17.大魔女様とじっじ
大魔女からの迎えには、フェンリルが来ていた・・・。
「ポーちゃん久しぶりだね!」
リューシャが、わしゃわしゃとフェンリルを撫でまわしていた。
伝説の魔獣再び。
と言うか帝国ほんとうに凄すぎだろ。
なんで皆、普通に伝説の魔獣飼ってるんだよ!
『ふむ、リューシャよ。相変わらず良い手捌きだ。さぁ、其方の者どもよ吾輩に乗るが良い。』
伏せの状態になってくれたポーさんに乗せてもらう。
リューシャは乗らないのか?と思っていると、おもむろに箒を取り出した。
「さて、行きますか!」
箒に跨ったリューシャは先に飛び立つ。
そしてそれを追うようにポーさんも空へ駆け上がった。
うんうん。リューシャは魔女だったな。
余りにもテンプレ過ぎて・・・逆に驚くだろう。
しかもフェンリルさんもリューシャも、速度バカ速えェ・・・結界無ければ吹っ飛んでますよ確実に!
この世界って、速度規制とか無いんです?
山を二つほど超えると、大きな湖が見えた。
どうやらその少し先に、大魔女の聖域と呼ばれる領地があるようで、あっという間に到着した。
大魔女はどでかい城に住んでおり、その城の見た目がなんとなくゲームなどに出てくる魔王城っぽかった。
この城には使用人は居らず、22人の妻達と、49人の夫達が城を切り盛りしつつ、日々結界研究に勤しんでいた。
「ようこそおいでくださいました。」
挨拶してくれた、この渋カッコいい執事風の夫さんの名前は、クラウスさんと言うらしい。
配偶者筆頭の立場にあるそうだ。
謁見室に案内してくれているらしいが、肝の小さいオレは緊張でガッチガチだった。
そして佐藤さんも同じく緊張しているのが見てとれた。
だと言うのに・・・
「イリーナ様に会うの久しぶりだから楽しみ!
やっと夫候補が出来たことも報告しないとね、アンリくん!」
オレはその言葉に適当に頷くが、能天気にも程があるだろう。
しかも、“やっと”だと?求婚者いなかったんだろうか。
まぁこんなに美人だけど、この食いしん坊さについて行ける奴が現れなかったんだろう。
なんかわかる気がする。
いや、恋愛じゃなくて功績審査だったか。
魔女の夫の課題ってかなり厳しめのものが多いらしいから難しいことには変わりないだろう。
そういえばリューシャには奥さん候補は居るのだろうか?彼女には夫より、年上でしっかりした妻の方が必要な気がする。
そう、エマヌエルさん見たいな人。
オレはまぁ、チョコレート夫で食べ物係だろうしな。
カカオは佐藤さんも製法が分からないと言っていたので、一から頑張るしかないな。
あ、バナナの葉っぱ仕入れないと。
あの商人さんの連絡先聞いておいてよかった!
あれこれ考えている内に謁見室とやらに到着してしまった。
重厚な扉が、ギギギと音を立てて自動で開く。
オレと佐藤さんは片膝を付き、挨拶の口上を述べる。
やっぱりリューシャは能天気に、そして気軽に、お久しぶりです!と大魔女に向かって、元気いっぱいに挨拶していた。
後で聞いたことだが、魔女は魔女の前でも膝を折ってはいけないらしい。
「さて、見たところ私の手には追えんようだ。」
出会って早々、大魔女が匙を投げた。
秒でポイっと投げ捨てた。
「佐藤、お主の見解はどうだ?」
「恐らく、精霊の性質を得ているように見えましたが、なんとも言えません。」
「リューシャ、どうだ?」
「はい!祝福と加護の付与をこの目で見たのですが、精霊自体の存在を感じることはできませんでした!
境界干渉も全く無かったです。なのでさっぱりわかりません!」
リューシャの発言を聞いて大魔女様は薄っすら微笑むと、であろうな。とだけ言った。
「クラウス。ベルトルッチの所へ案内してやれ。」
そう言うとクラウスさんが、恐らく先触れにとプチーツァを放った。
「イリーナ様、アンリくんは私の夫候補なんです。じーじに会わせても大丈夫でしょうか?」
そう言うと、大魔女様は素の笑顔で微笑む。
「それは実にめでたいな、ベルトルッチも喜ぶのではないか?良かったなリューシャ。」
何だか嬉しそうだったので、オレは少し安心していたが、祖父だと!?
一番のお父さんお通り越してお祖父さん!
佐藤さんの方を見ると、緊張は解れるどころか余計緊張した様に見える。
え?もしかしてお祖父さん怖いの?
塩とか撒かれてしまうのか?
そして、大魔女様はリューシャの頭を撫でると、謁見室を退出していった。
「では、ご案内致します。」
オレ達は来た道を戻るように、城を出た。
そしてベルトルッチさんは此処へ来る途中に見たあの湖に居るそうで、そこへ向かう事になった。
***
湖から、ぽっかり顔を出したどう見ても仔海豹。
前世で見た竪琴アザラシの赤ちゃんにそっくりだった。
ちょっとでかいけど。
「じーじ!久しぶり。元気だった?」
ベルトルッチさんは・・・アザラシだった。
困惑していると、佐藤さんが教えてくれた。
「彼は神獣ヴォジャノーイです。」
そう言った後、佐藤さんもベルトルッチさんに挨拶し始めた。
やばいやばいやばい!
聖書にも出てくる創生の神の一柱じゃねーか!!
水を司る神さまぁ!
なんでリューシャのおじいちゃんなのおお!?
『そんなに取り乱さないでくれ、アンリ。
私は君の世界の神話にも脇役で登場している、馴染み深いただの水の精だよ?』
うわわわ心読んでるの!?
これ心の声読まれてるよね!?
『たしかに聞こえてるけど落ち着いて。』
ほわああい!?
やっぱ聞こえてルンバぁ!
混乱し放題だったが、何とか息を整えると、佐藤さんが心配そうにオレの汗をハンカチで拭ってくれた。
優しい!
『取り敢えず事情は聞いたよ。』
は・・・はい、そうなんです。
大魔女様すら秒で匙をポイ捨てしました。
『一朗も君も別々の世界からやって来た訳だが、其方から来たと言うことは此方からも行ける、と言う事だよ。
行き来、と言うより流されると言う方が近いね。
意図して行くことも戻ることもできないが。』
つまり、・・・どう言うことだってばよ?
『精霊というのは、目に見えないが体を持っているんだ。
そして稀に流される者もいる。一朗の様にね。
アンリの居た世界は、瘴気や怨嗟を浄化も魔素変換もできないまま循環する世界になってしまっているが、そう言った所に精霊が流されれば生きて行くことはできない。
ただ一つの可能性を除いてね。』
可能性、ですか?
『そう言った場合、生きるために精霊は生き物の体に憑依する。だが、魔素のない世界ではそれも容易ではない。
己の体である魔力を使い、人に融合する。その結果が前世の君だ。』
えっ!?オレに精霊さんが宿ってたのか?
全然分からんかった。
『君は、ある時期を境に運が良くなったろう?』
言われてみれば。
受験も最初は父に反対されてた学部だったが、何故かすんなり行けた。国試に至っては廃問が7つもあった。忙しかったが安定した公務員にもなれたし、通り魔の時は死ぬほどの怪我でも生き残った。
ん?
でもインフルエンザの院内感染で死んだんだが。
あとモテなかったし。
『本当なら死ななかったろうね。でも、死ななければならなくなったのさ。
テレシアの降霊術を君の中の精霊の部分が奇跡的に感じ取り、それで君はあっさり身体を抜け出して、か細い想いの糸を辿って此方にやって来たんだ。
まぁ、境があるから普段はあり得ないが、あの時・・・蝕があったから伝わりやすくはあったね。そのせいだろう。』
境やら蝕やら、難しい・・・。
しかし、居るはずの精霊さんを全く感じないんですがこれは一体?
『精霊に意思は無い。そして、もう君の魂と混ざり合ってしまっている。君の自我は君の物だから安心すると良い。
あと、モテなかったのは君と言う存在の安心感のせいだよ。女性にはビビビと来ない波長だろうね。
所謂、良い人なんだけどね〜の人だ。』
んー!グッサリきたぁ!!
言われたことあるなぁ・・・
『あと、境界についてはもう学んで居るだろう。
そして蝕は、日食月食の様に世界に世界の影が落ちて起こる現象だよ。君たちには観測できないだろうけどね。』
観測できない現象・・・やっぱり難しいです。
それで結局オレ自身は何なんでしょうか。
『精霊術が使える唯の人、かな。
いや、君の体は只人だが魂は少し密度が高いから、魔女に近い存在とも言えるね。
そこら辺はリューシャの夫になる事で上手く隠せるだろう。君も随分と彼女に入れ込んでいるようだし。
イリーナにも私から説明しておくよ。』
べべべべつに入れ込んでると言うわけではないです!
成り行きです!
あとこれ就活ですし!
『ティグリスに相乗りの時も、宿で相部屋の時も、ムラっと来てたろう?』
それはしょうがないじゃないですか!!
だって男の子だもの!!
『君は他人対して、強く想い入れる事をかなり恐れているねぇ。』
それは、・・・
『君は、元居た世界や家族とも文字通り永遠のさよならをしてしまった訳だが、本当にこれで良かったと思うかい?』
・・・まぁ、前世にも家族にもあまり未練はないので。
『うん、君の理想は此処にある様だしね。ならばここで、これから追い求めれば良いだけだろう。
頑張ってチョコレートを作ってリューシャの夫になると良い。何かを為せば自信も付くだろうし。
あと私も久し振りにチョコレートを食べたいから、供えてくれると嬉しいよ。』
水の神様はそう言うと、湖に再び帰っていった。
しかも、久しぶりに、チョコレートを食べたいだと・・・?
オレ達皆がベルトルッチさんに手を振ると、どうやら各々同時に会話をしていたらしい。
途中、佐藤さんがオレの汗を拭いてくれたのは、そちらの会話中に汗拭いてあげてと言われたからだそうだ。
神様のマルチタスク会話凄すぎだろう。
リューシャは最近あった話をしていた様で、佐藤さんはオレの話を少しだけして、後は故郷の話をしていたそうだ。
クラウスさんは、何故か少し照れていた。
何を話していたんだろう。
そうしてオレ達は再びポーさんに乗せてもらい、やはりあの凄まじいスピードで、イリアさんやエマヌエルさんの待つお家に帰った。
対風結界があっても怖いものは怖いよね・・・。
そうして家に着くと、リューシャの妹のセシリアちゃんが丁度帰ってきた所だったので、ご挨拶をした。
セシリアちゃんは、エマヌエルさんによく似ていた。
「皆お帰りなさい。セシリーも帰ったのね、ちょうど良かったわ。
お夕飯にしましょう!」
そう言って帰りを待ってくれていたエマヌエルさんが、温かく家に迎え入れてくれた。
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