18.はらこめしうまい
「お義兄さん、このご飯美味しすぎます・・・っ!
それに、イクラの味もいつもより優しい味付けになっています。」
出来上がったはらこ飯を、セシリアちゃんも美味しそうに食べてくれていて安心した。
既にお義兄さん呼びなのが若干気になるが。
因みに、普段はイクラを塩水に浸した後、オリーブオイルに絡めてブリヌイやクラッカー、パンに乗せて食べていたそうだ。
それも美味しそうだよな。
「これ考えた人天才よねぇ。異界の漁師さんに感謝の祈りを捧げるわぁ!」
「確かにそうした方が良いわね。
後これはアドラーにも食べさせてあげたいから少し取っておきましょう、ね。リューシャちゃん?」
「・・・はぁい。」
イリアさんは次々おかわりをするリューシャに釘をさす。
そして久しぶりに食べた豆腐の味噌汁が沁みたが、さっきのベルトルッチさんの、これで良かったのか?と言う言葉が少し刺さったままだった。
前世の実家は総合病院を経営していた。
兄二人は医師に、姉も医師になったがお礼奉公の後直ぐに結婚してそのまま家には帰らなかった。
オレの母は後妻で、更にその後離婚して新しい母が来て妹ができた。実母はその後別の家庭を持ち、弟や妹を産むと会いにも来なくなった。
実家は裕福だが少し歪んでいた様に思う。
それが嫌で別の道に進んだつもりだが、家業を監査する側になったのは反発や意趣返しだったんだろうか。
だから普通の家庭に、いや、温かい家族に憧れていたんだと思う。
今までずっと考えない様にしていたそれを、ベルトルッチさんに見抜かれていたのだろうな。
神様だし。
あと別にムラムラしてたわけじゃないし!ソワソワだし!
「アンリくん、どうしたんだい?」
佐藤さんが顔を覗き込み、心配そうに言ったので、頭を切り替えて行こう。
「カカオ発酵には、バナナの葉っぱを使うべきか代用品を考えるべきか、それが問題です。」
「あぁチョコレートの事か。」
その答えにみんなが笑ってくれて、リューシャはまだ見ぬチョコレートへの期待に胸を膨らませている様だった。
「はらこ飯も成功して良かったです。佐藤さんの旨素のおかげですね。味が整いました。」
「イクラが白くなったのを見た時はどうなる事かと思ったけど、杜都で食べた味にそっくりだよ。」
和やかで賑やかで温かい。
そんな夕食になった。
因みにその後、セシリアちゃんとエマヌエルさんはプルプルンラックスをくれたお隣さんに、はらこ飯をお裾分けに行ってくれた。
***
今夜は、客室ではなく佐藤さんの部屋に泊めてもらう事になった。
如何にも賢者様仕様といった感じで、とにかく本や魔導書が山積みになっている。
そんな中、佐藤さんは大きめにソファーベットを整えてくれた。
「アンリ君、ベルトルッチ様は此方の心を読んで抉ってくる方だから少し心配だったんだ。大丈夫だったかい?」
「ええ、まぁ何とかなりました。ちょっと揶揄われただけです。疑問も少し解けましたし。」
佐藤さんは初めて会った時に言われた言葉がきっかけで大分落ち込んだらしい。
「あの方は、内にある負の側面を見せてくれて、解消させる手助けをしてくれる、ありがたい存在でもあるんだけどね。」
愁を帯びた、どこか懐かしそうな表情だった。
佐藤さんは温かい飲み物をどうぞと言ってカップに白い液体とお湯を注いでくれた。お酒かと思ったのだが、
「これは!」
懐かしい乳酸菌発酵乳のあの味だった。
相変わらずお互いの世界では違う商品名な事にも笑ったが、佐藤さんの作ったこれは、とても美味しかった。
「飲み物といえば、アンリくんはコーラとか作れないかな?
頑張って見たけれど、どうも上手くいかなくて。」
「クラフトコーラは作った事があるんで、材料さえあれば行けそうです。」
佐藤さんはコーラが大好物だったらしい。
是非作って欲しいと頼まれた。
「それにしても、佐藤さんは発酵系上手ですよね。どれも懐かしいあの味にちゃんと仕上がってます。」
「発酵は、腐敗の闇属性魔術を応用してるんだ。というか、手持ちの属性では闇属性が無駄に多いから、扱い易かったって言うのもあるんだけどね。
この世界に来てからは、微細な調整も上手く行くようになったんだ。」
「それは便利そうです!オレは雷属性一つなのでで羨ましいですよ。」
佐藤さんは元々3属性だったそうだが、この世界に来てからは、7属性まで増えたらしい。
流石は大賢者である。
佐藤さんの世界では、発酵食品を取り扱うメーカーに必ず腐敗魔術もとい発酵魔術を使える人がいるらしい。菌の管理や速度的な意味で新製品開発や改良の為には欠かせない人材だそうだ。
その術式はテイムに近い魅了の魔術らしい。
微生物にも魅了がかかるんだね・・・
「アンリ君には精霊術があるじゃないか。興味があるなら大公家に精霊研究の蔵書が沢山あるはずだよ。」
励ましてくれながらも、早速精霊研究の入門書を貸してくれた。
パラパラと流し読みして思う。
「精霊ってこの書かれ方だと高次元の生命感ありますね。高次のというか未知のと言うか。
魔力を作用させて物自体の組成そのものをどうにかしている様な、そんな感じに書かれてますし。」
そう言うと佐藤さんはうんうん頷いた。
「この世界は僕の、そしてきっとアンリ君の世界とも理論的に合致しない事象も多いんだ。
例えば、水魔術なんかわかりやすいよ。
空気中の水分を集めてるとかそう言った次元じゃなくて、水を唐突に現出させてるんだから。」
佐藤さんの世界では、水魔術の水は魔力干渉により空気中の水分や元素から作っていたそうだ。なので場所に左右される上、別術式での水流操作も加わるので、集中力と細かい魔力調整が必要なとても面倒臭い魔術だったそうだ。
対してこちらは、魔力干渉で魔素だけを水に変えてしまうそうで、水流操作も割とイメージ通り簡単に出来る。
それ位大きく違いがあるそうだ。
「精霊術は、魔素だけじゃなく物質そのものにも干渉する代物だと僕も思ってるよ。
瘴気の魔素変換にも関わるし、精霊の体は肉体ではなく魔力で出来ているから、僕らには見えない何かしらの要素があって、それを扱っている可能性もあるからね。」
人の五感では認識できないが、確かにそこにある。
そういったものはオレ達の世界にも数多くあった。
「問題は、オレに自覚がない事ですね。
加護ォ!とか、祝福ゥ!ってやってるわけじゃないので発動原理が一切分からないんですよ。」
そう言ったオレに、佐藤さんが一つの提案をしてくれた。
「森で精霊を探すか、オトフリートさん辺りに本場の精霊召喚を見せてもらえば良いのではないかな?」
取り敢えず話は纏まり就寝の時間になった様だ。
ふかふかの毛布にくるまり心地よく目を閉じる。
そういえば魔女達には瘴気を浄化する役割があったはずだ。それが魔素への変換なのかそもそも消してしまうのかはわからない。
精霊も同じく瘴気を祓うと言われている。
昔から、小国郡がある地方にも、伝承のようなもので精霊が関与していると言われる物はいくつかあった。
冬であるにもかかわらず春を迎えたように一定の区域だけ不自然に咲く花々や急に実る果実。
突如としてこの世界に齎される聖剣や魔剣。
エンシェントドラゴンは上位精霊の加護を受けた、特定の竜種のみが到達するともいわれている。
人間も、カルデア家以外の者でも稀に加護をもらえるらしいが、条件はまだ分かっていない。
パルティア城に戻ったら調べてみよう。
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