそうだったが、とんでもない事実を教えてくれた。


 セシリアちゃんはエマヌエルさんが生んだそうな・・・・


 どういうこと!?


 新たな疑問を抱きつつ、オレは一人カルデアへの帰路についた。







***


 まずはヴァツカーヌのヨアヒムさんを訪ねた。

 大分心配してくれていたようで、労いの言葉をかけてくれた。

 そして、イグナーツ君とレオンハルト君も領主館で待っていてくれたようだ。


「皆心配かけてすまない。」

「いえ、むしろよく1日でお戻りになられました。」


 行き返りにはユヴァーリ領のモントムースと言う魔獣鹿に乗っていたので速かった。

 もちろん飛ぶ。普通に空を飛ぶ。

 頭も良くて優しいので、オレ一人でも問題なく乗れる。しかも嬉しい事に再来週ユヴァーリ訪問するまで貸してもらえる事になった。

 ちなみにユヴァーリ領の紋章はこの鹿さんだ。


「伯父上に手紙を預かっているので、今日はパルティアへ戻ります。」

 そう言うとヨアヒムさんも一緒に来てくれる事になった。


「アンリ、君がユヴァーリへ行っているこの1日でマンダリンはみるみる成長していったよ。」

 マンダリンの成長を教えてくれた。

 今はオレやヨアヒムさんの背丈位になっているそうだ。

 あとアボカドは遂に小さな実がつきはじめたらしい・・・


「それについても少しだけ分かった事があるので着いたら説明します。」


 オレはモントムースに乗り、ヨアヒムさんの乗る馬者に並走しながらパルティアへ向かう。

 相変わらず馬車とは思えないスピードだな・・・。


 そんな中レオンハルト君は、馬に乗り並走しつつ、どうやって護衛ポジションに付けばいいのか悩んでいる様だった。角の生えた重馬もでかいけど、モントムースは更にでかいからね、混乱させてすまぬ。



 街道を進み、パルティアへ向かう。

 カルデア領内は農地が多く、この道程だけでも農場が多い事がわかる。

 豊かな分、治安も良い様だし、魔物もそれなりに沢山居るが領軍や冒険者がささっと退治してくれるので被害も少ない。

 そして今では魔物発生は領内でもほぼ森等に限られているらしい。何処からか湧いて来る、野良スライムを除いて。


 但し、スライムは下級冒険者が捕獲駆除したり、テイムして街や街道の掃除をするのに役立っているそうだ。


 カルデアは、ゴブリンの絶滅区でもあるそうで、街中でなくとも若い女性も夜間外出が出来る。

 逆に人の多い夜の繁華街の方が少し危険らしい。

 酔っ払いのナンパ的な意味で。


 景色を楽しんでいるうちに、長閑な風景が徐々に都会的になり始め、領都へ到着した。


 城に着くと、まずモントムースを来客用獣舎に預けた。

 すると隣の厩舎からモントムースの世話を出来る人が来てくれた。

 リューシャや佐藤さんが来てくれた夜会の日も、彼が面倒をみてくれていたそうで、約二週間滞在すると言ったら大喜びしていた。

 でっかいしカッコいいからしょうがないね。


 オトフリートさんは執務中にも関わらず急いで出迎えてくれたが、オレが預かってきた二通の手紙を見て一瞬固まりつつ、表情を整え直すと、少し時間をくれと言い、手紙を読みに足早に戻っていった。


「父上は恐らく自分の魔術工房へ向かわれたのだろう。」


 ヨアヒムさんが捕捉してくれたが、魔術工房!

 何それかっこいい。

 オレも自分の工房欲しいなぁ、と考えていると、イグナーツ君が城内に工房を整えてくれている最中だと教えてくれた。


「城内の工房は、以前テレシア様がお使いになられていた場所を整えておりますので、直ぐにでもお使いになれますよ。」

「おお!ちょっと行ってみたいな。伯父上から呼ばれるまで行ってみてもいいかな?」

「はい、勿論です。」


 言ってみるもんだ。

 工房に連れて行ってもらえる事になった。


 そこでヨアヒムさんも色々教えてくれると言い、一緒に工房へ来てくれた。

 本当、ヨアヒムさんいい人だな。

 もうこれからは兄貴と呼びたい。


 工房へ到着すると、作業机や椅子。備え付けの棚や収納くらいしかない状態だった。

 他には大きなテーブルとソファーが置いてあるだけ。これは休憩用かな?


「これから素材や資料をお運びする予定です。ご希望はありますか?」

 なんともワクワクする質問がやってきた。

 一応工房予算は決まっているそうで、その範囲内で賄う事になるらしい。


 自分で採りに行きたいと言ってみたが、即却下され、冒険者ギルドに依頼を出せと言われてしまった。

 その後、城内の素材保管庫の素材目録が差し出された。


「目録見てるだけでワクワクしてしまう。」

「そうだね、ヴァツカーヌにも素材目録があるからきっとそちらも楽しめるよ。」

 ヨアヒムさんにそう言われて、楽しみはさらに増えた。

 侍女達がお茶の準備をしてくれて、テーブルセッティングもしてくれたので、お茶を飲みながら目録を眺めた。


 だが欲しい物リストを書き出して行く作業は難航した。

 どれもこれも興味があり過ぎる。

 魔物素材から魔石鉱石金属薬草何でもござれで、図鑑を取り出しては調べての繰り返しになってしまった。


 余りにも悩んで居るので、結局は実際に保管庫に行って実物を見ながら選ぼう!と言う事になった。


 実物!楽しみだ!






***


 着いてみると、そこは保管庫ではなく、どでかい塔だった。


 この素材保管塔は、魔術師さんたちが常に管理してくれているそうで、在庫管理も徹底されているようだった。


 一階は塔の管理室になっており、二階に魔石や鉱物等、三階に魔獣魔物の素材、四階は魔道具保管庫、簡易工房があるそうだ。

 そして、最上階の五階は簡易温室と薬草が保管されている。


 イグナーツ君がしっかり先触れのプチーツァを飛ばしてくれていたので、すんなり受け入れてもらえたが、本来オレやヨアヒムさん等の大公一家は、事前連絡の必要がないらしい。


 うっきうきのオレを塔の魔術師達が出迎えてくれて、挨拶をしてくれた。

 そして今日は簡易工房に、オレの魔術講師であるラファエラ先生が来ている事も教えてくれた。

 昨日今日の授業をすっぽかしてしまったことをお詫びしないといけないな。


「まずは、魔石をいくつか揃えようか。」

 ヨアヒムさんがそう言って、先ずは2階へ。

 保管庫も何部屋かあるので、先ず魔石から揃えていこうと思う。

 魔術師さんも一人案内についてきてくれて、容量の大きいアイテムケースも持って来てくれていた。


「まずは全属性と無属性を個別に、あとは空の魔石も。」

 そう言ってどんどんケースにしまっていく。

「鉱石金属類もひとまず少量ずつ全種類っと。」

 駄菓子屋で大人買いする気分に近いな、と思いつつどんどんしまっていく。


 三階の魔獣魔物素材も同じように少量ずつ全種入れていくと、周囲の生温かい視線を感じた。


 しょうがないんだよ、選べないんだよ!あれもこれもとりあえずゲットしたいんです。

 そうして、少し恥ずかしさを感じながらも、四階へ向かう。



「アンリ様、無事のご帰還お喜び申し上げます。」


 まるで戦地にでも行っていたかのようなラファエラ先生の挨拶に何とも言えない気持ちになってしまう。


「先生、昨日も今日も申し訳ありませんでした。」

「いえ、出来た合間で研究をしていたので大丈夫ですよ。」

 そう言って先生は、研究中の魔法陣を見せてくれた。

 びっしり描き込まれたそれを見ても・・・うん、まったくわからん。

 魔道具もあったが、何に使うかさっぱりわからない形状のものが多い。

 わかったのは武器防具くらいだし、あとは箱が多い。


 オレの疑問だらけの顔を見ながら先生は言う。

「魔道具に興味があれば、授業で習った簡単なものから作ることをお勧めいたしますよ。」

「はい、頑張ってみます。」


 まだ無理そうです。とは言えず、先生にお礼を言って五階へ向かう。

 そして、この階に来たら、何となくこうなるだろうとは思っていた。


「ふむふむ、良い薬草がそろっているようだ。私は、温室にある新しく育てられているモノ達を拝見してこよう。」


 ヨアヒムさんはそう言って温室へまっしぐらだった。



「オレも全種揃えを始めよう。」

 乾燥させた薬草だけではなく、時間停止された保管ケースに入れられたものもあった。

 あとは精油やチンキ。

 よーし、ケースにどんどんしまっちゃうぞ!


 器材も必要なので小瓶類や薬包紙、乳鉢乳棒のセットも大中小と揃えてもらうことにした。

 その後思い出したように、練り台と軟膏ベラ、基剤も種類があったので、とりあえずこれも全部用意してもらう。


 そうしていると、魔術師さんが声をかけてくれた。


「薬をお作りになるのですか?」

「作れそうな物が幾つか思いついたので、作ってみようかと。」

「では、出来上がった物を拝見させて頂いてもよろしいですか?」

 ワクワク顔で聞いてくる彼は、フェリクスさんと言うらしく、治癒師と薬師の称号持ちだそうだ。この世界の専門家に会えて嬉しいので、二つ返事で了承した。

 ただ、イグナーツ君が怪訝そうな顔で咳払いをしているが、大丈夫大丈夫!


「やはり剣術訓練校では、そういった薬学の様な物も学ばれるのですか?」

 レオンハルト君も興味があるらしい。

「いや、学校では作るより、治癒師や薬の世話になる事の方が多いよ。オレたち学生は直ぐ怪我するからさ。」

 レオンハルト君も騎士と同じですね、と言い笑うと、周囲も笑い和やかな空気を醸していた。

 レオンハルト君はやっぱり空気和ますの上手いな。

 今日もGJ。


 最上階で話をしている内に、オトフリートさんから呼び出しがあった。

 ただ、オレだけ来る様にと言われると、周りが少し心配そうになっていた。


「大丈夫。戻ったらちゃんと説明するよ。」

「では我々は素材などを、工房に運んでおきましょう。」

 イグナーツ君達がオレの工房を準備してくれながら待っていてくれるそうだ。

 皆本当にいい奴ばっかりだ。


 ああ、ヨアヒムさん?

 温室から全く戻ってこないけど、草花に夢中になってしまっているのでしょうがないね。




こちらはpixivにも投稿しております。

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